編集長が語る!講義の見どころ
日本が負ける戦争に突入した本当の理由/片山杜秀先生(テンミニッツTVメルマガ)
2020/08/19
皆さまこんにちは。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
今年は戦後75年。テレビなどのメディアでも、様々な番組が放送されました。しかし、確実に「あの戦争」が遠くなっているように感じます。日本はなぜ、あの戦争に突入せざるをえなかったのか。そのことは、日本人として常に考えておかねばならないことでしょう。とくに、米中対立やコロナ禍などもあって、先行きの不透明さが大いに増している現在こそ、歴史的反省は極めて重要です。
本日ご紹介するのは、その点で鋭い視点を示してくださる片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)の講義です。片山先生の名著『未完のファシズム』に基づきつつ、われわれが気づかなかったポイントを次々とご教示いただく、注目講義です。
◆片山杜秀:戦前日本の「未完のファシズム」と現代(全9話)
(1)シラス論と日本の政治
明治憲法の草案にあった「シラス」に日本政治の本分がある
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3422&referer=push_mm_rcm1
実は、(一般のイメージとは大いに異なりますが)、大日本帝国憲法下の日本の統治体制は、現在の統治体制と比べて、強権的というより、むしろ必要以上に分権的でした。
帝国憲法下の日本の首相の権限は、現在の首相の権限よりもはるかに弱く、ただの「取りまとめ役」のような存在でした。加えて、行政府も内閣と枢密院の「二院制」のような仕組みになっており、立法府の貴族院と衆議院のあいだにも優劣がありませんでした。
しかも、天皇ご自身が強大な権力をふるうことも想定されてはいませんでした(そのことについては、ぜひ講義の本編をご覧ください)。
伊藤博文や山縣有朋など、明治維新の第一世代が「元老」を務めていたときは、まだしも国家の意思決定ができました。しかしそもそも「元老」や「重臣」などは、超法規的な存在でした。その職分について定めた法律は、どこにもなかったのです。
これでは決まるものも決まらないことは、現代の「ねじれ国会」のことを考えても、すぐにわかるはずです。
なぜ、そうだったのか。片山先生は、「藤原氏、源氏、平家、足利氏、徳川氏のような強いものが、二度と天皇の政治を壟断(ろうだん)しないような仕組みを念頭に置いていたから」だと指摘されます。権力を集中させずに分割し、どこかで誰かが偉くなっても国を独裁できない仕組みにしたのだというのです。なるほど、徳川幕府を倒してつくりあげた明治新政府ですから、大いに納得できる視点です。
そのような状況で、しかも、維新第一世代の元老たちも、ほぼいなくなったタイミングで、日本は昭和初頭からの激動期に突入していくのです。
加えて、日露戦争や第一次世界大戦以後、世界の戦争は膨大な物資を投下しなくては勝てない「総力戦」になっていきます。これは資源を持たざる国である日本にとっては、極めて厳しい状況でした。
そのような大きな流れのなかで、陸海軍の軍人たちは何を考え、どう行動したのか。それがなぜ、負ける戦争に突入してしまう要因になってしまったのか。そのことを、片山先生はみごとに描き出してくださいます。たとえば片山先生は、こう喝破されます。
「大艦巨砲主義よりも、山本五十六の航空派のほうが頭が良いと見なす発想はダメだと考えています。陸軍についても、皇道派より統制派のほうが利口だと考える発想もダメです。やはり、正しいのは皇道派であり、大鑑巨砲主義であったと思います」
これは、現在、多くの人びとが(漠然とではあれ)抱いている常識とは、正反対の見方でしょう。このような点をはじめ、これまでの「戦前観」「戦争観」を一変させるお話が次々と飛び出てきます。まさに、現代に活かすべき多くの教訓を与えてくれる講義であり、今こそ、ご視聴いただくべき内容です。ぜひご受講ください。
(※アドレス再掲)
◆片山杜秀:戦前日本の「未完のファシズム」と現代(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3422&referer=push_mm_rcm2
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レッツトライ! 10秒クイズ
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「金融・経済(通貨)」ジャンルのクイズです。
西郷隆盛は西南戦争で結局負けてしまうのですが、そんな中で西郷はお札(〇〇〇)を発行したことがあるそうです。ちなみに、そのお札のことを扱った本『〇〇〇』を書いたのは松本清張で、それが彼の処女作です。さて〇〇〇に入るのは?
答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2491&referer=push_mm_quiz
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編集後記
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編集部の加藤です。
実は先週、『エピソードで読む松下幸之助』(PHP新書)という本を読んでいました。テンミニッツTVでも松下幸之助の話はたくさん取り上げておりますが、この本は彼のさまざまなエピソードが一冊にまとまった貴重な本です。経営やビジネスだけでなく、人生や仕事、また学びにおいてもいろいろとヒントになる話が多いと感じましたので、ここではそのなかの一話を紹介いたします。
“ある事業部の経営がなかなかうまくいかず、事業部長が交代して立て直しをはかることになった。新任の事業部長は幸之助に、「いろいろ実態を調べましたが、これは必ずよくなります。だから半年間は黙って見ていてください。必ずよくします」と挨拶した。幸之助は笑顔で、「そうか、半年どころか一年でもなんぼでも待つで」と答えた。
安心して部屋を出ようとした事業部長のあとを、幸之助の言葉が追いかけてきた。
「ああきみ、私は、一年でも二年でも待つけどね、世間が待ってくれるかどうか、それは私は知らんで」”
(◆世間が待ってくれるか:P131~132より)
いかがですか。どの会社、どの組織でもあり得るシーンではないでしょうか。半年間が長いか短いかはその時々の状況により変わると思いますが、個人的に私が気になったのはそこではなく、この後の行動。事業部長がこの後どんな行動を取ったかについては書かれていませんが、そこは事業部長がどうしたかではなく、自分ならどうするか。つまり、つねに自分事として考えることによって、生まれる発想・方法・振る舞いが次にも生きてくると感じた次第です。
<ご紹介した『エピソードで読む松下幸之助』(PHP新書)はこちら>
https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-70513-2
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