編集長が語る!講義の見どころ
必見!日本を復活させる国家戦略/島田晴雄先生【テンミニッツTV】

2022/10/25

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です

昨今の日本では、「思いつきのような批判」ばかりが目立っているようにも思われます。ワイドショーのような番組で、政治や社会、経済を扱うことの弊害も、よく取り沙汰されるところです。

確かに、物事をよくわかっていなくても、一丁前っぽく批判することはできるものです。ただし、それが本質をえぐるものかどうかは別問題。さらにいえば、建設的な提言は、知見の蓄積がなければ、成り立つものではありません。

テンミニッツTVでは、有識者による本質をついた議論、建設的な提言を数多く配信してきましたが、本日紹介するのは、島田晴雄先生(慶應義塾大学名誉教授)に、現在の日本の採るべき戦略を解説いただいた講座です。

聞いていて希望を感じられるような議論も、とみに最近は減ってきているように思われますが、島田先生の歯に衣着せぬ講義を聞くと、勇気や希望がわいてきます。まさに本質をズバリとついて、さらに問題の核心と、的確な解決方法を知ることができるからでしょう。

◆島田晴雄:日本を復活させる国家戦略(全4話)
(1)戦後の復興戦略と日本経済の凋落
「一人負け」状態の日本経済、その回復が政治指導者の使命
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4657&referer=push_mm_rcm1

まず第1話で島田先生は、池田勇人首相の「所得倍増」戦略が、どのような戦略に基づいて実施されたかを検討されます。

この所得倍増計画は、官庁エコノミストであった下村治の理論に基づいて実施されたものでした。島田先生がその理論の要点をとてもわかりやすくご解説くださっているのは必見です。

そのうえで島田先生は、こうおっしゃいます。

《その時の日本が直面する最大の政策課題は何かということを直視し、それを解決する戦略を、確かな理論的な裏打ちと現実的な資源配分によって実行したということです》

まさに、そのような「時代の最大の課題の的確なピックアップ」と「戦略策定」と「実行」が、いま求められるのです。

しかし現状は、島田先生が《岸田内閣「新しい資本主義」を徹底検証》講座で指摘しているとおり、各官庁の作文が体系なしに多数ぶらさがっているだけの「七夕資本主義」あるいは「クリスマスツリー・キャピタリズム」です。

◆岸田内閣「新しい資本主義」を徹底検証(全4話)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4625referer=push_mm_rcm3

では、実際にどのような戦略を、どのような資源配分によって行なっていけば良いのでしょうか?

島田先生は、「凋落の原因」として、「国家戦略」を失っていった日本の姿に言及されます。高度経済成長で世界を席巻するようになった日本は、1985年のプラザ合意や、1986年の日米半導体協定によって萎縮させられ、やがて、腰骨を折られることになります。「日本株式会社」などと揶揄された日本では、国家主導の経済戦略・産業政策を「死語」のようにしてしまいました。

また、バブル崩壊後の「バランスシート不況」が長く続いたために、企業家の攻めの姿勢は失われ、さらに高齢化の進展によって社会保障費が膨張し、財政赤字が累積していく……。

そのなかで、貿易で稼いでいるかどうかを示す指標である「交易条件」は悪化し、どんどん所得が海外に流出する状況になってしまっています。つまり、輸入物価は最近のエネルギーや原材料など資源高、食料品価格の高騰、円安で大きく上昇しているのに、日本の競争力が落ちて高価格で売れる輸出製品やサービスが少なくなっているのです。

2015年と比べると、2021年段階で「11.5兆円もの、よけいお金を家計や産業は海外に払わなければならなくなっている」とのこと。実に、由々しき事態です。

島田先生は、「日本経済が直面する最大の緊急課題は、分配でも何でもなくて、この三十何年間、一直線で凋落していること」だと指摘されます。

では、どうするか。

島田先生は、まず、アメリカ(シリコンバレー)や、中国の成功事例に学ぶべきだとおっしゃいます。今回の講座でも島田先生がその内容を概説くださっていますが、詳しくはぜひ、島田先生の下記の講座シリーズなどもご参照ください。

◆シリコンバレー物語~IT巨人の実像と今後(全7話)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4265&referer=push_mm_rcm4


◆中国、驚異の情報革命 (全7話)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3064&referer=push_mm_rcm5

