編集長が語る!講義の見どころ
世界的ベストセラー『サピエンス全史』を読み解く(テンミニッツTVメルマガ)
2020/06/10
皆さまこんにちは。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
科学者の目で、ベストセラーをひもときつつ、その一部については批判的に読んでいくと何が見えてくるのか? 本日は、長谷川眞理子先生(総合研究大学院大学長)に、世界で1000万部を超えるベストセラーとなった『サピエンス全史』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)、さらに同著者の『ホモ・デウス』について、縦横無尽に語り尽くしていただいた講義をご紹介します。
◆長谷川眞理子:『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』(全5話)
(1)BIG History
『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』に学ぶBIG History
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2783&referer=push_mm_rcm1
著者のユヴァル・ノア・ハラリはイスラエルの歴史学者で、オックスフォード大学で中世史、軍事史を学んだ人物ですが、彼の『サピエンス全史』ついて長谷川先生は、「チンパンジーから分かれて人類へと進化した後、人類がたどった道筋を全て振り返り、人類の歴史を位置付けようとした大変な労作」だとおっしゃいます。
『サピエンス全史』は、第1部が認知革命、第2部が農業革命、第3部が人類の統一、第4部が科学革命となりますが、それぞれについて、長谷川先生ならではの視点から解説していきます。
たとえば長谷川先生は、『サピエンス全史』が認知革命について論じている部分で展開される「虚構」という概念について、「人間の赤ちゃんはいかにして『犬はかわいい』という概念を獲得するのか」ということを具体的な例としつつ、わかりやすく説き明かしてくださいます。
一方で長谷川先生は、ハラリが農業革命の部分で家父長制について「人類社会において家父長制が蔓延しているのはなぜか、なぜ母系制の社会が取られないのか、理解できない」としていることについて、「性淘汰の理論と著者が得意とする文化の進化の議論を有効に組み合わせれば理解できるはずなのに、私は大きな不満を持ちました」とおっしゃいます。まさに長谷川先生らしい論点といえましょう。
長谷川先生は『サピエンス全史』を高く評価しつつ、「文理問わずさまざまな分野、例えば生物学、生態学、自然人類学、文化人類学、歴史学、社会学などの研究者が、それぞれの視角からどのように『サピエンス全史』を捉えるのかが重要」だと指摘されます。
長谷川先生は、ご自身の「人類学の研究者」という視点から『サピエンス全史』を読み解いていかれるわけですが、この視点は、続く『ホモ・デウス』の分析でも、十全に発揮されます。長谷川先生は『ホモ・デウス』の概略を紹介されたうえで、「AIが急速に進歩して、AIだらけになり、AIで何でもできるようになるという世界で、人類は本当に不老不死を求めるようになるのか」という点について疑問だとおっしゃいます。そして、「不老不死の望みは一部の年寄りのエゴにすぎないと思います。私は、不老不死にはなりたくないですし、いい加減の時点で人生にけりをつけたいと考えています。それが美学だと思います」と喝破されるのです。
ベストセラーにどのようなことが書いてあったのかをコンパクトに理解できるだけでなく、「本を読み解く知的営みとはどういうものか」についても学べる格好の講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆長谷川眞理子:『サピエンス全史』と『ホモ・デウス』(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2783&referer=push_mm_rcm2
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レッツトライ! 10秒クイズ
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2015年にノーベル物理学賞を受賞された東京大学の先生が自身の研究について、「何かがすぐに役立つものではなくて、人類の知の地平線を拡大するような研究」と述べています。この先生は誰?
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2628&referer=push_mm_quiz
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編集後記
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編集部の加藤です。
先週ご紹介した6月特集「進化するヒトの身体と脳の不思議」ですが、今回はその中で取り上げております佐々木正人先生(多摩美術大学美術学部・統合デザイン学科教授)の講義について少しお伝えしたいと思います。
佐々木先生が解説されている「アフォーダンス」心理学の「アフォーダンス」とは、英語の動詞「アフォード(afford、与える、もたらす)」から来た造語で、「環境が動物に与えるもの、備えているもの(良いものでも悪いものでも)」ということです。
ポイントは「環境」で、「環境に意味がある」と先生はおっしゃっています。これだけ聞くと「意味というのはわれわれがつくるものではないのか?」と言いたくなるかもしれませんが、先生はこう続けています。「われわれは、言葉では表現できないけれども行為的に知っているという、そうした意味のある場面に出会うことがあるのではないでしょうか」
「言葉では表現できないけれども行為的に知っている?」「意味のある場面に出会う?」、これは、いったいどういうことでしょうか。ここまで読んで「アフォーダンス」心理学へのご興味が高まった方、ぜひシリーズ講義[「アフォーダンス」心理学]をご視聴ください。動画を交えた解説が数多くあり、環境と身体の関係、そして身体の不思議について実感できる貴重なシリーズ講義です。
<佐々木正人先生のシリーズ講義[「アフォーダンス」心理学](全9話)はこちらからご視聴いただけます>
https://10mtv.jp/pc/content/lecturer_detail.php?lecturer_id=216&referer=push_mm_edt
<6月特集「進化するヒトの身体と脳の不思議」はこちらからご視聴いただけます>
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=97&referer=push_mm_edt
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