編集長が語る!講義の見どころ
50年ぶりの「円安」…真の原因と対策は?/伊藤元重先生【テンミニッツTV】
2022/05/31
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
今年の3月以降、円安が大きく進行しています。この5年くらい、ほぼ1ドル105円~115円の幅で推移していましたが、今年4月末には1ドル=130円を突破、現状も130円近くで推移しています。
この円安について、様々な言説が展開されていますが、はたしてどのように見るのが正しいのか。そのことについて、伊藤元重先生がわかりやすくご解説くださいました。
伊藤先生は、この講座で、
「実質実効レートで見ると、過去50年でもっとも円安の状況に近づいていること」
「円安がいいとか悪いとかいっても、そこから先は話が進まないこと」
をご指摘くださいます。はたして、どのようなことなのでしょうか。
◆伊藤元重:50年ぶりの「円安」日本~その原因と為替対策に迫る(全1話)
賃金も物価も上がらない日本、円安との密接な関係
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4482&referer=push_mm_rcm1
まず、伊藤先生は現在の大きな経済的な流れをご紹介くださいます。
・ロシアのウクライナ侵攻により、石油や天然ガスの価格が上昇し、主要国のインフレ懸念が高まっていること。
・そのため、アメリカの金利がさらに上がるという認識が広がっていること。
そのうえで伊藤先生は、「名目レート」と「実質実効レート」についてご解説くださいます。実質実効レートとは、「物価」を加味して考えたレートです。
ここで、伊藤先生はわかりやすい例をご紹介くださいます。2015年くらいに会食したアメリカ大使館の公使が語ったエピソードです。2000年頃に日本に赴任したときは、日本のランチは「非常に高い」と感じた。しかし、2015年頃に再度日本に赴任したときは、日本のランチは「なんて安いのだろう」と感じたというのです。
実は、2000年頃も、2015年頃も、1ドル=110円ぐらいで、アメリカ大使館がある虎ノ門近隣のランチは1000円くらいでした。では、なぜ15年後のほうが安く感じたのか?
それはアメリカのワシントンのランチが、2000年頃には5ドルぐらいだったのが、2015年頃には20~25ドルになっていたからなのです。つまり、その間、日本の物価は全く変化していないのに、アメリカの物価は50パーセントあるいはそれ以上に上がっていたのです。
このような状況を加味しているのが実質実効レートです。
実は、この実質実効レートで見た場合、円安は1970年代の水準に近づいているのです。1970年代の為替相場は1ドル=300円~280円ぐらいでした。
これがどういうことか。伊藤先生は、ここでもまた、わかりやすい例を挙げられます。
《最近よく話題になることに、最近では日本人の給料は欧米どころかアジアにもかなわないということがあります。タイの会社の部長のほうが、日本の部長よりよほど高い給料をもらっている》
これも、やはり為替レートとも非常に関係のある話だろうというのです。
ここまでしっかりとご説明いただくからこそ、その後の円安の状況分析が、とてもわかりやすく頭のなかに入ってきます。
伊藤先生は、こうおっしゃいます。
《為替レートが原因であることよりも結果であることのほうが多いから、円安がいいとか悪いとかいっても、そこから先は話が進まない》
《今回の日本の大幅な実質実効レートの円安は、為替そのものよりも、物価の動きが非常に大きい》
《いま日本銀行は「マイナス金利政策」「イールドカーブ・コントロール(長期金利を低く抑える)」「量的緩和」の3点セットを死守しているが、実際に物価が上がってきたら、これらを続けていく意味がなくなってくる。それが結果的に日本の市場金利を上げていくような動きになって、為替にもまた少し変化が起こるということもありうるので、この先は少しいろいろな可能性を考えながら見ていく必要がある》
そのうえで伊藤先生は、「小手先ではなく、構造的な対応が必要」だとおっしゃるのですが、詳細は、ぜひ講座本編をご覧ください。。
現在の「円安」問題について、本質がパッとわかる、伊藤先生ならではの明快解説。まさに、いま必見の講座です。
(※アドレス再掲)
◆伊藤元重:50年ぶりの「円安」日本~その原因と為替対策に迫る
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4482&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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《「私」の身体の中にもいろいろな歴史がある》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4203&referer=push_mm_hitokoto
グローバル・ヒストリーの中で日本の歴史を俯瞰する意味
上野誠(國學院大學文学部日本文学科 教授/奈良大学 名誉教授)
歴史というと、「縄文時代がどうだ」「弥生時代がどうだ」「古墳時代がどうだ」「古代前期・後期はどうだ」「江戸時代はどうだ」と、スーッと新幹線が通り過ぎていくように考えがちです。ですが、歴史の一つの捉え方として、「私」の身体の中にもいろいろな歴史があるのです。
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今週の人気講義
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「ウクライナの悲劇」について考えるための3つの観点
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所特任教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4467&referer=push_mm_rank
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模倣からは生まれない――「すごい製品」へのジョブズ哲学
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて、今回は先週水曜日(5月25日)より配信開始となりました長谷川眞理子先生(総合研究大学院大学長)の新講義を紹介いたします。
◆長谷川眞理子:「今、ここ」からの飛躍のための教養 (全2話予定)
(1)4つの「限界」と「知の体系」を知る
一市民として「自分で考える人間」を育てる基礎が教養
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4480&referer=push_mm_edt
この講義は、「教養とは何か」について長谷川先生のお考えが聞ける貴重な講義です。
先月、長谷川先生の著書(以下)を紹介しました。
『私が進化生物学者になった理由』 (長谷川眞理子著、岩波現代文庫)
https://www.amazon.co.jp/dp/4006004400/
この本では先生の半生とともに、学ぶことの意味、教養の価値が語られているのですが、そのエッセンスも今回の講義のなかに込められています。
この本は今月(5月)のプレゼント本でしたので、当選された方は本書と合わせて、惜しくも当選されなかった方はぜひこの講義からそのエッセンスを感じていただければ幸いでございます。
明日(6月1日)、第2話が配信予定です。ぜひ続けてご視聴ください。
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