編集長が語る!講義の見どころ
原子力発電の戦争リスク…もし攻撃されたら/鈴木達治郎先生【テンミニッツTV】
2022/11/29
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
ロシアによるウクライナ侵略において、原子力発電所に攻撃が加えられていることが幾度も報道されています。
ではもし、日本の原子力発電所が、某国、あるいはテロリストによって攻撃されたら、どうなるのか? いかなる被害が起きうるのか?
日本人は、福島第一原発の事故を経験しています。現場の多くの方々の奮闘と、様々な偶然の積み重ねによって、「破滅的」な結末は迎えずに済みました。しかしそれでもなお、あれほど大きな被害を招いてしまいました。では、戦争のリスクは?
そのようなことを考えたことはおありでしょうか? 現在、東アジアの安全保障の危機が声高に叫ばれています。しかし案外、「いま、そこにある大きなリスク」について、われわれはあまりに無知すぎるのではないでしょうか。
考えるだけで恐ろしいこのテーマについて、鈴木達治郎先生(長崎大学核兵器廃絶研究センター長・教授)が詳細に教えてくださいました。
◆鈴木達治郎:原子力発電の戦争リスク(全2話)
(1)原子力発電所が攻撃されたらどうなるか
もし原発が攻撃されたら… 深刻な戦争リスクと世界の現実
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4724&referer=push_mm_rcm1
この講座では、まず第1話で、まず知っておくべき基本的な部分をお話しいただき、第2話で図や写真なども用いながら、ウクライナ侵略における原発リスクについて語っていただいています。
まず、原子力発電所に、通常ミサイルが着弾したらどうなるのでしょうか? 原水爆のような大爆発が起きてしまうのでしょうか?
鈴木先生は、そのようなことは起きないといいます。そうではなく、チェルノブイリ原発事故や、福島第一原発の事故のようなことが起きるというのです。
この場合、大きく問題になるのは、原発に入っている核物質の「量の多さ」です。鈴木先生はこう指摘します。
《核兵器に入っている核物質の量は、だいたい何キログラムあるいは何十キログラムというように、キログラムのオーダーです。ところが、原子力発電所に入っている核燃料はトンのオーダーです。それだけでも1000倍です。さらに出力が高いものになってくると、その10倍とか、もっというと1万倍、10万倍ぐらいの放射性物質が中に入っていることもあります》
チェルノブイリ原発の事故でも、福島第一原発の事故でも、実際に外に出た放射性物質は数パーセントに過ぎないといいます(福島原発の場合は3パーセント、あるいはもっと少ないとのこと)。
さらに原子力発電所の場合は、半減期(放射能が弱まり、はじめの半分になるまでの時間)の長い放射性物質が原爆よりも多い。そのため、環境汚染への影響も原爆より長い期間続くのです。
しかも、大きな問題になるのが「使用済核燃料」です。これは第2話で詳細に説明いただいておりますが、原子炉自体は非常に頑丈なコンクリートの「格納容器」のなかに入っています。しかし、日本の原発の場合、「使用済燃料プール」は、格納容器の外の「普通の建屋」にあるのです。
格納容器は「旅客機が墜落しても大丈夫」といわれるほど壊れにくいのですが、使用済燃料プールはそうではありません。しかも、使用済核燃料プールに入っている核物質の量は、きわめて大量です。
福島第一原発の事故のときは、4号機の使用済燃料プールが破損し、そこから放射性物質が大量に出るのではないかと危惧されました。このときは、決死の放水作業の努力の積み重ねによって最悪の事態は避けられましたが、しかし、ミサイル攻撃などされたら、どんなことが起きてしまうのか。
第2話では、ウクライナのザポリージャ原発が攻撃で破壊された場合の被害シミュレーションも、地図で描かれています。これが日本だったらと考えると、背筋が寒くなります。
しかも、使用済核燃料についての「対策」があるにもかかわらず、日本での対策は大きく後手に回っているといいます。たとえ原発を停止したとしても、使用済核燃料がそこにあることには変わりありません。なぜ、いち早く手を打たないのか。日本政府の原子力政策の「無責任」な部分が露呈しているともいえるでしょう。
さらにこの講座の第2話で鈴木先生は、様々なデータも示して、被害状況を教えてくださるとともに、具体的なリスクの姿を詳述し、加えて、IAEA(国際原子力機関)など国際的な取り組みの重要性についてご指摘くださいます。
核攻撃をすれば核で反撃されるので、攻撃がしづらくなるという「核抑止理論」があります。しかし、原発を攻撃されて、甚大な被害が出てしまうような場合、はたして「抑止」はありうるのでしょうか?
この講座を学ぶと、日本の脆弱さを痛感することになります。われわれが直面しかねない危機の本質と、それへの対策のあり方を知るためにも、ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆鈴木達治郎:原子力発電の戦争リスク(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4724&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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《東洋と西洋の知の融合》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=758&referer=push_mm_hitokoto
見えない世界こそがわれわれが本当に見るべき世界
田口佳史(東洋思想研究家)
西洋と東洋、両方の思考をわれわれはマスターすれば、外側の思考もOK、内側の思考もOK、両方OK、両方使えるという人間になるわけで、私はそういう意味では、東洋と西洋の知の融合を、これからぜひ、特に日本人は持つべきではないのかと思います。そうすれば、もっと思考が柔軟になってくると私は思うのです。
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今週の人気講義
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて、およそ100年前のことですが、本日(11月29日)はベートーヴェンの交響曲第9番全4楽章が日本で初めて演奏された日(1924年)で、それは東京音楽学校での定期演奏会だったそうです。年末になると、いわゆる「第九」公演が日本各地で行われますが、その歴史を感じる日が師走を前にあるということですね。
そこで今回は以下の講義を紹介して終わりたいと思います。
10分でわかる「ベートーヴェンの第九」
野本由紀夫(玉川大学芸術学部音楽学科 教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3082&referer=push_mm_edt
野本先生の演奏とともにベートーヴェンの第九についての解説を行われる貴重な講義です。ぜひご視聴ください。
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