編集長が語る!講義の見どころ
ウクライナ侵略:ロシアと中国の思惑とは?(山内昌之先生)【テンミニッツTV】

2022/03/15

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

ロシアのウクライナへの侵略によって、これから世界はどう動いていくのか? そのことを考えるときに看過できないのが、とりわけ中国の動きでしょう。プーチンは何を考えているのか。そしてそれに対する中国の思惑はどこにあるのか。

本日は、それを見通すうえで大いに参考になる山内昌之先生(東京大学名誉教授)の講座を紹介します。

今回の山内先生の講座の特長は、最近のロシア、中国の動きを、イランとの関係を絡めつつ読み解いていくところです。その座標軸を設けることで、それぞれの思惑が明解に浮かび上がるのです。

本講座は、ロシアによるウクライナ侵略の直前に収録したものですが、しかし、ロシア、中国、さらにイランの関係の分析は、この問題の波及を大きな視点で捉えるときに、まさに必須のものといえるでしょう。

◆山内昌之:ロシアのウクライナ侵攻と中国、イラン(全5話)
(1)侵攻の背景
なぜロシアはウクライナに侵攻したか、中国の深謀遠慮とは?
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4393&referer=push_mm_rcm1

最初に、全5話の講義タイトルを総覧しておきましょう。

(1)侵攻の背景:なぜロシアはウクライナに侵攻したか、中国の深謀遠慮とは?
(2)米国の誤認:アメリカを「舐められた獅子」に貶めるロシア、中国、イラン
(3)中国の中東戦略:イランを米国へのジャブの当て馬に…中国の中東戦略とは?
(4)プーチンの論理:プーチンは「ウクライナなくしてロシアなし」と考えている
(5)奪われた領土:クリミア半島の占領は、北方領土の占領と同じである

まず山内先生は第1話で、「独裁」「専制的な支配」のロシアと、「自由と民主主義を基調とする国民形成」を希求するウクライナを対比させます。その乖離(かいり)のなかで、ウクライナに対するロシアの影響力は急速に減退していました。

一方で、アメリカやNATOは、ウクライナへの軍事協力や兵器供与を大幅に強化していました。これは、プーチンにとっては、まことに好ましからざる状況でした。

その状況下で、2022年北京オリンピック冬季大会の開会式にプーチンは出席します。これは2008年夏の北京五輪開会式に出席したプーチン(当時首相)が、その直後にジョージア(グルジア)との戦争に乗り出したことを彷彿とさせるものでした。

山内先生が指摘するのは、ウクライナに系譜を持つ人びとの集団が、カナダやアメリカなどではかなり大きなマイノリティー集団になっていることです。当然、ロシアがウクライナに侵攻した場合、欧米の世論は大きく反応する。五輪開催中の中国としては、せめて五輪期間中の侵攻は避けてほしいと希望していたはずです。

さらに重要な山内先生の指摘は、これまでロシアの侵攻によってなされた「未承認国家」(南オセティアやアブハジアなど)の独立やクリミア併合を、「中国がいまだに承認していない」ことです。

山内先生はこれを、「『中国による台湾侵攻と台湾の併合』をロシアに認めさせるために引き出す言質として切ろうとしているカードの一つ」と分析されます。この中国の思惑は、大いに注視せねばなりません。

続く第2話で、山内先生はロシアと中国とイランの関係を分析します。ここで重要なのは、イランをめぐるロシアや中国の動きを、完全にアメリカのバイデン政権が読み誤っていたという指摘です。

ロシアと中国は、イランと協力、提携、あるいは同盟に近い関係を結びながら、アメリカ主導の世界秩序・国際秩序を崩そうとしている。しかしアメリカは「ロシアが対イラン政策でアメリカと協調している」と分析していたというのです。

ロシアがアメリカと交渉する裏でいかなる動きをしていたか、イランがいかなるメッセージを発していたかを、山内先生はご紹介くださいます。ここはぜひ講座本編をご覧ください。

かくしてアメリカは「眠れる獅子」(かつての清朝中国)ならぬ、「舐められた獅子」に変質されつつあるのです。

一方、中国がイランと結ぶ狙いは、「いざ台湾有事となった場合に備えて、イランに連携して行動を起こしてもらって、アメリカを牽制することにある」と山内先生は分析します。そうすれば、アメリカの空母機動部隊はペルシャ湾にも張りついておかなければならない。いわば、アメリカに対するジャブの当て馬として、イランを使おうとしているのです。

加えて中国は、中東におけるアメリカの同盟諸国(サウジアラビアやUAE、バーレーン、カタールなど)にたいする武器の供給を強めています。このような方向の先に警戒されるのが、サウジアラビアの核開発だと、山内先生はおっしゃいます。

さらに山内先生はプーチンのウクライナに対する思惑を分析されたうえで(第4話)、日本が発するべきメッセージを明確に提示します。つまり、「ロシアによるクリミア半島などの占領と、日本の北方領土の問題を常に比較し、国際的にも訴えかけよ」というのです。

「奪われた領土」という点、あるいは「失った領土」という点では、北方4島と同じである。これは日本としては、まさに声を大にして訴えつづけるべきメッセージだといえましょう。

視野を広げてウクライナ侵略を分析したときに何が見えてくるのか。そのことを教えてくださる講座です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆山内昌之:ロシアのウクライナ侵攻と中国、イラン(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4393&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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《優越感も劣等感も抱かない人生はあり得ない》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3993&referer=push_mm_hitokoto

優越感と劣等感のなか自分を更新していくのが教養
津崎良典(筑波大学人文社会系准教授)
五十嵐沙千子(筑波大学人文社会科学研究科准教授)

津崎 できるだけ優越感や劣等感を生徒・学生に抱かせないようにする。でも、ちょっと冷静になって考えてみると、優越感も劣等感も抱かない人生はあり得ないでしょ?

五十嵐 うん。

津崎 それをうまくコントロールして、そこから自分をどうやって、高めていくか、広げていくか、改めていくか。どういう動詞を使おうが自由だと思うけれども、そのようにしていく回復力というのも、実は教養なんじゃないかと思う。


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今週の人気講義
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承久の乱…ついに東国武士たちの自立した政権が誕生
坂井孝一(創価大学文学部教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4325&referer=push_mm_rank

10分でわかる「野党論」
曽根泰教(慶應義塾大学名誉教授)
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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて本日より島田晴雄先生(慶應義塾大学名誉教授)の新シリーズ講義の配信が始ましたので、お伝えいたします。

「激動と激変の世界」の読み方2022(全4話予定)
島田晴雄(慶應義塾大学名誉教授)
(1)バイデン政権と揺らぐ外交関係
日本周辺が最も危険!?米国を中心とした中国包囲網の実態
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4385&referer=push_mm_edt

こちらはアメリカから欧州、中国、アジアなど世界の現状を一挙に学ぶことができる講義となっています。全4話で毎週火曜日配信予定です。ぜひ続けてご視聴ください。