編集長が語る!講義の見どころ
意外な発見!?古代人の「暮らし」のヒント/特集&柿沼陽平先生【テンミニッツTV】
2023/02/10
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
人間は、本当に「進歩」しているのでしょうか。古代人の日常生活や精神生活の実態を知るにつけ、ふと、そんな想いが脳裏に去来します。
古代人はこんなにスゴイことをしていたのか! 古代人は、こんなに我々と変わらぬ感性を持っていたのか! しかし、そのような発見から、人間の本質が垣間見えてきます。
どの時代にも、物語に描かれる英雄の陰には「無名の民」たちの存在があります。彼らが残した生活の痕跡を辿りながら、古代人の生きた世界を覗いてみましょう。
本日は、最新の研究成果をやさしく紐解きながら東西古代の実態に迫っていただいた講座を特集します。
■本日の特集:古代人の「暮らし」のヒント
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=191&referer=push_mm_feat
・柿沼陽平:『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
・本村凌二:現代にも影響する快適な生活…古代ローマの水道はなお現役
・納富信留:二千年の時を超えて読めるギリシア「三大悲劇詩人」の作品
・樋口隆一:ピタゴラス提唱した「宇宙の音楽」という考え方
・山田康弘:高校日本史で学んだ縄文時代のイメージが最新の研究で変化
・藤尾慎一郎:弥生時代の開始時期を発見した「炭素14年代測定法」とは
■講座のみどころ:古代中国の「日常史」はこんなに面白い(柿沼陽平先生)
本日は特集のなかから、柿沼陽平先生(早稲田大学文学学術院教授)の講座を紹介します。柿沼先生がお書きになった『古代中国の24時間~秦漢時代の衣食住から性愛まで』(中公新書)は大いに話題になりましたので、書店などで見かけられた方も多いのではないでしょうか。
柿沼先生が注目するのは、古代中国の「英雄」ではなく「一般市民」です。今回は、その古代中国人たちの生活がいかなるものであったのか、「食」や「お酒」などを中心としつつ、お話しをうかがいました。
古代の一般市民の生活を探っていくのは、もちろん大変なことも多いもの。そのご苦労話も、まことに興味深いエピソードばかり。様々な共感がわきあがって、思わず引き込まれる講座です。
◆柿沼陽平:古代中国の「日常史」(全5話)
(1)日常史研究とは何か
『古代中国の24時間』英雄だけでなく無名の民に注目!
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4805&referer=push_mm_rcm1
柿沼先生は、『三国志』や秦の始皇帝、あるいは漢の劉邦などにロマンを感じて、古代史研究を始めたとのこと。研究対象の古代中国の年代も「秦漢帝国」の400年が中心となります。
ところが柿沼先生は、あるとき古代ローマ史の本を読んでいて、この分野では日常史の研究がとても進んでいることに気づき、「自分は古代中国の日常史について、ほとんど答えられないかもしれない」と愕然としたそうです。
そこから研究を重ねて、書かれた本が『古代中国の24時間』です。
柿沼先生は、このテンミニッツTVの講座でも、数多くの図像を紹介しながらお話しくださいますので、まことに興味深くお話しを聞き進めることができます。
たとえば、第1話で紹介されるいくつかの「像」。いずれも秦漢時代のものですが、その表情の豊かさは2000年前後の時の流れを、一気に飛び越るようなインパクトがあります。
第2話では、古代中国の日常史研究の実際について講義いただいています。最近、中国で膨大な数の木簡や竹簡が発掘されているとのこと。各地のお墓や井戸から出てくるのです。
なかには万里の長城の狼煙(のろし)台で働いている兵士のアルバイトのシフト表も出てきたりするとのこと。「先日、酒屋で喧嘩して、けがを負わせちゃったので、奴(相手)はちょっと怒る」というようなこととか、「朝出勤して、万里の長城から落ちて腰を痛めたので、しばらく休憩していましたけど、今日からまた出勤します」という記録もあるそうです。
また、木簡には料理のレシピなども書かれています。柿沼先生は、大学の授業で、そのレシピを再現することを課題として出したそうですが、さてその結果は……。
もう一つ、興味深いのは「お墓の壁画」や「明器」などです。明器とは、「来世で使う」ためにお墓に入れるもの。現物を入れるのは大変なので、ミニチュア版を作ってお墓に入れるのです。
その明器のなかには、男女がキスしているものや、美女たちの像や、大きな家のミニチュアなどもあり……。
そういうものから、徐々に古代の日常や、古代人たちの願望がひもとかれていくのです。どのようなものかは、ぜひ講座の第3話をご覧ください。
第4話は、いよいよ「食」と「酒」のエピソードです。
古代中国の皇帝は、人の「母乳」で育てた豚の肉を食べたりしていたそうですが、庶民の主食はアワや小麦や稲(米)で、ちょっと塩をなめるくらい。あとはちょっと野菜があれば終わりで、記念日くらいにしか肉は出てこない。
ただし、当時は冷蔵庫がありませんから、豚を屠(ほふ)ったら、村全体で分けたり干し肉にしたりする。古代中国も、相互にやりとりをする互酬性が社会の大きな基本でした。それゆえ、賄賂(ワイロ)と贈り物の線引きが難しいのだそうです。
また、古代中国には刺身はあったようです。では、どのように食べたのでしょうか? また、酒池肉林の実像とは?
