編集長が語る!講義の見どころ
経済の本質とは何か?そしてその未来像とは?(テンミニッツTVメルマガ)
2020/07/22
皆さまこんにちは。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
今般の新型コロナウイルスの問題を受け、経済も大きく傷んでいます。これから世界経済や日本経済がどうなってしまうか、大いに心配なところです。
このようなタイミングで、経済の本質とは何かについて学ぶのも、意味あることではないでしょうか。本日は、経済のあり方について新しい視点を提示くださる吉川洋先生(立正大学学長)と小宮山宏テンミニッツTV座長のご対談講義を紹介いたします。
小宮山宏座長の問題意識は、「これまでの経済学で取り扱えなかった相互扶助やボランティア活動、家庭の主婦サービスなどの『hidden Value(隠れた価値)』が、人工知能(AI)の発達によって扱えるようになるのではないか。そうすると経済指標や経済政策なども変わってくる可能性があるのではないか」というものでした。
その問題意識について考えていくなかで、「経済学における価値とはいかなるものか」という基本部分から説き起こされる、とても学びの多き講義となりました!
◆吉川洋×小宮山宏:経済社会と「隠れた価値」の行方(全5話)
(1)経済の中の価値
「hidden Value」をどのように考えるかが重要
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3358&referer=push_mm_rcm1
まず、講義の話の切り出しは、以前、吉川洋先生が小宮山先生から「人間が何をしてもエネルギーの総量は変わらないのに、経済のGDPはどんどん成長して数字が大きくなっていくというのは妙な話ですね?」という質問をされた、という回想から始まります。たしかに、物理学には「エネルギー保存の法則」などもあるのに対して、経済はどんどん拡大していくというのは不思議な話です。
この問いについて、吉川先生は経済における「価値」の考え方が、現在、「人間が主観的に点数を付けているだけ」だからと指摘されます。価格は主観的に決められるが、マーケット(市場)で投票が行われ、多くの人が価値を見いだすものは高い値段になり、逆は安くなる。その結果、GDPが増えていくと、わかりやすく説明してくださいます。
吉川先生は、「たかがGDP、されどGDP」なのだと喝破されます。GDPが非常に大ぐくりな指標であることは間違いありませんが、同時に、世界を見ると1人当たりのGDPが高い国のほうが「平均寿命が長い傾向がある」。その意味は大きいのではないか、というのです。吉川先生は、ケインズが残した、「経済というのは、人間の全ての活動の縁の下の力持ちだ」という言葉をご紹介くださいます。たしかに、「平均寿命が長い」というのは、まことに大きな意味のある事柄でしょう。
ところが、1人当たりのGDPが1万ドル以上くらいになると、人びとのWelfare(福祉)やHappiness(幸福)とGDPとが必ずしも相関しなくなっていきます。
ここで小宮山先生は、「家庭でホームパーティーをするときのwelfareと、レストランに食べにいくときのwelfareを比較して考えてみる。レストランはGDPに反映されるが、ホームパーティーは必ずしもそうではない。しかし、この2つのwelfareはほとんど同じか、場合によっては、ホームパーティーのほうが大きい場合もある。こうした、これまで計上されてこなかったwelfareを現代のAIとIT技術によって瞬時に計算できないだろうか」という問題意識を提示されます。
小宮山先生は、「たとえば秋田に住んでいる両親の介護を必要としている人が、東京で子ども食堂を開いている場合、子ども食堂の売り上げを仮想通貨などで得て、その仮想通貨を、両親の介護費用に宛てるような仕組みがつくれないか」と問います。
これに対して吉川先生は、「ローカルカレンシー(地域通貨)やクーポンなどといった考え方もあるが、しかし、地元の駅前に素晴らしい書店があって、地域の人たちには多くの効用を与えていたのに閉店に追い込まれてしまう場合、ローカルカレンシーがそのお店を救えるかというと疑問だ」とおっしゃいます。
素晴らしいお店があることは、その地域にとって1つの財産です。そのようなお店がつぶれてしまうと、地域の人びとはまさにそのお店の「隠れた価値」をかみしめることになります。そんなお店を生き残らせるためにどうするか? 地域通貨があれば生き残ることができるのか?
必ずしも、そうはいえないでしょう。そのためには貨幣論ではなく、「隠れた価値」を顕在化させるテクノロジーが必要なのではないか、と吉川先生は問うのです。
では、どのようにすればそのようなことが可能になるのか。その「予見」については、ぜひ本講義の最終話をご覧いただければ幸いです。経済学の根本から今後の予見までを論じる、極めて気づきの多い講義です。ぜひご覧ください。
◆小宮山宏×吉川洋:経済社会と「隠れた価値」の行方(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3358&referer=push_mm_rcm2
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レッツトライ! 10秒クイズ
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「社会・福祉(健康寿命)」ジャンルのクイズです。
労働現場における転倒・墜落事故の増加を受けて、30代から70代までの方に行った「目を開けた状態で〇分間、片足で立っていられますか」というアンケートがあります。結果を見ると、50代から立っていられなかった人の割合が急増します。さて〇に入る数字は?
答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2123&referer=push_mm_quiz
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編集後記
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編集部の加藤です。
今回のおススメ講義、いかがでしたか。この場を借りて少し先走ってお伝えしますが、実は来月8月の特集テーマは「幸福」についてです。
そこでは非常に興味深い講義シリーズが新たにいくつか配信開始となるのですが(乞うご期待)、今回の小宮山座長と吉川先生の話にも出てきたHappiness(幸福)とGDPの関係も、その意味では見逃せない視点だと思います。ぜひシリーズを通してご視聴いただき、経済と幸福の関係について考えてみてはいかがでしょう。
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