編集長が語る!講義の見どころ
透明な氷のつくりかた~科学的思考はなぜ大切か/岡部徹先生【テンミニッツTV】

2023/04/11

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

「頭のいい人」とは、どのような人でしょうか。いろいろなポイントがあると思いますが、その重要な1つが、「理系的な思考、科学的思考ができる人」ではないでしょうか。

理系的な思考、科学的思考は、とても大切なものであることはいうまでもありません。とはいえ「科学的思考」というのは、「数学や理科が得意か不得意か」などといった学歴に比例するものではないことも確かです。

典型例は、やはり昭和の名経営者である松下幸之助でしょう。ご存じのように松下幸之助は家の貧しさから小学校を4年生で中退して丁稚奉公(でっちぼうこう)に入ったわけですが、しかし本質的には科学的思考力に富んだ人だったように思います。

その象徴的な例が、松下幸之助の著作『道をひらく』に載せられている「なぜ」という文章です。その終盤には、次のようなことが書かれています。

《日に新たであるためには、いつも“なぜ”と問わねばならぬ。そしてその答を、自分でも考え、また他にも教えを求める。素直で私心なく、熱心で一生懸命ならば、“なぜ”と問うタネは随処にある。それを見失って、きょうはきのうの如く、あすもきょうの如く、十年一日の如き形式に堕したとき、その人の進歩はとまる。社会の進歩もとまる。繁栄は“なぜ”と問うところから生まれてくるのである》

実際に松下幸之助は、絶えず「なぜ」と問うていたようです。幸之助と車に同乗すると、次々と「あれは何か?」「なぜ、そうなっているのか?」などと聞かれて答えるのが大変だったという逸話も数多く残されています。

このように、「なぜ」と問い続ける心こそ、科学的思考法の原点ではないか。その発想を糸口としつつ、岡部徹先生(東京大学生産技術研究所所長)が、とてつもなく面白い講義をご展開くださっています。

◆岡部徹:科学的思考はなぜ大切か(全5話)
(1)「状態図」という概念
科学的思考とは「なぜ?」を追求していくこと
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2932&referer=push_mm_rcm1

岡部先生はレアメタル研究の第一人者でいらっしゃいますが、その岡部先生が、身近でわかりやすい例を用いながら、Q&Aで軽妙洒脱に、科学的思考の基礎について教えてくださいます。

岡部先生が最初に問うのは「透明な氷のつくりかた」です。

一般の家庭の冷蔵庫でつくる氷は、たいてい中が白くなっています。しかし、バーなどでオンザロックなどを飲むときは、透明な氷であることも多いはず。

はたして、この「透明な氷」はどうやってつくるのでしょうか。

そして、実はこの「透明な氷」をどうつくるか、という考え方は、金属の精錬など数多の工業化技術にかなり応用できるのだといいます。

そして詳しく、具体的にその方法論を教えてくれるのですが、それもQ&A形式で展開くださいます。まるで自分自身が問われているよう。岡部先生が発する質問の答えを考えながら講義を聞き進めると、より自分自身の身についていくように思えてきます。

もう一つ、岡部先生が問いとして出されるのが「蒸留酒」のつくりかたです。よく知られているとおり、お酒には醸造酒と蒸留酒があります。日本酒やワイン、ビールなどは醸造酒。ブランデー、ウイスキー、ウォッカなどは蒸留酒です。

「蒸留酒だから、ゆでれば(=蒸留すれば)いいのでは?」というのは、まさに正解ですが、では、なぜ「ゆでる」のか。どうして「ゆでる」ことによって、アルコールが濃縮するのでしょうか。

このようなことを、岡部先生は「状態図」を示しつつ、教えてくださいます。

状態図の作り方、読み方は、岡部先生が大学院で必ず教えていることだといいます。岡部先生は、こうおっしゃいます。

《状態図を見ながら、原理原則から考えていくと、また別の方法が出てきます。これも大事な発想です。例えば、月でやったらどうなるか、とか。そういうことも考えなければなりません。その場合は、原理原則に戻らないといけません。いずれにしろ、大事ポイントは、状態図をはじめ、こういった自然科学的な理解のもとにやっていけば、必ず正解にたどり着く、ということです》

はたして「状態図」とはどのようなもので、それを使うと、いかなることがわかるのでしょうか。詳細はぜひ講座本編をご覧ください。

さらに、この講座の第5話では、岡部先生は錬金術に言及されます。岡部先生は、自らも「錬金術師の末裔だ」とおっしゃいます。高純度のレアメタルの精製は、錬金術の伝統のうえに乗っかっているというのです。

たとえば、金を製錬するときには、その金の100万倍のゴミが出て、膨大なエネルギーをかけ、しかも多くの場合、危険なシアンを使っているというのですが……。

とても刺激的な講義です。上記したような例を取り上げながら、「原理をおさえたうえで、さまざまな方法を試行することの大切さ」「物事の基本を、きちんと理解しておくことの重要性」などについて説かれていくあり方は、圧巻です。

科学エッセイの名作として名高い寺田寅彦の文章をお読みになったことがある方も多いと思いますが、岡部先生のこの講義は、Q&Aで問いかける科学的思考論の名作です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆岡部徹:科学的思考はなぜ大切か(1)
科学的思考とは「なぜ?」を追求していくこと
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2932&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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《クジラは日本人を助けた》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1058&referer=push_mm_hitokoto

日本の商業捕鯨はなぜダメなのか?捕鯨禁止と食文化
小泉武夫(農学博士)

日本はそのうち動物性タンパク質の食べ物がなくなってきます。なぜか。例えば、鳥インフルエンザなんて、また出てきたらどうなるか。狂牛病なんて出てきたらどうなるか。豚だって、最近豚コレラというようなものが、いっぱい出てきているではないですか。だんだんと外国からそういうものが入ってこなくなってきた場合に、われわれは動物性タンパク質を取れなくなりますよ。そんな時に、クジラは日本人を助けたのです。かつて日本人の体の中に入れた動物性タンパク質のなんと7割はクジラだったのです。それで日本は戦後の混乱期を乗り切ったのです。クジラはいかに日本人にとって大切なものか。


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今週の人気講義
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新しいことを成し遂げるには使命感や原体験が重要
小林りん(ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン 代表理事)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2141&referer=push_mm_rank

プーチンは三流コメディアン、ゼレンスキーが一流政治家?
山内昌之(東京大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4873&referer=push_mm_rank

60年安保、米中との関係からみた岸信介の神話化
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教育のトップを変えなかった徳川家康の意図
田口佳史(東洋思想研究家)
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、本日は先週金曜日から配信が開始となった鈴木宏昭先生(青山学院大学 教育人間科学部教育学科 教授)の新シリーズ講義を紹介いたします。

◆鈴木宏昭:〈続〉認知バイアス~その仕組みと可能性(全5話予定)
(1)概念のバイアス〈前編〉
非合理なのに誰もがハマる「概念のバイアス」とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4877&referer=push_mm_edt

この講義は前回のシリーズ講義〈認知バイアス~その仕組みと可能性〉の続編で、今回のシリーズでは「概念のバイアス」と「思考のバイアス」(3話目以降)についての講義となります。
いずれも認知バイアスのなかでは重要なお話になりますので、ぜひ続けてご視聴ください。毎週金曜日配信で全5話予定です。