編集長が語る!講義の見どころ
宗教で読み解く「世界の文明」/橋爪大三郎先生(テンミニッツTVメルマガ)

2020/07/29

皆さまこんにちは。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
コロナ禍さえなければ、いまごろオリンピックの真っ最中。近所の理髪店のご主人から、「1964年の東京五輪のときには、選手村の近くに行って、たくさんの選手からサインをもらいましたよ。どこの国の選手かわからなかったけどね」というお話をうかがいました。やはりあの折の五輪は日本人にとって、世界から多くの方々がいらっしゃる「祭典」だったのだなあと、しみじみ実感しました。

ところで、世界の人々について理解を深めるためには、やはり「宗教」の理解は欠かせません。ただここは、日本人にはなかなかハードルが高いのも確かでしょう。

その点で、とても興味深い講義を橋爪大三郎先生(社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授)がしてくださいました。

世の中には、何本かの補助線を引くと、見え方がまったく変わってくるものがあることを、クイズ番組や学校の数学の授業などで経験されている方も多いことでしょう。橋爪先生の今回の講義は、「宗教」を補助線として、世界をまったく違った景色に見せてくれるものです。快刀乱麻を断つような鮮やかな切り取り方に、思わず膝を打つ方も多いのではないでしょうか。

◆橋爪大三郎:宗教で読み解く「世界の文明」(全9話)
(1)文明とは何か
数千年の歴史のなかで勝ち残ってきた文明が4つある
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3340&referer=push_mm_rcm1

この橋爪先生の講義の特徴は、イスラム教、キリスト教、ヒンドゥー教、儒教、仏教などの宗教を、「細かい教義」などに立ち入って比較するのではなく、徹底的に「システム的」に分析していくことです。

たとえばイスラム教は、神が1人で、預言者が1人、コーランも1冊と、とことん「1」であることを重視する一神教だと描かれます。とにかく世界の万物は1人の神であるアッラーが創造したものなので、イスラム法の立法者もアッラーということになります。コーランには「こう考え、こう行動しろ」ということがたくさん書かれてありますが、それがイスラム法の根拠になります。

逆にいうと、イスラム教の考え方では、コーランに書いていない法律や政治のあり方などは、本来的には「背教者」ということになります。イスラム法に反する統治者は「背教者」として追放することができるのです。

だから2011年ごろに広がった「アラブの春」と呼ばれる反政府運動は、裏を返せば背教者たる独裁者を追い払うものであって、民主化とは根本的に性格が違うものとも考えられる。一方、コーランには部族長のあり方は書いてあります。だから、部族長が統治する形を採っているサウジアラビアやアラブ首長国連邦などはある意味で安定的なのだ、と橋爪先生はおっしゃいます。なるほど、そういう見方をする日本人は、あまり多くないでしょう。

では、キリスト教はどうか。よく知られているように、旧約聖書はユダヤ教の聖書であり、なかにはモーセの「律法」が記されています。その点では、イスラム教と性格が似ています(もちろん歴史的にはイスラム教が後発ですが)。

しかしキリスト教の場合、イエスが出てきて、「細かい律法に従うことを神は望んでおられない」と主張したのです。しかも新約聖書の「ローマ人への手紙」では「さしあたりローマの法律に従いなさい」と書いてある。そこで世俗権力との共存共栄が可能になり、しかもユダヤ教の「割礼」のような敷居の高いルールもなかったので、キリスト教は世界に広がっていったのだと橋爪先生は分析されます。

中国の儒教では、「忠孝」ということがいわれます。「忠」は政治的リーダーに服従することで、「孝」とは血縁の年長者に服従するという教えです。では中国では「忠」と「孝」でどちらが大事なのか。

橋爪先生は「孝」だとおっしゃいます。だからこそ、血縁だけが信頼できるような社会が伝統的に続き、賄賂や腐敗が横行することになる。それで現在の中国共産党も、市場経済に介入して誰かに利益を与え、利益が上がった人からピンハネをする仕組みをとっており、いまや公共の福祉に反する状態になりかかっているのだと。

では、中国の「忠孝」と日本の「忠孝」はどう違うのでしょうか。あるいは、インドで生まれたヒンドゥー教と仏教は何がどう違うのか。仏教はなぜインドでは駆逐され、周辺に広がっていっても、今一つ巨大な文明(橋爪先生の定義では信者10億人以上)にはなれなかったのか……。そのようなことも次々と論じられていきますが、これらについてはぜひ、講義をご覧ください。

橋爪先生のお話を聞いていると、「あれはどう考えるべきなのだろう」「この点については、どう理解すべきなのか」など、次々と問題意識が刺激されます。橋爪先生の講義を糸口に、自分自身で探究と思索を深めていくのも、とても素晴らしい体験になることでしょう。

(※アドレス再掲)
◆橋爪大三郎:宗教で読み解く「世界の文明」(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3340&referer=push_mm_rcm2


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レッツトライ! 10秒クイズ
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「文化・芸術(日本文化)」ジャンルのクイズです。
現代の刀工(刀鍛冶)には「年間〇振り」、つまり年間〇本しかつくれないという製造本数制限があるという話です(文部科学省では、刀鍛冶への本数制限はしていないとのことですが)。どういうことなのか、気になるところですが、さて〇に入る数字は?

答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1945&referer=push_mm_quiz


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編集後記
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編集部の加藤です。
先週少しお伝えしましたが、今週末から始まる8月特集は「幸福」特集です。
そこで1年前はどんな特集だっかたと振り返ると、「リベラルアーツの本質をつかむ」特集でした。

リベラルアーツとは本来「Liberal Arts and Sciences」のことで、通常省略されている「Sciences」の部分が重要だと、曽根泰教先生(慶應義塾大学名誉教授)はいいます。なぜなら、「science」の語源はラテン語で「知る」を意味する言葉で、リベラルアーツという言葉の根底には、人類の尽きることのない「知」への関心が宿っているからだということです。

これって、つまり学ぶことへ追求であり、学ぶことから生まれる「喜び」、言い換えると「学ぶ幸せ」がリベラルアーツには内包されているということではないでしょうか。そう考えると、1年後を予見していたような特集ともいえそうです。この機会に1年前の特集をご視聴いただき、リベラルアーツについて考えてみてはいかがでしょう。

<「リベラルアーツの本質をつかむ」特集はこちらからご視聴いただけます>
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=88&referer=push_mm_edt