編集長が語る!講義の見どころ
日本の野党はどうすればいい?その課題は?(曽根泰教先生)【テンミニッツTV】

2022/03/08

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

日本の野党が、どれくらい日本の役に立っているのだろうか。そのようなことを、しみじみ感じている方も多いかもしれません。

しかし、言わずもがなのことですが、健全な民主主義のためには、野党の存在は欠かせません。「精神的に不安定なのではないか」とさえ指摘される現在のプーチン大統領の姿を見るにつけ、独裁的な権力が続いたときの危険性を思わずにはいられません。

果たして、日本の野党の問題点はどこにあるのか。野党はいかなる姿であるべきなのか。本日は、そのことについて曽根泰教先生(慶應義塾大学名誉教授)に教えていただいた講座を、紹介いたします。

この講座は、第1話が「10分でわかる講義」、第2話以降が「深掘り講義」となります。そもそも野党とは、から始まり、日本の野党の現状と課題が見えてくる講座です。

◆曽根泰教:野党論から考える日本政治の課題(全4話)
(1)野党とは何か
10分でわかる「野党論」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4361&referer=push_mm_rcm1

まず曽根先生が10分講義の冒頭で示されるのは、「野党のない民主主義はありえないこと」「複数政党でも、実質的に政府に対抗できないダミーの政党が並んでいる場合は民主主義といわないこと」です。これは当たり前のことですが、実は非常に重要なことだといえましょう。

さらに、「政権党が、あらゆる階層のあらゆる利益を代表しているから野党は要らない」という議論も、民主主義とはいいません。当然、9000万人以上の党員を誇る中国共産党が率いる体制も、民主主義には入りません。

このことはとても重要です。なぜなら、民主主義には、野党が欠かせないものの、しかし一方で、与党と野党には圧倒的な「非対称性」があるからです。

与党は政権党として、膨大な公務員組織を抱える官僚機構の力を借りることができ、年間で膨大な予算を執行することができるからです。しかも、実際に野党の政策はほとんど実行されません。圧倒的なハンディキャップゲームなのです。

曽根先生は、企業の役員会で、あえて「反社長派=野党」を入れるケースがあるか、と問います。つまり、あらかじめ野党を想定して入れておく民主主義は、組織論からいえば非常に「不思議」で「贅沢」な制度なのです。

このような非対称性があるので、「よく、野党は『政府批判ばかりをしている』という批判をされるが、イギリス型の政治でも、野党は対案などは出さず、批判をするのが仕事だ」と曽根先生はおっしゃいます。

とはいえ、戦前の日本では与野党が激しい叩きあいをして、スキャンダル合戦にまで発展し、最終的には政党政治そのものの信任を落してしまうことになりました。このあたりの「差配」をどのようにすべきか。それについては、ぜひ講座本編をご覧ください。

さて、深掘り講義でまず注目されるのは、「日本では、政党の離合集散を政界再編だと思い込んでいるけれども、それは世界で考える政界再編とは少し違う」という指摘です。

本来の政界再編として、曽根先生は1920年代のイギリスの例を挙げます。当時、イギリスでは普通選挙法ができて、労働者階級にも選挙権が認められて有権者が拡大します。これを契機として、それまでの「保守党VS自由党」だった構図が、「保守党VS労働党」に変わっていったのです。

つまり、社会の大きな構造変化を背景に政界の姿が変わっていくのが「政界再編」なのです。

しかし、日本ではそのような事象は起きませんでした。もちろん日本では戦後、産業構造が大きく変わりました。にもかかわらず、その波を野党側がうまくつかめなかったのです。むしろ自民党の側が、「包括政党=キャッチオール型」に転換していきます。

実は、その流れは、現在まで続いています。たとえば、保守色が強いと思われがちな安倍政権ですが、安倍政権が掲げた「一億総活躍」「女性活躍社会」「地方創生」などの政策は、欧州では左派系が主張するものだと曽根先生はおっしゃいます。岸田内閣が「新自由主義」を批判するのも同様です。小泉純一郎首相は「自民党をぶっこわす」とさえいいました。