そのうえで島田先生は、「非常に大きなことは2つ。DX(デジタルトランスフォーメーション)の環境整備と、戦略産業の指定だ」とおっしゃいます。

「DXの環境整備」については、ひと言でいえば「民間でできていることが、なぜ官公庁でできないのか」。宅配の荷物の追跡から、チケットの予約まで、スマホ1つでできるのに、なぜ行政サービスができないか、ということです。

それは「民間企業でやれるような指揮命令系統が、国家の中にないから」。だから、憲法を含めた法体系の整備が必要だと島田先生はおっしゃいます。

「戦略産業の指定」は、世界の各国はやっているのに、バブル後の日本が失敗してきたところです。

島田先生は諸外国の例を挙げつつ、日本が取り組むべきこととして、ハイテク戦略産業(AI、ロボット、ドローン、半導体、情報、航空宇宙)、生活必需物資(エネルギー、食料、水、医薬品)、労働集約産業の効率化(農業、運輸、建設・産廃など)を挙げていきます。

そして、これらを実現するための「教育改革」まで視野を広げられるのです。

具体的な詳細は、ぜひ講座本編をご覧ください。

島田先生のお話を聞いていると、「やることは、もう決まっている。あとは実行だ」という思いに駆られます。日本にそれができるのかどうか。

先日、ご紹介した小宮山宏先生と長谷川眞理子先生のご対談講義の学びからいえば、「評論家気取りでいるのではなく、自分が何ができるのかを考えよ」ということになるのでしょう。よくよく考えたいところです。


(※アドレス再掲)
◆島田晴雄:日本を復活させる国家戦略(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4657&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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《コントロールしようとしてもできないところに「自分らしさ」が宿っている》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4167&referer=push_mm_hitokoto

「自分らしさ」の発見は、型にはまってみることから始まる
為末大(一般社団法人アスリートソサエティ代表理事)

消したり、変えられる程度のものは、全然「自分らしさ」とは関係なく、それは環境との関係で決まっているのだけど、コントロールしようとしてもできないところに「自分らしさ」が宿っているので、逆にそれを考えたり、どうこうするよりも、むしろリリースして、自由に泳がせたときに出てくる反応が「自分らしさ」なのだと思っているのです。


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今週の人気講義
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誰もが陥る「認知バイアス」とは何か
鈴木宏昭(青山学院大学 教育人間科学部教育学科 教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4663&referer=push_mm_rank

同調圧力で何も言わない若者、議論を阻むタテ社会の壁
小宮山宏(東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長)
長谷川眞理子(総合研究大学院大学長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4651&referer=push_mm_rank

「源実朝は文弱」は誤解…『金槐和歌集』に込めた想いとは
坂井孝一(創価大学文学部教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4634&referer=push_mm_rank

リスキリングの時代、鍵は将来からのバックキャスティング
徳岡晃一郎(株式会社ライフシフト 代表取締役会長CEO)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4607&referer=push_mm_rank

メタバースでお金を動かす「VR大規模経済圏」へのシナリオ
廣瀬通孝(東京大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4645&referer=push_mm_rank


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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて最近、以下の本を読み始めています。

『オスとは何で、メスとは何か?:「性スペクトラム」という最前線』 (諸橋憲一郎著、NHK出版新書)
https://www.amazon.co.jp/dp/4140886838/

スペクトラムというのは、〈意見・現象・症状などが、あいまいな境界をもちながら連続していること〉(デジタル大辞泉より)で、「性スペクトラム」とは本書によると〈オスからメスへと連続する表現型として「性」を伝えるべきではないか、という新たな捉え方〉ということです。
目次には「性は生涯変わり続けている」「全ての細胞は独自に性を持っている」とあり、性というものへの見方が変わる、貴重な一冊ではないかと感じています。
機会があれば、読み進めていったあと、改めてご紹介できればと思います。

最後に。性についての講義として、長谷川眞理子先生(総合研究大学院大学長)の以下、シリーズ講義を紹介して終わりたいと思います。

◆長谷川眞理子:性はなぜあるのか~進化生物学から見たLGBT (全4話)
(1)有性生殖と無性生殖
なぜ雄と雌はいるのか、LGBTについて進化生物学から考える
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4130&referer=push_mm_edt

こちらも大変学びの多い講義です。ぜひシリーズを通してご視聴ください。