編集長が語る!講義の見どころ
渋沢栄一は『論語』をいかに活かしたか(田口佳史先生)【テンミニッツTV】

2021/09/28

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。

オリンピック、パラリンピックで中断していたNHK大河ドラマ「青天を衝け」が再開され、時代も幕末から明治に入りました。いよいよ渋沢栄一の近代国家づくりへの貢献、そして「日本資本主義の父」としての活躍が始まります。

渋沢栄一といえば「論語と算盤」という言葉が有名です。「道徳と商業の利潤を調和させる」という意で解釈されます。では、渋沢が重視した「論語=道徳」の中味とはどのようなものだったのでしょうか。

これは、『論語』に親しんでいるとはいえない現代人にとっては、なかなか理解が難しいことかもしれません。しかし、まさに日本の資本主義の源流ともいうべき、この渋沢の精神を理解しないことには、日本のあるべき姿も見えてこないのではないでしょうか。

ここで、ぜひご受講いただきたいのが、本日紹介する田口佳史先生(東洋思想研究者)の講座です。田口先生は、東洋思想の書籍を多数発刊されていますが、『論語』をはじめとした儒教の書、さらに『老子』『荘子』などの老荘思想、さらには神道の思想から日本仏教の思想まで、幅広く研究され、それを現代に即してとてもわかりやすく説いてくださる第一人者でいらっしゃいます。

◆田口佳史:渋沢栄一の生涯と教養としての『論語』(全9話)
(1)農業経営者としての渋沢家
新1万円札の顔・渋沢栄一の知られざる生い立ちに迫る
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4101&referer=push_mm_rcm1

この講座の第1話から第4話までは、渋沢栄一の生涯のご解説になります。
渋沢が、まさにアヘン戦争の年(1840年)に生まれたこと。藍や絹に携わったことの意味。若いころ、代官から分担金を要求されたときの理不尽な思い。さらに渋沢と『論語』の出会い……。そのようなことが、手に取るようにわかります。

しかし、なんといっても講座の白眉はその先、『論語』や儒教を、渋沢栄一がどのように理解し、どのように活かしていったかが説かれる第5話以降の部分にあります。

とてもわかりやすくご解説いただいていますが、内容が充実しすぎていて、この小欄で紹介しきることは到底できません。試しに、一つだけ紹介しましょう。『論語』がなぜ「解決策」に富んだ書なのかについてです。

儒教では、「修身、斉家、治国、平天下」と説かれます(『大学』)。これは、《「平天下」(天下泰平)のためには、何といっても「治国」(国が治まる)がなければ駄目だ。「治国」のためには、国の単位である家が斉(ととの)っていなければ駄目だ。家が斉うためには一人ひとりの人間の身が修まっていなければ駄目だ》ということを意味します。

この考え方こそが、「自責」の精神につながり、すべての解決策の源になるのだと、田口先生は第5話で次のようにお話しくださいます。

《身が修まるというのは、自分の身分が修まるという意味でもありますから、要するに役割を指します。父親は父親の役割、母親は母親の役割、子どもは子どもの役割というものがちゃんと果たされているかどうかというのが、「身が修まる」ということです。

 そうなると、帰するところは全て自分です。『論語』というものはいろいろなことを説いているのですが、帰するところは全て自分なのです。ですから、迷うことがない。解答のないものがない。全部自分に帰ってくるわけだから、自分からやればいいわけです。

 ですから、『論語』を読んでいると、どうしても「他責」というものがなくなってきます。「あいつが悪いから、自分はうまくいかないんだ」と言って、何でも他のせいにする。中には、「時代がいけないんだ」とか「会社がいけないんだ」と言って、みんな他責にしてしまう。これは結局「隣の彼が悪い。そのために自分が不幸なのだ」ということで、隣の彼がそれをよく知って、改めてくれるまで自分は不幸だということになります。

 そうではなくて、「全て物事(の責任)は自分にある」というのが自責です。自責と捉えた瞬間に、「自分が改めればいい」「自分がやればいい」ということになるので、解決策はすぐに出てきます。

 『論語』では実は「根源」を説いていて、根源を説いているからこそ解決策がすぐ出てきます。解決策がよく分からないような概念的・概論的なことは一つも書いていません。非常に具体的なもので、「あなたの気持ちの、こういうところがよくない」とか「こういう態度だからいけない」と、具体的で非常に厳しい指摘がどんどんなされるのが『論語』です》