それらについても、ぜひ講座本編をご覧ください。
そして第5話は、酒にまつわるエピソードの数々です。当時から、イッキ飲みの文化はあったのか? 古代中国の酒豪認定の基準は20リットル? 飲み会ならではの失敗エピソードとは? など眼前に繰り広げられるがごときお話しが続きます。
古代中国の文献のなかにも「二日酔い」「三日酔い」に相当する単語が出てくるそうです。しかし、それを見つけるのが、これまた大変とのこと。それゆえ、そのような古代の日常が見つかったときの喜びは格別だといいます。
柿沼先生のテンミニッツTVの講座も、またご著書の『古代中国の24時間』も、そのような喜びがベースになっているからこそ、楽しい内容に満ちているのでしょう。
歴史の楽しさ、そして人間の愉快さを満喫できる講座です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆特集:古代人の「暮らし」のヒント
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=191&referer=push_mm_feat
◆柿沼陽平:古代中国の「日常史」(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4805&referer=push_mm_rcm2
----------------------------------------
レッツビギン! 穴埋め問題
----------------------------------------
今回は「人生を楽しむための学び」についての問題です。ではレッツビギン。
例えばみんなで勉強すれば、競い合うからできるのです。よくあるのは、何かの会に入ること。例えばワインの会に入れば、周りに恥ずかしいから勉強するでしょう。あるいは短歌や俳句の会に入ると、いつも先生に選んでもらえないのは恥ずかしいので、勉強をするでしょう。
人間は怠け者なので、一人でいたのではなかなか勉強ができない動物なのです。だから、昔から「ピア・ラーニング」の大切さがいわれます。「ピア(pier)」は英語で( )の意味です。一人で勉強はできないのです。
さて( )には何が入るでしょう。答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3525&referer=push_mm_quiz
----------------------------------------
編集後記
----------------------------------------
皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて本日は、最近読み始めている中島隆博先生の著書『荘子の哲学』を紹介いたします。
『荘子の哲学』(中島隆博著、講談社学術文庫)
https://www.amazon.co.jp/dp/4065283426/
この本は千葉雅也氏が「中島先生の荘子がなければ、僕の哲学も文学もなかった。ここからすべてが始まったのです」という推薦文を帯で書いているようにとても素晴らしい内容なのですが、私が特に感動したのは湯川秀樹のエピソードで始まるプロローグです。
湯川秀樹が研究者となって、素粒子のことを考えているとき、突然『荘子』の一節を思い出したというのです。それはどういうことなのか。詳しくは本書をぜひお読みいただければと思いますが、中島先生はそのあとでこう綴っています。
〈『孫子』の喚起力は遥かに遠く、時代や地域そしてジャンルを越えて、湯川秀樹にまで届いていたのである〉
はたして『孫子』の喚起力とはなにか。気になりますよね。最後にその『荘子』の一節について触れている以下、中島先生の講義を紹介して終わりたいと思います。
日本文化には歌や舞いで「からだ」が変容する瞬間がある
中島隆博(東京大学東洋文化研究所 教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2802&referer=push_mm_edt
その『荘子』の一節とは、「渾沌」の物語です。ぜひご視聴ください。
人気の講義ランキングTOP10
「ブッダに帰れ」――禅とは己事究明の道
藤田一照
熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質
テンミニッツ・アカデミー編集部