編集長が語る!講義の見どころ
大人気講義!ストーリーとしての競争戦略/楠木建先生【テンミニッツTV】
2023/02/07
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
自分の人生においても、商売や経営においても、さらには国家や自治体などにおいても、「戦略」が重要であることは、いうまでもありません。
しかし、「戦略」を考えるときに、ついつい、「一発逆転の秘密兵器や、必殺技があれば勝てる」などという考えをしてしまいがちです。
極端にいえば、「宝くじに当たれば人生が変わる」といような発想です。宝くじは、見るからに確率の低そうな話ですが、「ヒット商品が開発できれば、わが社は立て直せる」「アメリカの最強兵器を買えば、わが国の防衛は大丈夫」なども似たような発想かもしれません。
もちろん、そんな「必勝の必殺技」を、誰もが簡単に手にできるわけはありません。そもそも、そのようなものを開発すること自体に、「戦略」が必要になります。では、どうするか。
本日紹介するのは、楠木建先生(一橋大学大学院経営管理研究科国際企業戦略専攻教授)が、「ストーリーとしての競争戦略」を語ってくださった講義です。
この講義は、テンミニッツTVで長い期間にわたって大人気を博しています。ご覧いただければ、その大人気の理由もおわかりいただけるはずです。
◆楠木建:ストーリーとしての競争戦略(全9話)
(1)当たり前の重要さ
柳井正氏の年度方針「儲ける」は商売の本筋
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1782&referer=push_mm_rcm1
楠木先生は、この講義で「企業の競争戦略」について語ってくださいますが、もちろん「戦略全般」に置き換えて考えても、大きなヒントが得られます。
まず楠木先生は、企業経営における戦略のゴールは「儲けること」、さらにいえば「長期の利益」だと指摘します。市場経済においては、長期の利益は顧客満足とほとんど同じであり、長期の利益があるからこそ雇用を守ることができるし、社会貢献も納税という形で可能になるからです。
では、長期利益を出す手段としての「競争戦略」とはいかなるものか。
「話は極めて単純で、要するに、競争相手との違いをつくるからこそ選ばれる。さまざまな違いを長期利益に向けてつなげていく」。そう楠木先生はおっしゃいます。
ここでダメな例として楠木先生が挙げるのが「箇条書き大作戦」です。
プレゼンテーションで、いろいろなスライドが出てくるが、箇条書き的で、どうつながっているのかわからない……。
《一つ一つのことは、競争相手との違いをつくろうとしているのかもしれませんが、それがどうつながって儲けが出るのか、「儲け話」、ストーリーになっていないのです。これは静止画の連続を見せても、映画のストーリーにはならないのと同じことです》
このつながりは「因果関係」だと、楠木先生は強調します。
《「なぜ」儲かるのかというと、「それはね」と言って出てくるもの、これが「つながり」です。「よそと違って、うちだけができるから儲かるんだ」。この瞬間に、それでは「なぜうちだけができるんだ」ということになるでしょう。「それはなぜかというと、うちのお客さんがこうなっているからだ」。「なぜそうなっているのかというと、そもそもうちはこういうことをやっていますから」。こうしたものを、「因果論理のつながり」と言っています。逆にすると、「こういうことやる」。「で、お客さんはこうなってくる」。「で、われわれだけがこれをできるので、儲かるだろう」という、普通のストーリーになるわけです》
では、具体的にはどのような事例があるのか。
楠木先生は、哺乳瓶メーカーのピジョン、サウスウエスト航空、Amazon、スターバックスなど数多くのストーリーを紹介してくださいます。その詳細はぜひ講座本編をご参照いただくこととして、ここでは楠木先生が語るポイントを、いくつか列挙してみましょう。
●プロの投手の腕の見せどころは、速い球ではなく、速く見える球を投げられるかどうか。例えば、外に大きく流れるスローカーブを投げた後、内角高めぎりぎりに来る球は速く見えます。これは、戦略が順番の問題であるという典型的な例だと思います。ストーリーを順列として考えることが必要なのは、誰もが200キロの速球を投げられるわけではないからです。これは商売でも同じで、飛び道具がないということが商売の本質でしょう。
●いつの時代も必ず旬の飛び道具が出てきます。今でいえば「◯◯3.0」と言い出した時点で、かなり怪しいというのが僕の意見です。もちろんAIやFinTechは大切です。ただ、こういうものに手を出せば、たちどころに良い戦略が出てくるかというと、そんなことはありません。
●ストーリーの起点にあるコンセプトは、商売の基(もと)と言えるほど大切なもので、これが決まらないと先には進めません。一言でいえば、何を売っているのか、に対する答えです。
●これまで見てきたように、空飛ぶバス(サウスウエスト航空)、購買意思決定のインフラ(Amazon)、第3の場所(スターバックス)、狭域情報(ホットペッパー)、これらがコンセプトの例になります。本当のところは何を売っているのか、ということが重要です。そして、誰に「嫌われる」かということを考えた方が、本当のところは誰に何を売っているのかが、見えやすくなるでしょう。