包括政党である自民党が、巧みに中道左派的なところまで支持者を拡大していく。そのため、ハンディキャップゲームをしている日本の野党には、活躍できる余地がほとんど残されていないのです。

元々、非対称性があることに加えて、社会構造の変化にも大きく乗り遅れた日本の野党。ある意味で、日本の「政界再編=政党再編」は、野党が苦しいからこそ起きているともいえる。そう曽根先生はおっしゃいます。

そこで起きる問題が、「ロスト・リーダー」です。つまり離合集散のたびに、将来性のあるリーダーが失われていっているということです。曽根先生は「リーダーが死屍累々」という印象深い言葉を使われます。

では、野党は選挙をどのように戦うべきか。「野党共闘」についてはマイナス面が大きくクローズアップされたが、本来、どうあるべきなのか。小選挙区制と比例代表制で、いかに求められる選挙戦略が違うのか。「地方政党」的な性格の強い日本維新の会が全国で勝つために乗り越えるべき壁は何か。さらに、本来は「保守中道」的な支持層が多いはずなのに、そこをうまく狙える野党が出ないのはなぜか……。

それらについても、曽根先生がお話しくださっています。日本政治の構図を理解し、課題を整理するのに適した講座です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆曽根泰教:野党論から考える日本政治の課題(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4361&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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《日本は吊り橋国》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4174&referer=push_mm_hitokoto

「くらげなす漂える島」日本は「吊り橋国」である
鎌田東二(京都大学名誉教授/上智大学大学院実践宗教学研究科特任教授)

日本列島が1つの吊り橋というのは、なかなか面白い比喩だと思います。だから、明日にも橋を吊っているロープが切れてしまうかもしれない。切れると落ちてしまう。そのようなリスキーな自然風土なのだということです。

「天災は忘れた頃にやってくる」と言ったとされる彼(※編注:寺田寅彦)が、日本は吊り橋国だと言っているのがとても興味深いし、こういう意識を常に持つことは、日本に住んでいる限り大事だと思います。


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今週の人気講義
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プーチンの安全保障と外交戦略の特徴
島田晴雄(慶應義塾大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2378&referer=push_mm_rank

複雑なウクライナの宗教と民族との関係
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所特任教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=196&referer=push_mm_rank

藤原定家『明月記』にも出てくる「和田合戦」とは何か
坂井孝一(創価大学文学部教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4324&referer=push_mm_rank

親鸞が「非僧非俗」と名乗った真意と妻・恵信尼の影響
頼住光子(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4378&referer=push_mm_rank

オークションはゲーム理論の世界にうまくフィットする
伊藤元重(東京大学名誉教授/学習院大学国際社会科学部教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4367&referer=push_mm_rank

※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体


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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて実は最近、興味深い本を読み始めています。以下がその本です。

『認知バイアス 心に潜むふしぎな働き』(鈴木宏昭著、ブルーバックス)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065219515/

冒頭に「人の判断や行動はよく考えるとまったく合理的にではないことがよくある」とあり、のっけから「そうだよな」と感じて、この先の展開に関心が高まります。
なぜこの本を読み始めているかというと、最近、特にテレビやネットなどメディアの情報に触れるたびに、その「認知」にバイアスがかかっているのではと自分自身、感じることが多い気がしているからです。

ではなぜそうなるの。また、そのことにはどのような意味があるのか。その疑問・謎に迫ることで、自分自身だけでなく周囲の判断や行動を見極めるヒントになるのではないか。そう感じている今日この頃です。

そこで最後にこの「認知バイアス」に関連する講義を以下、紹介いたします。

なぜ人類は進化したのか?…進化した脳の理性と情動
長谷川眞理子(総合研究大学院大学長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1993&referer=push_mm_edt

脳にはたくさんの「認知バイアス」があるということで、ご興味のある方はぜひご視聴ください。