編集長が語る!講義の見どころ
正月に「日本」を学ぼう~折口信夫講座/特集&上野誠先生【テンミニッツTV】

2022/12/30

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

今日はいよいよ12月30日。行く年、来る年、様々な思いが去来します。

日本のお正月といえば、様々な行事やしきたりがあります。たとえば年末には、なぜ大掃除をするのでしょうか。なぜ門松を立てるのでしょうか。なぜ、おせち料理をつくり、しかもなぜ、お正月の前には食べないのでしょうか。

また、お正月には初詣に行かれる方も多いでしょう。日本の精神性や文化に深く接する機会でもあります。やはりお正月には、ぜひ日本について学んでみたいもの。まさに温故知新。自分たちの足下を掘り下げてみることで、きっと新しい時代への知恵やヒントが見つかるはずです。


■本日開始の特集:正月に「日本」を学ぼう

https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=138&referer=push_mm_feat

・上野誠:「まれびと」とは何か?折口信夫が考えた日本文化の根源

・大久保喬樹:『茶の本』の著者・岡倉天心は何をした人物か?

・関幸彦:中世国家の主役・武士の誕生に深く関わる「王朝国家」とは

・鎌田東二:世界神話の中での日本神話の特徴は「人間の格づけ」にある

・田口佳史:日本の根源はダイナミックでエネルギッシュな縄文文化


■講座のみどころ:折口信夫が語った日本文化の核心(上野誠先生)

「折口信夫」という名前を聞いたことがある方は多いのではないでしょうか。民俗学を切り拓いた柳田國男に師事し、自身も民俗学研究で大きな業績を残した人物です。

民俗学といえば、「民間伝承の調査を通して、主として一般庶民の生活・文化の発展の歴史を研究する学問」(大辞泉)。柳田國男が岩手県遠野に伝わる伝承を編纂した『遠野物語』(1910年)は民俗学の先駆けとして有名です。

折口信夫も、「まれびと」論などをはじめ、数々の民俗学的な発信をしました。また、『万葉集』などの研究でも名高く、自身が釈迢空という名で歌人として活躍したことでも知られます。

折口信夫の著作は、全体像があまりに膨大で、難解な部分や異形な部分もあり、けっして取っつきやすくはありません。しかし、その主張を知ると、日本に対する洞察も深まります。

本日は、上野誠先生(國學院大學教授、奈良大学名誉教授)が、とてもわかりやすく解説くださった「折口信夫」講義を紹介いたします。折口信夫の入門として、まことに最適な講座です。

◆上野誠:折口信夫が語った日本文化の核心(全4話)
(1)「まれびと」と日本の「おもてなし」
「まれびと」とは何か?折口信夫が考えた日本文化の根源
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4771&referer=push_mm_rcm1

上野先生はまず、なぜ折口信夫が難しいかについて、次のようにおっしゃいます。

《折口信夫が難しいのは、彼の学問に1つの体系、大きな見取り図のようなものがあり、それが円を描いていることです。円を大きく見定めたうえで、個別の論文を読まないと分からない。ある意味、体系性がある学者で、よくいわれるのは「巨大な仮説」というものです》

では、どのような仮説を唱えているのか。

《折口信夫は、あらゆる文化の根源を「生活」に置きます。生活にはいろいろなものがありますが、人間には1つの「あこがれ」があり、それはいろいろな宗教の形をとります。中でも「他界へのあこがれ」「あの世へのあこがれ」に起点をみとめると折口信夫は考えます》

このような仮説から生み出されたのが「まれびと」についての議論です。上野先生は、こうおっしゃいます。

《これは「稀に来る人」のことで、お客さんとして現実世界にやってきて、やがて帰っていく。そこで現実世界を生きるわれわれと神との間に交流が起こるのです》

つまり、お盆のときにご先祖さまが帰ってきたり、祭礼の際に神様がやってきて御神輿で巡幸するようなことが、「まれびと」に当たります。

このような「まれびと」をもてなすのが、日本文化の1つの基本的なかたちです。

祭礼の場合は依代(よりしろ)を立てて、神様をお迎えする。お盆であれば、迎え火などを焚いて、ご先祖さまをお迎えする。神様やご先祖さま(=まれびと)がいらっしゃったら、お供えしたり、芸能を演じたりして「おもてなし」して、喜んでもらう。いらっしゃった神様や先祖さまがお帰りになるときには、お送りする(お盆の場合は、送り火を焚く)。「まれびと」がお帰りになったら、みんなで集まって「直会(なおらい)」として飲食をする。