このような、スッと心に染み込んでくるお話しが続きます。しかも、『論語』の原文を読み解いていただきつつ、話が進んでいくので、理解がさらに深まります。

取り上げていただいているテーマは以下のように多岐にわたります。

・仁と義
・義を見てせざるは勇なきなり
・渋沢が『論語と算盤』で最も多くとりあげた「忠恕(ちゅうじょ)」
・一つ一つを丁寧に生きること
・關雎(かんしょ)は楽みて而も淫せず。哀みて而も傷(やぶ)らず
・巧言令色、鮮(すくな)いかな仁
・死して後に已む
・渋沢栄一が考える「起業するときの4つのチェックリスト」……など

田口先生は、本講座を通じて「座右の書」を持つことの意味を教えてくださいます。まさに渋沢の考え方や哲学を、深く理解することができる必見講座です。ぜひご覧ください。

(※アドレス再掲)
◆田口佳史:渋沢栄一の生涯と教養としての『論語』(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4101&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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「人間の力の及ぶところは限界があるので、その先は自然に任せるしかない」

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2220&referer=push_mm_hitokoto

東洋では西洋と違い、自然の力を重視する
大久保喬樹(東京女子大学名誉教授)

西洋の場合であれば、例えば画家は画面全部を塗りつぶすし、運動選手は自分の力で相手を倒そうとする。東洋では、それが反対であり、要するに人間の力の及ぶところは限界があるので、その先は自然に任せるしかない。それが、ちょうど老子の言う瓶のようなものである。先ほどの茶室もそうですが、東洋においては西洋と反対に、自然の力を重視することが大切だと、(岡倉)天心は言っているのです。


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今週の人気講義
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10分でわかるエネルギー問題
小宮山宏(東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4177&referer=push_mm_rank

10分でわかる「最高の睡眠」
西野精治(スタンフォード大学医学部精神科教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4157&referer=push_mm_rank

家族の対話は問題解決型ではなく、「心の対話」をすべし
黒川伊保子(株式会社感性リサーチ 代表取締役社長/人工知能研究者/随筆家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4142&referer=push_mm_rank

政治や経営の「名人」を輩出するために
松下幸之助(パナソニック<旧松下電器産業>グループ創業者)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1103&referer=push_mm_rank

世界の神話の中で異彩を放つ日本神話の世界観
鎌田東二(京都大学名誉教授/上智大学大学院実践宗教学研究科特任教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4169&referer=push_mm_rank


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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、本日は9月17日から配信が始まっった為末大先生(一般社団法人アスリートソサエティ代表理事/元陸上選手)の新シリーズ講義「生き抜くためのチカラ~為末メソッドに迫る」 (全6話)を取り上げたいと思います。

◆為末大:生き抜くためのチカラ~為末メソッドに迫る (全6話)
(1)自分の道を見つけるために
為末メソッドに学ぶ「自分の人生を見つけるヒント」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4163&referer=push_mm_edt

本日(9/28)時点で第3話まで配信中ですので、すでに多くの方がご覧になっていると思いますが、まだこれからという方のために、その内容について少々お伝えいたします。

この講義は、為末先生の著書『生き抜くチカラ: ボクがキミに伝えたい50のことば』『為末メソッド 自分をコントロールする100の技術』(いずれも日本図書センター)に込められたメッセージのなかから、特に次代を担う子どもたちのために大切なものをいくつか取り上げて、その詳細についてお聞きした内容になっております。

なかでも私が個人的に興味深いと感じたのは、「幸せの鍵は『なにげなさ』にある」というメッセージです。
具体的には10月1日(金)配信予定の第4話でお話されていますので、ぜひそちらをご視聴いただければと思いますが、ここで簡単にお伝えいたします。

私たちはいま、競争や勝負などが避けられない現代社会に生きています。そうした揺れ幅の大きいもののなかにいる私たちにとって大事なのは、「風に吹かれて気持ちいいな」といったような「なんかいいな」くらいの揺れ幅のものをしっかりと担保することである。そうした意味が込められたメッセージで、この「なんかいいな」というものを為末先生は「なにげなさ」と表現しているのです。

ということで、本編ではどのメッセージについても詳しくお話しされていますので、ぜひご視聴ください。