編集長が語る!講義の見どころ
大人気!プラトン『国家(ポリテイア)』を読む~後半/納富信留先生【テンミニッツTV】

2023/02/28

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

大人気をいただいている、納富信留先生(東京大学文学部教授)の《プラトン『ポリテイア(国家)』を読む》講座。

全16話のうち、前半8話を1月5日に配信した後、少し小休止を入れておりましたが、後半が2月10日から配信再開しております。

この講座の第1話で納富先生が詳述くださるように、実は、プラトン『国家(ポリテイア)』は、アメリカのトップ10の大学で学生たちが「一番読んでいる本」の第1位。また、2001年に『ガーディアン』が、哲学の専門家を中心に「これまで書かれた哲学書の中で何が一番重要か」という大々的な調査を行なったところ、第1位になっています。

とはいえ、岩波文庫版で分厚い2冊組の本書は、なかなか手に取りづらいと思う方もいらっしゃるかもしれません。

その本を、納富先生がとてもわかりやすくご解説くださるのですから、本講座が大人気になるのも、まことに納得です。

納富先生は『ポリテイア(国家)』は「私たち自身を変える書」であり「史上最大の問題作」だと語ります。そして、こうおっしゃるのです。

《プラトンの対話篇は、読む私たちの魂を変えてしまう、変容させるという意図を持って書かれた本です。だから、「危険な本だ」といってもいいと思います》

はたして、後編ではどのようなことが説かれるのでしょうか。

◆納富信留:プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(全16話)
(9)魂の三部分説
理性・気概・欲望――魂の中に3つの階層とその真意
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4709&referer=push_mm_rcm1

講座の第8話までで、「正義」の問題を考えるのに、「理想的なポリスとはいかなるものか」という壮大な思考実験が展開され(第6話)、そのポリスの構成員の初等教育として、学芸と体育という2つのプログラムからなる魂の教育が必要であること(第7話)、さらにポリスの指導者層のための高等教育は、数学を基盤とするものであるべきことが説かれました(第8話)。

これらの話をうけて、第9話では、いよいよ「魂の構造とはいかなるものか」が考究されます。

プラトンは「魂は3つの部分から成り立っている」と説きます。魂には「理性・気概・欲望」という3つの階層があると考える「魂の三部分説」です。

じつはこの3階層は、ポリスにおける階層「守護者(トップの政治家)・軍人・生産者」になぞらえたものです。この対比で、魂のあり方がとてもわかりやすくなります。

生産者には「もっと儲けたい」という欲望がある。軍人は国を守るための勇気や気概を持っている。そして守護者(指導者層)はポリス全体を導く知恵を司る……。

この3階層のそれぞれの思いに基づいてポリスが動いていくように、魂も「理性・気概・欲望」の働きのバランスによって動いていくというのです。

納富先生は次のようにご解説くださいます。

《例えば、欲望が「俺はこれがしたい」と言ったときに、理性は「いや、それは今はやってはいけない」と言う。そのとき、欲望が強いと、真ん中の気概を引き入れて、理性に対して「ノー」と言い、理性の判断を抑えてしまうということが起こります。逆に理性が強いと、気概と協力して、「欲望よ、今はやめておきなさい」とコントロールが効いていく。この3つのパーツがそろっていることによって、実際に何が起こるかというと、コントロールのバランスをとるのです》

こうご説明いただくと、「魂の三部分説」がとてもわかりやすくなります。

第10話は、「男女平等、家族廃止、財産共有論」という、とても刺激的な議論。第11話は、なぜ哲学者が国を率いるべきかを「船乗りの比喩」で説く「哲人統治論」。

そして第12話は、いよいよ「イデア論」です。

「プラトンはイデア論を説いた」という話は、たとえば倫理などの教科書でも学ぶことですが、しかし、その内容について今一つピンとこないのも確かです。

「イデアとは何か」について、プラトンは『ポリテイア(国家)』において「太陽の比喩」「線分の比喩」「洞窟の比喩」の3つの比喩で説明します。しかし、それぞれの比喩は、原典を読んだだけでは、少しわかりづらいかもしれません。

