編集長が語る!講義の見どころ
東京五輪の直前に、あらためてその意義を考える【テンミニッツTV】
2021/07/13
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
東京オリンピックの開幕まで、あと2週間を切りました。あまりにも対応が右往左往し、開催の是非などばかり論じられたせいか、「本当に五輪が始まるのだろうか……」と、ついつい思ってしまう方も多いかもしれません。
本日は、東京都知事もお務めになって五輪招致を進められた作家の猪瀬直樹先生の講義を紹介いたします。猪瀬先生は、さまざまな問題や疑惑が指摘された招致活動の内幕から、日本人がオリンピックにあたって考えるべき大切なことまで、とても率直にお話しくださっています。
◆猪瀬直樹:東京五輪を考える(全3話)
(1)人の意識は変わっていく
選手の活躍でオリンピックへの支持が高まるのは健全なこと
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4081&referer=push_mm_rcm1
この全3話でいちばん大切なメッセージは、最終話(第3話)の最後の部分で猪瀬先生がお話しになっている、次のメッセージではないでしょうか。
《この間テレビで、「選手団や随行者(コーチ)などが7万8000人来て、その人たちに(新型コロナウイルスを)うつされる」というんだよね。「うつされる、うつされる」とばかりいっていて、「こちらからうつすな」ということなんだよね。で、ボランティアの人に、もっと(ワクチン)注射を打たなくては。なんで、ボランティアの人たちへの注射が遅れているのよ。だから、そういうことが大事ですよね。お迎えするんだから。
なにか「鎖国の感情」のようなものが、ちょっとあって。異人さんを追い払うというような、そういう感じの雰囲気があるけれども、そうではなくて、やっぱり、おもてなしするというのが大事ですね。「道義」の問題ですから》
「道義」の問題――まさに開催国として各国選手団を迎えるにあたり、そこだけは絶対に欠かしてはならないはずです。
「コロナ感染が広がるなかで本当に開催すべきか」と、その是非を論じることは、民主主義国として、ごく当たり前のことともいえます。しかし、「来る人たちからうつされる」ということばかりを強調するのは、五輪開催国として、たしかに道義的にどうかと思います。むしろ猪瀬先生がおっしゃるように、ボランティアの方々へのワクチン注射が遅れていることをはじめ、日本側の感染対策が後手に回っていることこそ問題でしょう。
猪瀬先生は、東京や大阪など大都市部の感染が急速に拡大しているところにこそ、集中的にワクチンを分配すべきだったと、本講義のなかで指摘されています。コロナ封じ込めのために、それも一理ある考え方です。もちろん、「大都市偏重」「地方の切り捨て」という批判も上がることでしょう。しかし、そこで猪瀬先生のように「消化器のノズルは、火が燃えさかっているところに集中しなければ」という理屈を、どの政治家も発することができなかったのでしょうか。
さらにいえば、本講義からは少し外れますが、「日本のワクチン開発が、なぜ遅れたのか」、「そもそも、国民の大多数が納得できるような緊急事態宣言の科学的根拠や基準を、一向に示せないのはなぜか」、「非常事態法制が整わない日本では最後の手段であったはずの『緊急事態宣言』への信任が、ここまで低くなってしまった責は誰が負うのか」など、日本のコロナ対策の問題点は、いくつもいくつも浮かんできます。
そのような失態を招いてしまった原因の1つとして、日本の組織にどのような問題があるのかも、ぜひ考えなければならない課題でしょう。そのことを考察するうえでも、本講義で猪瀬先生が赤裸々に語る「五輪組織委員会の失敗の研究」は、やはり考えさせられることの多い問題提起です。日本の組織の問題点の検証は、歴史的課題としてきちんと進められるべきではないか。その思いを強くします。
また、猪瀬先生がおっしゃる「少子高齢化社会・日本におけるスポーツの意義」も、あらためて考えるべき課題でしょう。「平均寿命と健康寿命の差が、日本では10年近く開いている。これはつまり、健康ではない10年を過ごさざるをえない人が多いということだ。日本でスポーツをもっと振興して、健康寿命をもっと引き上げるべきだ」と、猪瀬先生は招致活動のなかで訴えたのでした。
いま現在、コロナ禍のなかでは、「高齢者のスポーツ」といっても、なかなかピンとこないかもしれません。しかし逆に、コロナ禍で運動をする機会が減ってしまった人も増えているなか、今後、ますます重要になってくる課題であるはずです。
そのようなプラスのメッセージも何ら打ち出せず、ただただオリンピックへの反感を煽るような報道が続き、茫漠たる雰囲気のなかで五輪が始まっていく……。なんとも、いわく言い難い状況になってしまっていますが、だからこそ、五輪招致を進めた猪瀬先生の話を、いま、このタイミングで聞くことは、とても重要なことだと思います。
