編集長が語る!講義の見どころ
古代ローマとの比較で「武士道の真髄」を知る/本村凌二先生【テンミニッツTV】
2022/11/15
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
日本人の特性とは、どのようなものか。それを考えるときに、大きな参考になるのは、他の文化、他の文明圏と比較することでしょう。
江戸時代と古代ローマを比較していく人気講座シリーズ、本村凌二先生(東京大学名誉教授)の「江戸とローマ」。今回のテーマは《「父祖の遺風」と武士道》です。
「日本には『武士道』がある」といいながら、案外、「武士道」の何たるかを端的に語るのが難しいと思われる方も多いのではないでしょうか。
「父祖の遺風」は、これまで本村先生が、テンミニッツTVの他の講座でも「古代ローマの重要な倫理観」として強調してこられたものですが、これと比較することで「武士道」の理解が一気に深まる珠玉の内容です。
◆本村凌二:江戸とローマ~「父祖の遺風」と武士道(全6話)
(1)誠実さと新渡戸稲造『武士道』
なぜ新渡戸稲造は『武士道』を英語で著したのか
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4677&referer=push_mm_rcm1
第1話の冒頭で、本村先生はこうおっしゃいます。
《日本人はよくオリジナリティがないと批判されますが、実はローマ人も同じようなところがあります。ところがローマ人も、一旦自分たちが習得したものを磨き上げていく能力を持っています。日本人にも確かにそういうところがあるでしょう》
なぜ、古代ローマ人と日本人には「磨き上げていく能力」があるのか。その背景について、本村先生はこう指摘されます。
《その背景には、やはり一種の「人間としての誠実さ」というものがあると思います。物事をソフィスティケートしていくには、ごまかさないという資質が大事です。よりよくしていくような振りをして本当はごまかしているのでは、どうせボロが出てくる。長い時間をかけてよりよいものをつくっていくには、ごまかさない誠実さが必要だということです》
この「誠実さ」の背景が、古代ローマ人においては「父祖の遺風(mos maiorum)」であり、日本人においては「武士道」ではないか。そう本村先生はおっしゃいます。
「父祖の遺風」とは、父祖(先祖)の業績を代々語り継ぎ、家に対する誇りを持ち、先祖に負けないような人になろうと意識することです。古代ローマの人々(とりわけ元老院貴族たち)は、家のなかに父祖の彫像を飾り、父親が「教育係」として祖先たちの業績をしっかり教えていたといいます。
よく「武士道」と「騎士道」が比較されることがありますが、それよりも古代ローマの倫理のほうが似ているとも、本村先生は指摘します。そもそも西洋においても「父祖の遺風」と「中世の騎士道」は非常に異なる。「騎士道」は、人間の生き方全体に関わるところは希薄だというのです。
この違いは、「西洋の騎士道」が「一神教」の背景のもとに成立したものであるのに対し、「父祖の遺風」と「武士道」が「多神教」の多様な価値観を背景としていることにも起因しています。
第4話からは、有名な新渡戸稲造の『武士道』の内容についても検討していきます。
ここで本村先生は、こうおっしゃいます。
《私が父祖の遺風に並ぶものとして言ったのは、いわゆる特攻精神や切腹が代表する強面の武士道ではありません。新渡戸稲造の『武士道』のなかでは、人間が礼節をわきまえ、惻隠の情を失わず、私心を捨てる姿が描かれています。いわば強面の武士道に対して、どちらかというと柔和な武士道というようなものだと思います》
よく知られているように、『武士道』はもともと英語で書かれ、1899年(明治32年)にアメリカで発刊されました。当時、欧米人から「キリスト教文化圏ではない日本人が、欧米人にも負けないぐらいの礼儀正しさを持っているのはなぜか」と問われた新渡戸が、それを説明するために書いた一冊なのです。
実は新渡戸は『武士道』で、驚くほど多くの古代ローマのエピソードを取り上げているといいます。
たとえばローマ史家のテオドール・モムゼンの「ギリシャ人の祈りは思索であり天を仰ぐが、ローマ人の祈りは内省(反省)であり頭を垂れて瞑想する」という言葉を引いて、日本の神道の信仰心について説明する。古代ローマの軍人・カミルスの「ローマ人は金をもって戦わず、鉄をもって戦う」という言葉と、上杉謙信が武田信玄に塩を送った故事を比べつつ、武士の戦い方を紹介する。古代ローマの詩人・ヴェルギリウスが語るローマ建国の精神と、平敦盛と熊谷直実の逸話を比較しながら、「憐憫の情」の重要性を説く……。
それぞれ、どのようなことかは、ぜひ講座本編(第4話以降)をご覧ください。
それらから浮かび上がってくるものこそ、「義」を貫き、「惻隠の情」で相手に対する思いやりを深くし、私心を捨てた捨て身になることを重んじる、武士の精神です。
最後に本村先生は、近代中国の文学者・魯迅の、こんな言葉を紹介くださいます。
《日本人をどれほど恨もうが、どれほど悪口を言おうが構わないが、日本人の誠実さだけは学べ》
はたして、この言葉を魯迅が発した背景とはどのようなものなのでしょうか。さらに、新渡戸稲造も、日本人が武士道を喪失していくことを危惧していたといいますが、日本人が誇り高き精神を取り戻すためには、何が必要なのでしょうか。
最終第6話で、本村先生は、そのような内容について語ります。
日本人が「大切にすべきもの」や、日本人の「本当の強み」が、きわめてクリアに見えてくる講座です。ぜひ、ご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆本村凌二:江戸とローマ~「父祖の遺風」と武士道(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4677&referer=push_mm_rcm2
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4180&referer=push_mm_hitokoto
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて先日、今年人気の高かった講義について少しお伝えしましたが、今回は今年人気の高かった特集を3つほどお伝えいたします。
◆特集:鎌倉殿と北条氏…武士の誕生と権力の確立(1月14日配信開始)
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=149&referer=push_mm_edt
◆特集:ロシアの暴走、米中の迷走…2022年大波乱の世界を読む(4月8日配信開始)
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=163&referer=push_mm_edt
◆特集:令和4年上半期人気ランキングBest10(7月1日配信開始)
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=173&referer=push_mm_edt
今年1月から先月10月配信開始分までの特集のなかから各1週間分のデータで人気の高かったものを挙げてみました。やはり今年注目を集めたといいますか、大きく報じられたニュースに関連したものに関心が集まったということですが、いかがでしょうか。
今年は残りまだ1か月半ほどありますが、振り返りの意味でもこの機会にご視聴ください。
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