編集長が語る!講義の見どころ
渋沢栄一の「悔し涙演説」と日米開戦(渡部昇一先生)【テンミニッツTV】

2021/12/07

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。

いうまでもなく、12月8日は日本が真珠湾を奇襲攻撃した日。今年は80年目となります。今からすると意外かもしれませんが、この対英米戦の開戦時、真珠湾攻撃の勝報を聞いて「胸のつかえが下りた」と感じ、快哉(かいさい)を叫んだ日本国民は、けっして少なくありませんでした。

なぜ日本は戦争へと向かったのか。そして、なぜ多くの国民が戦争で「胸のつかえが下りた」と感じたのか。

本日はそのことを考える講義を紹介いたします。大正13年(1924年)、アメリカで「排日移民法」が成立した直後に、渋沢栄一が行なった演説について、渡部昇一先生が紹介してくださった講義です。

このとき渋沢は、悔し涙を流しながら、「あまりに馬鹿らしく思われ、社会が嫌になるくらいになって、神も仏もないのかというような愚痴さえ出したくなる」と語り、また幕末に自分自身が攘夷運動に燃えていたことを振り返りつつ「七十年前にアメリカ排斥をした当時の考えを、思い続けていたほうがよかったかというような考えを起こさざるをえないのであります」と述べたのです。

渋沢栄一は今年の大河ドラマの主人公ですから、その彼が何に怒り悲しみ、実際にどのような演説をしていたかを知ると、きっと当時の日本の雰囲気がよく理解できるはずです。

渡部昇一先生のこの講義シリーズは、とある勉強会を収録したもので、その後、その講義録に大幅に加筆して、単行本となりました。講義のテキスト(動画の下に文章が掲載されています)には、その加筆後の文章を掲載しています。

そのため講義の動画のなかで渡部先生は、渋沢が悔し涙を流して語った部分についてのみ言及しておられますが、テキストでは、渋沢の演説をかなり長い引用で紹介されています。

ぜひ本講義はテキストもご覧ください。渋沢がいかに日米の関係改善のために骨を折ったのか、そしてアメリカの排日移民法にいかなる衝撃を受けたのかが、具体的にまっすぐ伝わってきます。

◆渡部昇一:本当のことがわかる昭和史《6》人種差別を打破せんと日本人は奮い立った(全14話)
(3)渋沢栄一の「悔し涙」演説
アメリカの排日移民法…なぜ渋沢栄一は悔し涙を流したか
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=986&referer=push_mm_rcm1

以下、講義テキストをベースに紹介いたしましょう。

渋沢栄一は、この演説の引用部分で、まず自身の若き日々を回顧します。なぜ攘夷運動に身を投じたのかについての話は、自分自身の思いも含めて語っているだけに、幕末の日本人が、アヘン戦争などの動きにいかに怒りを沸騰させたかがよく伝わってきます。

続いて渋沢は、フランスに留学して攘夷論の夢から醒め、アメリカとの交流にも力を尽くしたことを語っています。当時、多くの日本人がアメリカに移民しました。

しかし、日露戦争のあと、カリフォルニア州をはじめ各州で、日本人排斥運動が起きます。

その動きを知ったときの感情について、渋沢は《なぜに白人は外国人を嫌うのか。東洋人だから嫌うのか、日本人だから嫌うのかと思うと、再び昔時の感想を思い起こさざるをえないのでありました》と振り返っています。やはり、自分たちに向けられた「人種差別」に大きな怒りを覚えたのです。

とはいえ渋沢は挫けず、関係改善に向けて、なお努めます。自身でアメリカにも赴き、日米の実業家を中心に「日米関係委員会」という団体も設立しました。

ところがなおも日本人排斥は続き、遂に排日移民法が可決。このメールで最初に紹介した「悔し涙演説」の部分に至るのです。しかし、その箇所のあとで、なお渋沢は希望を述べて、演説を締めくくっています。

当時の日米関係の経緯が、とてもよくわかる名演説です。

この演説が行なわれたのは、日米開戦の17年前。その後も渋沢は、「青い目の人形」で知られる日米の人形交換の取り組みを大いに支援するなど、日米関係の改善に力を尽くしますが、昭和6年(1931年)に満91歳で逝去。それから10年で日米開戦を迎えることになるのです。