●いろいろな違いをつなげていく中で、肝に当たる部分をクリティカル・コアと呼んでいます。実は、戦略には1つのジレンマがあります。「他社と違った良いことをせよ」と言っても、そんなに良いことであれば、みんなやっているはずです。このジレンマをどう乗り越えるのかが、僕は戦略の腕の見せ所だと思っています。
●もし「先見の明」があれば、先ほどのジレンマは乗り越えられるでしょう。しかしそれでは、成功するかどうかが、後になってみないとわかりません。お勧めするのは、むしろ、ストーリーでリスクを取るということです。ストーリー全体を見れば、もうかる筋はばっちりなのですが、一つ一つのことをばらして見れば、その中には、その商売に詳しい人ほど非合理的だと思うものが含まれている。優れた戦略の条件はこうあるべきです。
●Amazonが勝ちを収めたのは、やはり優れた戦略のためです。戦略が良いというのは、他と違うということです。しかも、その違いが長持ちしなければなりません。それが可能であったのは、Amazonのストーリーの中に、頭の良い人ならすべきではない、と考える要素が入っていたからです。
楠木先生が挙げる様々な事例を見ていくうちに、「ストーリーとしての競争戦略」がみごとに頭のなかに描き出されること間違いなしの名講義です。ぜひご覧ください。
◆楠木建:ストーリーとしての競争戦略(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1782&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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《バーチャルな仲間意識》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1560&referer=push_mm_hitokoto
動物の「道徳的な行動」と人間の「道徳」の違いとは
鄭雄一(東京大学大学院工学系研究科 バイオエンジニアリング専攻教授)
われわれヒトは、見ず知らずの赤の他人であるキリストやブッダ、孔子を知っています。彼らとは今まで会ったこともないし、これから会うことも絶対にありません。それでも、このような人たちと時空を超えた気持ちのつながりを持っています。すなわち「バーチャルな仲間意識」を持っているのです。
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今週の人気講義
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食肉3.0時代に突入、「培養肉」研究の今に迫る
竹内昌治(東京大学大学院情報理工学系研究科 教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4779&referer=push_mm_rank
世界経済はどう動くのか…コロナ禍とIMFの分析
田中琢二(元・国際通貨基金(IMF)日本代表理事)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4798&referer=push_mm_rank
大国主義を鮮明にした中国による「3つの列島線」
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4790&referer=push_mm_rank
有力者を親戚関係にする親衛隊の仕組みと、末子相続の真実
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4753&referer=push_mm_rank
厭離穢土欣求浄土――徳川家康の旗印に刻まれた宿題
小和田哲男(静岡大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4760&referer=push_mm_rank
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて、本日は今月5日から配信開始となった新講師である柿沼陽平先生(早稲田大学文学学術院教授)のシリーズ講義を紹介いたします。
◆柿沼陽平:古代中国の「日常史」 (全5話)
(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4805&referer=push_mm_edt
この講義は柿沼先生の著書『古代中国の24時間~秦漢時代の衣食住から性愛まで』(中公新書)をともに、多様な事例を紹介しながら、古代中国の「日常史」について解説していく、大変興味深い講義です。
いわゆる古代の英雄や指導者の生活はいろいろな文献等で知られることは多いのですが、一般庶民の生活はいったいどうなっていたのか。これまで光が当たってこなかった名もなき人々の生活実態に迫る柿沼先生の講義をぜひご視聴ください。
毎週日曜日配信で全5話予定です。
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