たしかに、そのように考えると、多くの日本の祭礼がそのような姿であることが思い当たります。

さらに上野先生は、折口信夫が説いた「宗教文学発生説」もご解説くださいます。なぜ古い日本の文学では、「歌」のほうが「散文」より残っているのか。

それは宗教的な詞章が文学になっていく道筋があるからだと折口はいうのです。神様が与えてくれた言葉を長く保持していかなくてはならない。そのために、無文字社会では、韻律をつけて言葉を伝えていく。詩のかたちにすることで、長く長く伝えていくのです。日本の和歌も、あるいはインドの原始経典なども、すべてそのような由来だと考えられます。

また、「まれびと」のような感覚によって、その後の日本の文学にも「貴種流離譚」のような「型」ができあがってきたという説を折口信夫は唱えました。「貴種=高貴な人、偉い人」が苦難を重ねつつ、旅を続けていく物語です。

上野先生は、『古事記』のさまざまな神話や神武東征などの物語、さらに「竹取物語」や「伊勢物語」は「貴種流離譚」の象徴的な事例だとおっしゃいます。さらに、近年の「水戸黄門」や「男はつらいよ」なども「貴種流離譚」だといえなくもなく……。

そのように「文化には『型』がある」という前提で見ていくと、いろいろなことがわかるといいます。

たとえば、日本では和歌で男女が思いを告げることが行なわれましたが、その場合、必ず初めは、男性から女性に歌いかけることが「型」でした。そして女性は、その初めの歌に対しては跳ね返すのが「型」だったというのです。女性から断わられるのが「型」なので、男性はさらに歌いかける。それによって、歌のやり取りが成立していく……。

これは、男女のやりとりの「実際」を考える場合、いろいろな意味で、まことに智恵ある「型」だといえるでしょう。

上記の「型」は一例ですが、折口信夫はこのような「芸能や文化の『型』」を重視して、「型の日本文化論」を展開したのでした。

第4話で上野先生がお話しになるのは、日本の近代化と民俗学的視点です。明治維新直後の日本では、日本のそれまでの歴史や文化を恥じるような意見も多数ありました。そのような流れもあったなかで、柳田國男や折口信夫は日本人の生活をもう一度見直して、日本の文化に光を当てようとしたのでした。

そのような流れが、また大きく変わったのが、第二次世界大戦の敗戦後です。そのときに、折口信夫がどのようなメッセージを発したのか。

上野先生は、昭和27年の折口信夫の講演内容から、とても感動的な言葉をピックアップくださいます。それがどのような言葉かは、ぜひ第4話の最後をご参照ください。

折口信夫が考えたことを知ると、自分の視野が広がる感覚を覚えます。上野先生のおもしろいお話に引き込まれるうちに、折口信夫が考えたことを知ることができる講座です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆特集:正月に「日本」を学ぼう
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=138&referer=push_mm_feat

◆上野誠:折口信夫が語った日本文化の核心(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4771&referer=push_mm_rcm2


----------------------------------------
レッツビギン! 穴埋め問題
----------------------------------------

今回は「資本主義の歴史」についての問題です。ではレッツビギン。

資本主義というのは、19世紀の産業革命の頃に(当時、)最先進国であったイギリスで発展したといっていいと思います。
この頃は、企業家たちが利潤を求めて好き勝手やっていたので、自由放任でした。その結果として、労働者が搾取されるので、疲弊して非常に問題だと。このことを(    )が捉えて、こういう仕組みはほったらかしにしておくと「自滅するぞ」という警告で『資本論』を書いたわけです。

(    )には人物名が入ります。さて何が入るでしょう。答えは以下にてご確認ください
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4625&referer=push_mm_quiz


----------------------------------------
編集後記
----------------------------------------

皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて冒頭、編集長の言葉にもありましたが、いよいよ2022年も今日を含めあと二日です。
今年も一年、当メルマガをご愛顧いただきまして、本当にありがとうございました。この場を借りて、感謝申し上げます。

来年2023年もまた新たな企画、面白いイベントなどをドンドンと提案し、メルマガでもご案内をいたします。また、1月からは注目の新講義が続々と配信開始となり、新講師も登場いたします。どうぞご期待ください。

では最後に。
こちらの講義を紹介して今年を締めたいと思います。

デカルトはなぜ「学ぶ人は一人にしては駄目」と言ったのか
津崎良典(筑波大学人文社会系准教授)
五十嵐沙千子(筑波大学人文社会系准教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3999&referer=push_mm_edt

ということで、テンミニッツTVはこれからも皆さまの貴重な学びの一助となれるよう、努めてまいります。

それでは良いお年をお迎えくださいませ。