この渋沢の演説を読むと、多くのことを考えさせられます。渡部昇一先生のご指摘のとおり、当時の日本人が抱いていた「人種差別」「排斥」への怒りがわからないと、当時の日本人の想いも理解できないのでしょう。ぜひご一読ください。

なお、この講義シリーズでは、渋沢栄一が日本の資本主義確立に果たした役割の大きさから、「ガッツ」の必要性、さらに戦時中に日本人が抱いた思いまで、多くのことを語っていただいています。ぜひ本シリーズのほかの講義もお目通しいただければ幸いです(PCでご覧の場合は講義テキストの右横に、スマホでご覧の場合には講義テキストの下に、この講義シリーズのほかの話へのリンクが置かれています)。


(※アドレス再掲)
◆渡部昇一:本当のことがわかる昭和史(6-3)渋沢栄一の「悔し涙」演説
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=986&referer=push_mm_rcm2


----------------------------------------
☆今週のひと言メッセージ
----------------------------------------

《屋外の活動と近視は逆の相関がある》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1624&referer=push_mm_hitokoto

増える子どもの近視。原因と予防法を徹底解説!
大鹿哲郎(筑波大学眼科教授)

最近エビデンスとして確立しつつあるのは、屋外の活動と近視は逆の相関があるということです。つまり、外で遊ぶ時間が多い、屋外活動が多い子どもほど、近視になりにくいということです。これがいろいろな研究で報告されています。

例えば、2015年の中国の研究ですが、一つのグループに1日40分、屋外で遊ぶ時間を追加すると、そのグループでは近視の進行が遅かったという研究結果が報告されました。また2016年のイギリスの研究(疫学研究)では、何十年かさかのぼって、太陽光(特に紫外線B波)に長い時間当たった人たちの群が、近視になりづらかったという報告も出ています。


----------------------------------------
今週の人気講義
----------------------------------------

ハローワークでの衝撃「50歳を過ぎたら1年ごと仕事が…」
江上剛(作家)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4251&referer=push_mm_rank

10分でわかる「最高の睡眠」
西野精治(スタンフォード大学医学部精神科教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4157&referer=push_mm_rank

イーロン・マスクとジェフ・ベゾスの「宇宙競争」とは
島田晴雄(慶應義塾大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4266&referer=push_mm_rank

10分でわかる「不動産投資の罠」
河合弘之(さくら共同法律事務所 所長・弁護士)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4273&referer=push_mm_rank

「不便益」として認定するための3つの条件
川上浩司(京都先端科学大学教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3971&referer=push_mm_rank


----------------------------------------
編集後記
----------------------------------------

今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて先週の金曜日に特集<令和3年人気ランキングBest10>が始まりましたが、いかがですか。

◆特集:令和3年人気ランキングBest10
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=144&referer=push_mm_edt

今年1月から11月までの人気ベスト10を集めた特集ですが、まだこれから観るという方はぜひアクセスいただき、どのような講義がラインナップされているか、確認いただければと思います。

ここでは惜しくもその選に漏れた講義のなかから以下のシリーズ講義を取り上げたいと思います。

◆津崎良典/五十嵐沙千子:「教養とは何か」を考えてみよう(全15話)
(1)「あの人って教養あるよね」とは
「哲学カフェ」再現講義第二弾「教養とは何か」語り尽くす
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3986&referer=push_mm_edt

先週のメルマガでもお伝えしましたが、このシリーズ講義の1話目が人気ランキング第15位の講義です。この講義ももちろん見逃せない内容ですが、今回特にお伝えしたいのは以下、第14話です。

デカルトはなぜ「学ぶ人は一人にしては駄目」と言ったのか
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3999&referer=push_mm_edt

「誰かと一緒に学んでいく。それは読書であるかもしれないし、授業に出ることであるかもしれないけれども、そうするなかで、いろんなことに応用可能な能力がつく。ルソーが読めるんだったら他の哲学書も読めるようになるという、可塑的な能力ですね」

ということで、皆さまの「可塑的な能力」のため、テンミニッツTVがお役に立てるよう、これからも励んでまいります。どうぞよろしくお願いいたします。