編集長が語る!講義の見どころ
多様性・ダイバーシティの本質と未来(特集&鄭雄一先生)【テンミニッツTV】

2022/01/07

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

本日は、「多様性」について考える特集と講義を紹介いたしますが、その前に、今週の日曜日からスタートするNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(三谷幸喜さん脚本)がさらに楽しくなり、鎌倉幕府誕生の背景を詳しく知ることができる講座の告知をさせていただきます。

「鎌倉殿の13人」の時代考証をお務めの坂井孝一先生(創価大学文学部教授)の「鎌倉殿と北条氏」講座が、来たる日曜日(1月9日)から配信されます。第1話は「10分でわかる『鎌倉殿と北条氏の関係』」。

現時点では配信しておりませんので、講義のURLはこのメールではご紹介できませんが、ぜひ、1月9日(日)に、テンミニッツTVのサイトを開いていただければ幸いです。大河ドラマを楽しく見ることができる「予習」として最適です!(全9話予定で毎週日曜配信です)

さて、「多様性」です。

近年、「多様性」「ダイバーシティ」が、とみに強調されるようになりました。もちろん多様性が重要なことはいうまでもありませんが、あらためて「なぜ多様性が大切なのですか?」「どうやって多様性を実現するのですか?」と聞かれると、案外、考え込んでしまうかもしれません。

本日は、このことについて、さまざまな考えることができる講座を集めた特集を紹介いたします。

■本日開始の特集:多様性の時代~ダイバーシティの本質と未来~

「多様性」「ダイバーシティ」とは何でしょうか。国籍や人種、ジェンダーのことだけを思い浮かべるのは、やはり、やや浅薄でしょう。いまや全世界に広がるその考え方の本質と今後について考えてみたいと思います。

https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=148&referer=push_mm_feat

鄭雄一:多様性の時代に必要な道徳とは…科学的アプローチで考える

長谷川眞理子:なぜ雄と雌はいるのか、LGBTについて進化生物学から考える

楠木建:多様性マネジメントと経営人材不足というグローバル化の壁

小林りん:10分でわかる「人材育成の要点」

江渡浩一郎:ダイバーシティとブレークスルーには相関がある

田口佳史:縄文文様が表わすヘビや渦巻きに託された意味


■講座のみどころ:多様性の時代に必要な道徳とは(鄭雄一先生)

本日は、特集のなかから鄭雄一先生(東京大学大学院工学系研究科バイオエンジニアリング専攻教授)の「道徳と多様性」の講義を紹介いたします。

なぜ、多様性を実現するのに、道徳を考えなくてはいけないのでしょうか。鄭先生は次のように指摘されます。

「他の国に行ったり、他の分野に行ったときに、自分の道徳体系がそのまま当てはまるのかということは、実は自明ではない」

たしかに下手をすると、個々の道徳が、多様性の実現を妨げることがあるかもしれません。

この多様性と道徳の問題について、科学者である鄭先生は、科学的なアプローチで考えてみるとおっしゃいます。

◆鄭雄一:道徳と多様性~道徳のメカニズム(全6話)
(1)既存の道徳の問題点
多様性の時代に必要な道徳とは…科学的アプローチで考える
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1544&referer=push_mm_rcm1

なぜ、道徳を科学的なアプローチで考えてみるのか。それは、これまでの道徳をベースにすると、最後はどうしても自分たちが慣れ親しんだ何とか主義、何とか教、何とかイデオロギーに帰結してしまうからだといいます。では、どのように考えるのか。

鄭先生は、以下の6つの項目に沿って思考していきます。

(1)既存の道徳の問題点は何か
(2)過去の道徳思想はどうなっているか
(3)道徳に基本原理はあるのか
(4)道徳は動物にもあるのか
(5)道徳とことばの関係は?
(6)未来に向けてどう生きるべきか

なかなか大きなテーマで、こう列挙されると尻込みしてしまいそうですが、この講義では鄭先生がわかりやすく議論を進めてくださいますので、スッと頭に入ってきます。

まず鄭先生が提起されるのは、「誰が、なぜ、殺人はいけないと決めるのか?」「なぜ戦争や死刑では殺人が許容されるのですか?」「人類全体に共通の道徳原理はないのか」という問いです。これはなかなか難しいものですが、段階を追ってお話しくださいますので、納得しながら思考を進めることができることでしょう。