五輪賛成の方も、五輪反対の方も、ぜひ本講義をご覧いただき、日本の課題について考えるきっかけとしていただければ幸いです。
(※アドレス再掲)
◆猪瀬直樹:東京五輪を考える(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4081&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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「日本の社会が崩れつつあるとしたら、『日本人は何か』ということをもう一度、定義する必要がある」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3861&referer=push_mm_hitokoto
なぜ「やる気のある社員」が日本では6%しかいないのか?
田村潤(元キリンビール株式会社代表取締役副社長/100年プランニング代表)
要は、“キリンらしさ”を取り戻したのです。なぜなら、“キリンらしさ”があったからお客様に支持され、お客様との関係があった。それをもう一度取り戻そう、と。「キリンとは何か」「キリンの良さは何なのか」について考え続けました。私が行ったのは、それを発見し、定義して、強化していくという作業だったのです。
これを先ほどの話に戻すと、日本の社会が崩れつつあるとしたら、「日本人は何か」ということをもう一度、定義する必要があると思います。
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今週の人気講義
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「不便益」とは何か――便利の弊害、不便の安心
川上浩司(京都先端科学大学教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3968&referer=push_mm_rank
「人間圏」が新たに主流となった地質時代が人新世
長谷川眞理子(総合研究大学院大学長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4059&referer=push_mm_rank
明治維新の事実を知ることに、どんな意味があるのか?
島田晴雄(慶應義塾大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2587&referer=push_mm_rank
「観想念仏」から「口称念仏」へ、法然の革命性に迫る
頼住光子(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4066&referer=push_mm_rank
記憶に関係する「海馬」も再生!?~運動の意外な効果
堀江重郎(順天堂大学医学部大学院医学研究科 教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=745&referer=push_mm_rank
※補足:頼住先生の「頼」は、実際には旧字体です
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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて最近、『成熟脳』(新潮文庫)という本を読み始めています。著者である黒川伊保子氏は『妻のトリセツ』をはじめ、トリセツシリーズがベストセラーになっている方ですが、なぜこの本を読み始めたかというと、実は「脳の本番は56歳から始まる」というサブタイトルに惹かれたからです。
『成熟脳―脳の本番は56歳から始まる―』(黒川伊保子著、新潮社)
https://www.shinchosha.co.jp/book/127955/
そこでふと思い出したのは、童門冬二先生(作家)によるシリーズ講義<「50歳からの勉強法」を学ぶ>。
◆童門冬二:「50歳からの勉強法」を学ぶ (全6話)
(1)大人の学びの心得三箇条
50歳からの学びは「発見」と「総点検」である
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3383&referer=push_mm_edt
「人生100年時代」といわれる現在、50代というのは折り返し地点にちょうど立った年代ともいえます。ということは、人生はまだまだあと半分残っており、しかも「脳の本番」はその年代から始まるとなると、童門先生の講義はまさにもってこいの講義ではないか。そう考えると、50代から学ぶことの意味は大きく、その大事さを改めて感じた今日この頃です。
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