編集長が語る!講義の見どころ
「武士の誕生」の真実(関幸彦先生)【テンミニッツTV】

2022/01/11

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。

先週の日曜日(1月9日)に、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』がスタートしました。これから、武士たちの政権である鎌倉幕府がいかに誕生し、いかに確立されていったのか、その内幕や人間模様が濃密に描かれていくはずです。

しかしそもそも、「武士」はどのように日本の歴史に現われてきたのでしょうか。そのことについて、正しい知識をお持ちでしょうか。

たとえば、武士について、「有力な農民が自衛のために武装して勢力を伸ばし、それが武士ないしは武士団の形成につながった」と思っている方も多いかもしれません。

ところが、実はこの考え方は、歴史学の研究のなかでは否定されているのです。

むしろ、10世紀初頭に中国の唐が崩壊したことで、日本国内の政治のあり方も変貌を遂げることとなり、さらに激動する国際情勢のなかで日本国内の武力のあり方も変わっていき、それが武士の誕生の大きな背景になったといいます。

「武士の誕生」の正しい知識は、ぜひとも学んでおきたいところです。本日は、日本中世史の「武士研究」の第一人者・関幸彦先生(日本大学文理学部史学科教授)の講座を紹介します。中世史の見方が大きく変わり、日本の国のあり方について、様々なことを考えることができる講座です。

◆関幸彦:「武士の誕生」の真実(全8話予定)
(1)10世紀の東アジア情勢と「王朝国家」
中世国家の主役・武士の誕生に深く関わる「王朝国家」とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4278&referer=push_mm_rcm1

関先生がこの講座でご指摘くださっている話は多岐にわたりますが、いずれもかつて学校で学んでいた「歴史理解」を覆してくださる内容です。

まず、「武士は、有力農民から派生したのではなく、むしろ皇族や貴族が分派しながら地方に広がったもの」という考え方が提示されます。わかりやすい例として、源平の戦いで鎌倉幕府に集った武士たちの系図を参照しても、農民から分派していることを示す資料がないとおっしゃいます。たしかにご指摘のとおりでしょう。

そして、武士が生まれてきた背景として、東アジア情勢の激動があったことが説かれます。つまり、唐が倒れて、中国でも律令国家のあり方が崩れていく。それにともなって、周辺諸国も次々に様変わりしていき、日本でも律令国家的なあり方から「王朝国家」と呼ばれる国家のあり方に変わっていったというのです。

「王朝国家」という国家像を設定すると、武士のあり方もとても明瞭になるといいます。

王朝国家の特徴的なあり方は「請負」です(第4話)。それまでの律令国家では、中央の政策を、中央から派遣された国司が体現して、中央の指示どおりに地域支配を行なうのが原則でした。いわば「こうあるべき」という理想主義であり建前主義です。

しかし、王朝国家期になると「請負」がなされるようになります。つまり、結果として決められた税額を全うして納めれば、現地でどういう手段で税を取ろうと、中央政府は「知ったこっちゃないよ」という「委任」のあり方です。たとえば摂関政治も、あるいは荘園のあり方も、「請負の1つ」と関先生はおっしゃいます。

軍事力の部分にも、この「請負」的な発想が持ち込まれます。実はこの時期、南では新羅(海賊)の侵寇が続き、北では蝦夷との戦いが続いていました。それに対応すべく、武勇優れた武的領有者に請け負わせて紛争を解決していく方向性が取られるようになるのです。

それが武士の前身である「兵(つわもの)」のあり方でした。「兵(つわもの)」と「武士(もののふ)」の違いは、地域の支配方法の違いでもありました(第2話)。

貴種や貴族の末裔といった人びとが地方に下って「兵(つわもの)」となっていくわけですが、初期の段階では「土着」(地方に定住すること)するわけではありません。「留住」といって、都と地方を自由に往還するのが基本でした。

そのため、土地の支配も「広く薄く」ということになります。それがやがて土着するようになると「狭く深く」土地と結びつくようになります。

この違いが、戦いの違いや、名字の名乗りの違いにも結びついていきますが、それについては、ぜひ講義本編をご覧ください(第2話~第3話)。

さらに、戦闘力として投降した蝦夷(俘囚=ふしゅう)が活用されたこと。そして軍事指揮官には、桓武天皇の時代に健児制(こんでいせい)が採用されて以来、国司や郡司の子弟が登用されるようになるが、それでは足らず、中央から下向する皇胤の貴族の貴種たちが採用されていくこと(第5話予定)。それによって王朝的武威が拡散していくこと。さらに、恩賞として朝廷の位階が重んじられたので、それがさらに新たな形の中央と地方の結びつきを生んでいくこと、などについて関先生がご解説くださいます(第6話、第7話予定)。

そのような過程として、平将門の乱や前九年の役、後三年の役が紹介されます。この話を聞くと、そこから鎌倉幕府へつながる歴史の流れが、とてもよく見通せるようになります。

日本の中世の歴史について、まことに多くの発見に満ちた講座です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆関幸彦:「武士の誕生」の真実(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4278&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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《多様性を実現するためには、仲間の範囲を広げる戦略が適切》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2726&referer=push_mm_hitokoto

多様性の実現には仲間の範囲を広げる戦略が適切
鄭雄一(東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻教授)

道徳の本質を踏まえると、多様性を実現するためには、仲間の範囲を広げる戦略が適切であると分かります。非仲間に対してわれわれは生理的に道徳を適用しないので、いくら言っても無駄です。ですから、この仲間の範囲を広げればいいのです。幸いこのバーチャルな仲間というのは、可変性が非常に大きいので、これを使ったらいいのではないかと思います。


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