ここで鄭先生が提示するのは、「グローバリゼーションを裏づける道徳体系がない」ということです。これはとても興味深い問題設定です。

さらに鄭先生は、過去の道徳について振り返ります。ここでは「社会に重点を置く道徳モデル」「個人に重点を置くモデル」という対比で語られますので、頭のなかに明確な座標軸を組み上げることができます。

ところが、それを整理したうえで鄭先生は主張されるのは、「社会に重点を置くモデルも、個人に重点を置くモデルも、多様性と道徳を両立できない」ということです。それがなぜかは、ぜひ講座本編をご覧ください。

そのように指摘されたうえで、鄭先生は「道徳に基本原理はあるのか」という問いに進まれます。鄭先生は、様々な宗教の戒律(具体的な掟)を調査しました。各宗教ともに共通して、「人を殺してはいけない」「盗んではいけない」「だましてはいけない」などと訴えています。

しかし、それが全然守られていない局面がある。それこそ、戦争や死刑です。この分析から鄭先生は「道徳とは仲間同士の内輪の掟であり、非仲間には適用されない」ということを導き出していきます(第3話)。

その後、動物と人間の道徳の違い、さらに道徳とことばの関係、道徳とバーチャルの関係について考究が進み、「われわれがアプローチすべきなのは、道徳が適用される範囲をどれだけ広くできるか」という「道徳の要諦」が提示されます。

本講座では、そのための具体的な方法についての考えも積み重ねられています。とにかく、思考の流れそのものを追っていくのが楽しく心地よい内容ですので、ぜひ本編をご覧くださいませ。


(※アドレス再掲)
◆特集:多様性の時代~ダイバーシティの本質と未来~
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=148&referer=push_mm_feat

◆鄭雄一:道徳と多様性~道徳のメカニズム(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1544&referer=push_mm_rcm2


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レッツビギン! 穴埋め問題
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今回は「ダイナミック・(    )」についての問題です。ではレッツビギン。

21世紀という変化の時代に必要なのは、これまでの境界を突破していく力ではないか。そこで「越境力」という話をさせていただきたいと思います。その越境力を、もう少し経営学的に表現したものが、「ダイナミック・(    )」という概念です。

さて(    )には何が入るでしょう。答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1404&referer=push_mm_quiz


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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

皆さま、新年はどんな過ごし方をされましたか。お正月の期間を活用して、テンミニッツTVの講義のなかで気になった講義をご覧になったという方、ありがとうございます。今年も皆さまの学びの一助となる、興味深い、刺激的な講義を収録・配信してまいります。乞うご期待ください。

さて今回は個人的な話で恐縮ですが、私がこのお正月に読んだ本を紹介いたします。

『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』 (帚木蓬生著、朝日選書)
https://www.amazon.co.jp/dp/4022630582/

2017年に発刊された本ですが、2021年10月時点で14刷となっており、新聞各社などで取り上げられた注目の一冊です。私が興味を持ったのは「ネガティブ・ケイパビリティ」という考え方です。それに関する部分を本書から引用します。

《ネガティブ・ケイパビリティとは、「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力」をさします。(中略)私たちの人生や社会は、どうにも変えられない、とりつくすべもない事柄に満ち満ちています。むしろそのほうが分かりやすかったり処理しやすい事象よりも多いのではないでしょうか。だからこそ、ネガティブ・ケイパビリティが重要になってくるのです。》

私たちは一昨年、昨年とコロナ禍を経験し、いまだ完全に乗り越えたとはいえないのが現状です。そのようななか、世界中で格差が拡大し、また地球規模で見ると、温暖化が進み、毎年のように異常気象ともいえる自然災害による被害が大きいものになっています。
こうした混沌とした、まさに自分一人では「どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態」のなかに生きている私たちだからこそ、ネガティブ・ケイパビリティは重要なキーワードになると感じました。ご興味のある方はぜひ一読ください。