編集長が語る!講義の見どころ
日本企業の「戦略」の何が間違いだったのか?(田村潤先生)【テンミニッツTV】
2021/09/07
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
昨日は、東証株価指数が一時、バブル期以来の高値となったというニュースが流れました。とはいえ、日本経済に、昔日の勢いはなかなか感じられません。かつて世界を圧倒した多くの名だたる日本企業が、いまやどことなく世界的な競争力を失っているようにも思われます。
なぜそうなってしまったのでしょうか。何か大きな「企業戦略の失敗」があったのではないでしょうか。
本日は、そのことについて様々な考えをめぐらせることができる講義を紹介します。元キリンビール副社長兼営業本部長でいらっしゃった田村潤先生の講義です。田村先生は『キリンビール高知支店の奇跡』(講談社+α新書)を発刊されていますので、ご存じの方も多いかもしれません。
田村先生はキリンビールに入社後、労務畑をスタートに社歴を重ねますが、左遷的な人事で1995年に高知支店長に赴任。折しも、アサヒビールの「スーパードライ」が大ヒットとなり、キリンが追い詰められた時期でした。高知支店で大いに苦労されますが、しかしそこで「理念経営」の重要性を体得され、一気にシェアを奪還。その後、各地区本部長を経て、2007年に代表取締役副社長兼営業本部長に就任。2009年にはキリンビールのシェアの首位奪回を実現されたのでした。
営業現場の苦しみも醍醐味も経験された田村先生から、日本企業の戦略の是非はどのように見えるのでしょうか。
◆田村潤:営業から考える企業戦略(全6話)
(1)成功するブランド戦略とは?
ブランド力を高めるために「自社の強み」を徹底的に聞け
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4084&referer=push_mm_rcm1
講義のなかから印象深いご指摘を紹介しましょう。たとえば第2話で、田村先生は次のようにおっしゃいます。
《一橋大学の野中郁次郎先生が、日本企業の不振の原因は「オーバーコンプライアンス」「オーバーアナリシス」「オーバープランニング」だとおっしゃっていました。私が講演するとき、時々このワードを借りてお話しします。これが一番ウケます。皆が目を輝かすのです。つまり、日本のビジネスマンが一番苦しんでいるのは、この問題なのです》
ここは、膝を打つ方も多いのではないでしょうか。どうにも「仕事のための仕事」ばかりになってしまってはいないか……。
田村先生は、「データはどんどん過去のものになっていく。つまり、過去のわれわれのアクションの結果で分析しているに過ぎない。であれば、それを基に将来を予測するのは、あまりにおかしくないか?」とおっしゃいます。まさに、そのとおりでしょう。
では、正しい判断はどうすれば得られるのか。ここで田村先生は「直観」「無意識」の大切さを説かれます。「そんな非科学的な!?」と言うなかれ。田村先生のお話を聞くと、とても合理的な手法であることが、よく理解できます。その内容は……ぜひ講義本編をご覧ください。
もう一つ、田村先生のお話で印象深い部分として、「シェア軽視の高付加価値経営は、致命傷になりかねない」というご指摘があります。
1990年代後半から「高付加価値経営」「プレミアム戦略」などということがいわれました。低価格の商品は、韓国や中国など発展してくる国々の企業に勝てない。日本企業は、より高付加価値名商品をつくって道を切り開くべきだという発想です。
しかし、その結果どうなったでしょう。一番、顧客の多い安い製品で勝負しないと決めたために、結局、日本企業が弱体化していったのではないでしょうか。
田村先生はこうおっしゃいます。
《安いモノが必要とされているところに安く作って提供し、そこに住む人々を幸せにするという理念を捨てたのです。あまり儲かりそうもない分野は切り捨てる。それによって、企業体質が弱くなりましたね。なぜなら安く作るという技術を諦めてしまったのですから。これは、かなり致命的です》
急激な円高など「六重苦」といわれた状況に対応しきれない部分もあったことは確かでしょう。しかし、それでも「高付加価値経営」的な発想は、安易な逃げ口上だったのではないか。
田村先生はここで、「シェアが上がるというのはお客様に喜んでもらえた指標である。徹底的にやり抜かなければ、戦略が成功か失敗かがわからない」「利益率を求めるのではなく、利益額で考えよ」「不利益部門を安易に切り捨てることは、結局は会社を弱くする」とおっしゃいます(第5話)。それらがどういうことかも、ぜひ講義本編をご覧ください。
安易な思い込みや、ブームのような経営論は、実は間違いなのではないか。そのことは、よくよく考えておくべきでしょう。田村先生が「適切な手を打つためには、リベラルアーツが大切」と強調されるゆえんです(第6話)。
上記に挙げた以外のポイントも含め、数々の大切な気づきが得られる講義です。ぜひご覧ください。
(アドレス再掲)
◆田村潤:営業から考える企業戦略(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4084&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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「一つ一つを丁寧に」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4107&referer=push_mm_hitokoto
『論語と算盤』に多用されている『論語』の「忠恕」とは
田口佳史(東洋思想研究者)
私がいつも思っているのは、ああ、渋沢は孔子という人に範を求めているのだなあ、ということです。『論語』に範を求めるというよりも、『論語』を通り越して孔子に模範を求めている。孔子を手本として生きた人なのだということがよく分かるところ。それでなければこういうところを非常に尊重して挙げるということはなかなかないと思うのです。
「一つ一つを丁寧に」という渋沢の生き方も、彼が『論語』の中から学んだといっていいことだと思います。
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今週の人気講義
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なぜ雄と雌はいるのか、LGBTについて進化生物学から考える
長谷川眞理子(総合研究大学院大学長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4130&referer=push_mm_rank
お母さんが揺るがないことが男の子の子育てにはとても大事
黒川伊保子(株式会社感性リサーチ 代表取締役社長/人工知能研究者/随筆家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4139&referer=push_mm_rank
「観想念仏」から「口称念仏」へ、法然の革命性に迫る
頼住光子(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4066&referer=push_mm_rank
※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体
東條内閣の官僚・山崎丹照が構想した強力政治実現への改革
片山杜秀(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4125&referer=push_mm_rank
日本のEV普及が遅れているのはメーカーだけの問題ではない
猪瀬直樹(作家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4146&referer=push_mm_rank
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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて一昨日(9/5)、パラリンピックが閉幕しました。車いすテニスで国枝慎吾選手が2大会ぶりの金メダルを獲得しましたが、皆さま、その様子をご覧になられたでしょうか。
決勝の試合が終わったあと、こらえきれず目頭を押さえながら涙を流していたのがとても印象的でした。
先月この場で車いすについての講義を紹介しましたが、そこで取り上げた国枝選手の活躍に胸が熱くなりました。
今回はその講義をもう一度紹介したいと思います。ぜひご視聴ください。
海外と日本では車いすのイメージが違う
村田知之(神奈川県総合リハビリテーションセンター 研究部リハビリテーション工学研究室研究員)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2793&referer=push_mm_edt
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熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質
テンミニッツ・アカデミー編集部
「ブッダに帰れ」――禅とは己事究明の道
藤田一照