編集長が語る!講義の見どころ
安倍さんの凶報:歴史と個人、自由と民主の本質を考えたい 【テンミニッツTV】
2022/07/12
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
安倍晋三さんが7月8日(金)、凶弾に斃(たお)れました。心より哀悼の意を表します。
あまりにも衝撃的な事件でした。銃撃の第一報、そして訃報。それらを聞いて脳裏に浮かんだのは、暗殺された戦前日本の政治家のことでした。
伊藤博文、原敬、濱口雄幸、犬養毅、高橋是清…。もちろん、各者について毀誉褒貶(きよほうへん)はあるでしょう。しかし、1つだけ間違いなくいえるのは、「万一、彼らが暗殺されなかったとしたら、日本が第2次世界大戦に突入して大敗する結果にならなかった可能性もあったのではないか」ということです。
もちろん、歴史のifを論じても、詮(せん)無きことではあります。しかしなお、どうしてもそう思えてなりません。イギリスの政治家・ディズレーリの「暗殺が世界の歴史を変えたことは、決してなかった」という言葉はあります。しかしこれは恐らく、真実とは異なるものでありましょう。
意志の力、影響力、見識、抑止力、国内外の要人との交友の深さや信頼関係などは、すべて一個人の生き方の積み重ねに帰結するものです。身近な例でも、「あの人が少し動けば、こんな問題は簡単に収まったのに」ということは、いくらでもあるものです。
安倍さん暗殺の凶報に対して、各国の要人から寄せられた追悼の数々が、あらためてそのことを感じさせました。もちろん、このような悲劇的な事件に対し、交友のあった各国要人がお悔やみを寄せるのは当たり前のことではあります。しかし、「安倍さんが連絡の一本でも入れれば、今後何か問題が起きたときに違う動きになったこともあったのではないか」と、どうしても思ってしまいます。
先に名を挙げた戦前の政治家たちも同じです。「あのとき、あの人が生きていれば」と思いを馳せれば馳せるほど、暗殺によって喪われてしまうものの大きさに茫然とせざるをえません。
個人の可能性を奪う卑劣な行為を、けっしてわれわれは許してはなりません。また、そのようなことが起きる社会であってはなりません。
暴力的な実力行使ばかりではありません。これからも種々の言論や報道が、様々な角度からなされることでしょう。そのなかには、相も変わらず、十分に裏の取れていない情報で貶めようとする内容も含まれるのかもしれません。
しかし、そのようなときこそ「本質」をしっかり考えたい。「未来への展望」をしっかりと見据えたい。あらためて切に思います。
このような折に講座を紹介するのもどうか、という思いはありますが、しかしあえてこのようなときだからこそ、シンプルに自由主義と民主主義を論じていただいたものを挙げさせていただきたいと思います。
自由はいかに守られるものか。民主主義の理想と危険はどこにあるのか。そしてその現代的な意味とは。そのことを原点に立ち戻って考えるのも、大きな意味のあることではないでしょうか。
◆川出良枝:政治思想史の古典『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ(全11話)
(1)二人の思想家
モンテスキューとルソーには共通の敵がいた
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3620&referer=push_mm_rcm1
モンテスキューは自由主義思想を確立した重要な人物。ジャン・ジャック・ルソーは、人民主権や市民の政治参加を主張した民主主義思想のチャンピオンです。
本講座後半の「質疑篇」でも詳しく語られる話ですが、モンテスキューはフランスのボルドー出身の貴族です。ボルドーという地名から連想されるようにワインの醸造と輸出などの経営も手がけつつ、法律家や文筆家としてマルチな才能を発揮し、家庭にも恵まれた人物でした。
一方のルソーは、フランスで活躍したものの、好んで「ジュネーブ市民」と名乗っていました。相手から好かれるタイプですが、なぜかその人とケンカ別れしてしまうようなことが非常に多かった破格な人物だといいます。
モンテスキューは、あくまで現実的に物事を見て、常識的なものの見方や中庸の美徳を重んじるタイプ。ルソーは曖昧なものが許せず、極端から極端に振れるタイプであるようです。
思想家の人間像を知ることは、とても興味深いことです。その人となりを前提に思想に迫ると、見えてくるものも変わってきます。
この2人は、さまざまな面で異なっていたけれども、「共通の敵」がいたと川出先生は指摘されます。共通の敵は「専制(デスポティズム)」でした。
しかし、その闘い方が異なりました。
モンテスキューは絶対王政を厳しく批判しましたが、一方で人民が完全に主権を掌握する純粋な民主政も、絶対王政と同様に危険という発想でした。
ルソーは、「問題を解決するためには、新しく契約を結び直して新しい国家をつくりあげる必要がある」という「社会契約論」を展開し、さらに真の人民主権を確立するために「一般意志・特殊意志・全体意志」の議論を展開します。ところが、このルソーの議論は、後にジャコバン派の恐怖政治や、ボルシェビキ、あるいはナチスの独裁の(ある種の)理論的背景にもなりかねないものだったのです。
第3話で川出先生が引用してくださったモンテスキューの印象深い言葉を紹介します。対立や分断ばかりが煽られる現在、あらためて心に留めたい言葉です。
《政治体において統合と呼ばれているものは、きわめて曖昧なものである。真の統合とはすべての部分がいかに相互に対立しあっているように見えても、社会の公共善に向かって協力している、そのような調和からなるものである。それは、ちょうど音楽において、不協和音が全体の調和に協力するのと同じである》
(※アドレス再掲)
◆川出良枝:政治思想史の古典『法の精神』と『社会契約論』を学ぶ(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3620&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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《自分という個として社会とつながる》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4252&referer=push_mm_hitokoto
50代からの「人脈の棚卸し」、会社を離れても付き合いたいか
江上剛(作家)
私は先ほど、「SDGs」(持続可能)な生活について述べました。それにはどうしたらいいか。やはり若い頃から――若い頃といっても50代からでいいのですが――自分が社会に対してどういうアプローチをすればいいかを考えるといいでしょう。今まで会社という目を通してだけで社会とつながっていたものを、自分という個として社会とつながることを考えるのです。
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今週の人気講義
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『正法眼蔵』が説く本当の自己…身心脱落して自我を超える
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4515&referer=push_mm_rank
形容詞の表現がスゴイ!『源氏物語』が一流の文学たる所以
林望(元東京藝術大学助教授)
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楠木建(一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 教授)
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※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて、7月28日開催の鎌田東二先生のウェビナー《宮沢賢治「銀河鉄道の夜」を読む》、申込みが続々と増えておりますが、まだまだ受付中ですので、ご希望の方は今すぐ以下よりお申し込みください。
https://10mtv.jp/seminar/202207/index.php?referer=push_mm_new_function
本日は、テーマである「銀河鉄道の夜」ではなく、宮沢賢治が生前唯一出版した童話集『注文の多い料理店』について解説している一ノ瀬正樹先生の講義を紹介いたします。
動物の権利の問題点と倫理を語る上での新しい考え方
一ノ瀬正樹(東京大学名誉教授/武蔵野大学グローバル学部教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1761&referer=push_mm_edt
一ノ瀬先生は「『注文の多い料理店』は、非常に示唆の多い物語」と述べていますが、はたしての意味とは? ぜひご視聴ください。
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