編集長が語る!講義の見どころ
徳川家康の果断と深謀~指導者論と組織論/片山杜秀先生【テンミニッツTV】
2022/12/06
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
今年のNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」も残すところ、あと2回となりました(最終回=12月18日予定)。来年(2023年)の大河ドラマは「どうする家康」です。
徳川家康といえば、多くの方が「ああ、知っている」と思うかもしれません。しかし、混迷を極めた戦国時代、さらに朝鮮出兵の時期を経て、260年におよぶ「パックス・トクガワーナ(徳川の平和)」の礎を築けた「真の理由」はどこにあるのでしょうか。
もちろん、ただの偶然や忍耐だけで成し遂げられたのではありません。そこには、驚くべき「果断」と「深謀」がありました。
学べば学ぶほど興味が湧いている、少し変わった切り口からの「徳川家康論」を、片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授)がお話しくださいました。片山先生は、「天下泰平を長く続けられたのは、家康の振るまい方や、デザインが優れていたから」とおっしゃるのです。
◆片山杜秀:徳川家康の果断と深謀~指導者論と組織論(全5話)
(1)率先し陣頭指揮する
徳川家康の「天下泰平」デザインとは?先人達の失敗に学ぶ
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4726&referer=push_mm_rcm1
片山先生がまず指摘されるのは、家康の率先垂範です。ここで対比するのが、鎌倉幕府を成立させた源頼朝です。皆さまご存じのように、源頼朝は、平家との戦いで、挙兵の当初こそ自ら戦っているものの、その後は梶原景時や源義経などを派遣して戦わせました。
そのため、戦の「勲し(いさおし)」、つまりヒロイックなカリスマ性は源義経が持ってしまう形になりました。そのことが、源氏将軍が三代で滅んでしまった一因だろうと、片山先生はおっしゃいます。
対して、家康は常に陣頭指揮をとりました。関ケ原の戦いも、そして70歳を越えての大坂の陣も。
そこには「徳川氏ではないなかで第二、第三のヒーローが出て、そちらのほうに人望・人徳が行った場合に、徳川幕府が長続きをするのか」という問題意識があったといいます。
次に行なわれたのが、「一元化をはかり、明確に上に立つ」ことだといいます。自分が不自然に身を引いたり、力を分ける素振りなどしない。家康は、歴史から大いに学んだといいますが、それがどのような歴史なのは、ぜひ講座第2話をご覧ください。
さらに「権威と雅」も徹底的に「簒奪」してしまおうとしました。その象徴ともなるのが、家康が亡くなった後に「東照大権現」になったことです。
片山先生のご指摘は、さらに広がり、深まっていきます。
元々、「松平」姓であった家康は、「徳川」という姓を名乗るようになり、しかも、一族全部に「徳川姓」を与えませんでした。この仕掛けも、また、御三家(や、後の御三卿)の仕掛けも、皇室がやってきたことを徳川家がパクったというのですが……。
また、それまで日本にあるにはあったけれども「サブ」的な位置づけであった「儒教」を、徳川幕府の世においてはメインに持ってきます。片山先生は、徳川家康は「あの世中心主義」を嫌い、「現実を律するものが一番偉い」ということにしたのだといいます。
儒教の考えからすれば、「実力と徳とを兼ね備えて治めている者が、この世で最高だ」という考え方が出てくる。それに加えて、神道と仏教が混淆した本地垂迹説的な「東照大権現」という神への信仰をもってくる。これにより、徳川家康のほうが、天皇家の祖先である日本の神々よりも偉いという理屈になる……。
このあり方を、片山先生は「足利氏、源氏、織田、豊臣などでは考えつかないような途轍もなく超越的で、ローマ教皇も驚くようなデザイン」だとおっしゃいます。その詳細は、第4話、第5話にかけて解説されます。
そして片山先生は、この講座の最後で、関ヶ原の戦いは、「五奉行(石田三成)」対「五大老(家康)」で「石田三成、かわいそうだな」などという話ではないと喝破されます。これは朝鮮征伐に象徴される、豊臣秀吉―石田三成的な中央集権で総動員的な官僚国家のあり方で行くのか、それを潰すのかの戦いだったというのです。そのことが持つ意味とは……。
いつもながら、片山先生の講義は、さまざまな知識と情報がふんだんに飛び交い、楽しく学んでいるうちに、まったく新しい歴史の見方を得ることができるものです。講義を視たあとで、徳川家康の「果断」と「深謀遠慮」を深く理解している自分を発見できること、うけあいです。
来年の大河ドラマが始まる前に、ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆片山杜秀:徳川家康の果断と深謀~指導者論と組織論(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4726&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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《科学は、人間が死ぬとはどういうことか、何も言ってくれません》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4440&referer=push_mm_hitokoto
10分でわかる「死と宗教」
橋爪大三郎(社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授)
死はそもそも経験できません。世の中のいろいろなことはたいてい経験できて、誰かの死も経験できますが、自分の死は経験できない。自分にとって一番大事なのは、「自分が死ぬ」ことですが、これを考えることが科学の方法ではできない。科学は、人間が死ぬとはどういうことか、何も言ってくれません。
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて、本日は一昨日(12月4日)より配信開始となりました頼住光子先生の新シリーズ講義〈【入門】日本仏教の名僧・名著~日蓮編〉を紹介いたします。
◆頼住光子:【入門】日本仏教の名僧・名著~日蓮編 (全3話予定)
(1)「天台沙門」と題目の功徳
日蓮が取り戻そうとした最澄の原点「純粋な天台宗」とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4733&referer=push_mm_edt
この講義は好評配信中の〈【入門】日本仏教の名僧・名著〉の続編ですが、実は今回の日蓮編が最終編となります。
総論から始まり、聖徳太子編、最澄編、空海編、源信編、そして鎌倉仏教の法然編、明恵編、親鸞編、道元編と続いたロングランシリーズ。そのなかでも、今回の日蓮は特に鎌倉仏教のなかで独特の位置を占めるということで、また新たな気づき、学びが得られるのではないでしょうか。
毎週日曜日配信で全3話の予定です。ぜひ続けてご視聴ください。
※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体
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