編集長が語る!講義の見どころ
日本の防衛は大丈夫?墨子が教える神髄/特集&田口佳史先生【テンミニッツTV】

2022/05/20

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

この現代社会においても、まったく理不尽ともいえる理由で軍事大国が平然と大規模な武力を行使することがありうる。ウクライナ侵略は、その現実をわれわれに突きつけました。しかも「核恫喝(どうかつ)」を行なって、周辺諸国を牽制しながらです。

このような時代に、日本の防衛戦略はいかにあるべきなのでしょうか。

そのことを考えるための、テンミニッツTVならではの特集を組みました。「斜め上」からの切り口で読み解く、学び多き講座ばかりですが、本日はその特集のなかから、田口佳史先生(東洋思想研究者)に「墨子に学ぶ『防衛』の神髄」と銘打ってお話しいただいた講座をピックアップして紹介いたします。

■本日開始の特集:日本の防衛は大丈夫か

ウクライナの惨状を目にするにつけ、心配になるのは「日本の防衛」です。たとえば、台湾有事が起こったらどうなるのか。日本の防衛に何が必要なのでしょうか。

https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=168&referer=push_mm_feat

・田口佳史:『墨子』に記された「優れた国家防衛のためのヒント」

・山内昌之:プーチンの核恫喝で生じた「エスカレーションのジレンマ」

・中西輝政:「台湾危機は必ず日本を巻き込む」――日米同盟を抑止力に

・中西輝政:日本の外交には「インテリジェンス」が足りない

・小野寺五典:いかに「使える自衛隊」に変えていくか


■講座のみどころ:「非攻」と「兼愛」を説いた墨子の真実(田口佳史先生)

「墨子」といわれて「名前は聞いたことがあるけれど・・・」という方も多いかもしれません。古代中国の諸子百家の時代に一世を風靡(ふうび)した思想家(集団)です。

その墨子について、田口佳史先生が明快にご解説くださいます。

一時期は「儒家(儒教)」と並び立つような二大勢力であったといわれますが、秦の始皇帝の時代には影も形もなくなってしまいます。ようやく思想の発掘と再評価が行なわれたのは、大きく時代をくだって「清」の時代のこと・・・。

墨子といえば、「非攻(=平和主義)」「兼愛(=博愛)」などの思想が有名ですが、実はその思想を裏から支えるものとして、類いまれな防衛技術を身につけた集団だったといいます。

その「墨子」の思想が、現代日本に大きな参考になるというのですが、はたしてどのようなことなのでしょうか。

◆田口佳史:墨子に学ぶ「防衛」の神髄(全2話)
(1)非攻と兼愛
『墨子』に記された「優れた国家防衛のためのヒント」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4471&referer=push_mm_rcm1

戦乱の「春秋戦国時代」に墨子は「非攻」を説き、「侵略戦争はいけない」と説いたわけですが、その「主張」と「実践」はどのようなものだったのでしょうか。

実は『墨子』は、わかりやすい論法を繰り返し述べつつ、それに対する「反論」と、「その反論に対する反論」を載せた「想定問答集」のような本だといいます。

『墨子』では、「非攻」のためには「兼愛(=博愛)」が重要だと説かれています。さらに「兼愛」を実現するために、「尚賢(=高い賢者)」や「非命(=宿命や運命の否定)」、「節用(=節約)」の大切さを説く。そして全体として、すべて完璧に人を説得できる非攻論になっているといいます。

その詳細は本編をご覧いただくとして、さらに興味深いのが、「墨家(墨子の思想を奉じる思想集団)」の実践です。

実は墨家は、科学技術を駆使した防衛論の大家だったのです。攻撃する側があきらめて帰らざるをえなくなるほどの、高度の防衛技術を持っていました。さらに、その防衛技術を使いこなして戦える「軍隊」も持っていました。

小さい国が大国から攻められそうなときは、墨家は技術集団と軍隊を派遣して、その小さな国を支援したといいます。そこで侵略国が攻めあぐねれば、逆にその侵略国の防御が手薄になり、別の国から攻撃されかねません。そうすれば、自ずと侵略しづらい状況が生まれます。

墨家は、「非攻」は唱えるばかりでなく、それを実現するために「防衛」に力を入れ、さらにそのために卓越した手腕を発揮したのです。

田口佳史先生は次のようにおっしゃいます。

《論法もあれば、そういう実践もある。ソフトも完璧、ハードも完璧になっているわけです。私はそれを知って、これほどすごいことはないと思いました。これをどのように表したらいいかといろいろ考えてみましたが、結局一つの言葉しかありません。それは、「知的したたかさ」です。

さらにいえば、どんなに反論を食らおうとも非攻を説いていくという超人的純粋さがあります。恐ろしく純粋でピュアです。「われわれは戦わない」という意思をはっきり打ち出した上で、徹底的に防備はするというピュアさです。

平和論をいうのなら、そのようなものがなければいけないし、徹底的に防備ができるだけの先端的な軍事力がなければいけない。この二つです。誰にも負けない純粋性と知的したたかさによる防衛というものがあって、初めて国防というものが成り立つ。われわれは、そのことを墨子から習う必要があるということを言いたいのです》

このご指摘は、現代の日本にまことに深く響きます。「墨子」の思想から考えた場合、日本の防衛はあまりにナイーブかつ他人任せに過ぎるのではないか。また、「武器輸出三原則」のような精神や、無条件的な「戦争の放棄」は、思想的に真の意味で正しいといえるのか。

ウクライナへの支援のあり方などを考えるにつけ、多くのことが頭をよぎります。

「墨子」は争乱の春秋戦国時代に現われた「国防論」だけに、深く鋭く純粋に本質をついています。ぜひいま学びたい名講義です。


(※アドレス再掲)
◆特集:日本の防衛は大丈夫か
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=168&referer=push_mm_feat

◆田口佳史:墨子に学ぶ「防衛」の神髄(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4471&referer=push_mm_rcm2


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レッツビギン! 穴埋め問題
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今回は「日本神話」についての問題です。ではレッツビギン。

黄泉を訪問した夫のイザナギノミコトが、黄泉の国の穢れに触れ、逃げて、禊ぎ祓いをする。
そのときに、左目を洗ってアマテラスオオミカミ、右目を洗って(      )、鼻を洗ってスサノオノミコトといった神々が生まれてくる。
このとき、左目を洗った際に生まれたアマテラスオオミカミの子孫が天皇家に、鼻を洗った際に生まれたスサノオノの子孫がオオクニヌシになっていく。

さて(    )には何が入るでしょう。答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3943&referer=push_mm_quiz


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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて先日、再来年(令和6年)の大河ドラマの主人公に紫式部が決まったというニュースが流れました。
テンミニッツTVでは現在、源氏物語についての講義を鋭意編集中で、6月下旬ごろをめどに配信を開始する予定です。ご期待ください。

今回はこれまでに配信された講義のなかから紫式部に関する講義を紹介いたします。

紫式部が友を思う気持ちを縁語に託して詠んだ歌
渡部泰明(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3182&referer=push_mm_edt

この講義では紫式部が幼なじみの友だちに会った時に詠んだ歌を取り上げているのですが、その歌には和歌のレトリックの一つ、縁語が使われています。どこでどう使われているのか、そこにどんな思いが込められているのか。講義をぜひご視聴いただき、紫式部の思いに触れてみてください。