そこで納富先生は、3つの比喩を概説くださったうえで、特に「洞窟の比喩」について解説くださいます。

とても理解しやすいお話ですので、内容は、ぜひ講座第12話をご覧ください。理解が一歩前に進んだ感覚を得られること、うけあいです。

第13話、第14話は、「ポリスと魂の堕落過程」のお話。ここでプラトンは、ポリスの政治が「優秀者支配制」「名誉支配制」「寡頭制」「民主制」「僭主制」と堕落していく過程を引き合いに出しながら、「魂の正義」の堕落の問題を論じていきます。

なぜ、ポリスの政治は上記のように堕落してしまうのか。プラトンは「金銭などへの欲望がシステムを壊す『分断』の基になっていく」といいます。

社会がいかに崩れてしまうのか、そして魂は……。ここは、民主主義の危機が叫ばれる現在、まことに興味深い論点だともいえましょう。

第15話も、刺激的なテーマ「詩人追放論」です。これは文字どおり、芸術や表現の自由の否定につながりかねない議論です。なぜプラトンは「詩人追放論」を唱えたのか。

これも「イデア論」に関わる問題なのですが、まさに現在の言論や報道の状況などにもリンクする話です。

そして最終第16話は、エルという人物が「死後の世界を見てきた」話の紹介となります。なぜ『ポリテイア(国家)』という書物の最後が「臨死体験」の話で終わるのか。

ここは「正義に基づいて生きた者は、このように報われて、不正義に生きた者はかく罰せられる」という話を描くことによって、「正義や徳への報酬」について論じている部分だと納富先生はおっしゃいます。ギリシア人の死生観や、死後の世界への感覚も垣間見ることができる興味深いパートです。

納富先生は、このようにプラトン『ポリテイア(国家)』の全体像を余すところなくご紹介くださるのです。

以前のメルマガでも書きましたが、納富先生の熱い語りで、プラトンの対話篇に引き込まれるうちに、自分自身の人生への見方が変わっていくかもしれません。また、現代社会の諸問題を考えるうえでの、1つの貴重なものさしになることも間違いなしの名講義です。

ぜひ、ご試聴ください。


(※アドレス再掲)
◆納富信留:プラトン『ポリテイア(国家)』を読む(9)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4709&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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《無努力主義》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2008&referer=push_mm_hitokoto

センスのメカニズムを動かしているのは努力の娯楽化
楠木健(一橋大学大学院 経営管理研究科 国際企業戦略専攻 教授)

努力が必要だと思った時点で終わっているのではないか、向いていないのではないかと考えてきました。その分野についてセンスがないのではないかと思ってしまうのです。私の原則は無努力主義です。

自分の中にある動因で好きなことがあれば、本人は努力だとは思わないということです。はたから見ると非常な努力をしているように見えても、本人はそれをほぼ娯楽のように思っているでしょう。こうなれば努力も継続するわけです。継続は力なりです。


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今週の人気講義
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「昭和の妖怪」岸信介の知られざる実像を検証する
井上正也(慶應義塾大学法学部教授)
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サイバー攻撃、陽動作戦…中国の軍事侵攻シミュレーション
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始皇帝の時代に餃子はなかった?古代中国の日常に迫る
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独裁者が暴走したらどうなるか――プーチンの教訓を生かせ
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「教養の学び方」講座を一挙集約…知の巨人たちに学ぶ喜び
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、明日から3月ですが、これから今年の上半期中に配信を予定している講義のキーワード(テーマ)をここで少しだけお伝えしようと思います。以下になります。

万葉集
ショパン
和食
脳科学
自由主義
福田赳夫
ペット

こう見ると、とても幅広く、また多様で、気になるテーマばかりではないでしょうか。
なかにはまだこれから収録というものもありますので、詳細については配信が決まりましたら、当メルマガなどでもお伝えしていこうと思いますが、いずれもきっと皆さまの「まなびごごろ」を刺激する貴重な講義になることでしょう。ご期待ください。

ということで、今後ともテンミニッツTVをどうぞよろしくお願いいたします。