編集長が語る!講義の見どころ
いま話題のAIを生物進化から考える/長谷川眞理子先生×松尾豊先生【テンミニッツTV】
2023/05/02
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です
いま巷では、「ChatGPT」が大いに話題になっています。ChatGPTは、2022年11月に公開したされた人工知能チャットボット。要は、こちらから質問を投げかけると、そのことについて、人工知能が答えを返してくれるのです。
たとえば、「世界を変えた経済学者を3人教えてください」という質問を投げると、ChatGPTが「アダム・スミス、ケインズ、ハイエク」の3人を挙げてくる(経済学者の誰を挙げてくるかは、聞くたびに微妙に変わったりするのですが)。そして、「それぞれの理由を、〇〇字以内で答えて」と聞くと概要を答えてくれる、という感じです。
少し使ってみると、なかなか驚かされます。「世界が大きく変わるのではないか」という感覚さえ覚えます。しかし、使っていくうちに「う~ん???」という部分も見えてきて……。
近年では、「いつかAIの能力が人間を抜くだろう」「社会も大きく変わるだろう」「なくなる職種も出てくるだろう……」などという話も、つとに指摘されています。
そもそも、「AI(人工知能)の本質」とは、いかなるものなのでしょうか?
本日は、そのことについて、進化生物学を専門とする長谷川眞理子先生(日本芸術文化振興会理事長)と、AIおよびディープラーニングを専門とする松尾豊先生(東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授)が、縦横無尽に対談されて明らかにした講義を紹介します。
日本の知性に集結いただいているテンミニッツTVならではの名講義です。
◆長谷川眞理子×松尾豊:知能と進化(全8話)
(1)知性と身体性
AI、ディープラーニングとは…知能と身体性は不可分か?
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2241&referer=push_mm_rcm1
この講座シリーズの冒頭で、長谷川眞理子先生がAIについて次のような問題提起をされます。
《長谷川:私は「感情や欲求が全く抜けた知性はないのではないか。それを考えない議論は全て駄目な議論ではないか」といったことを話しました。それ以来、随分いろいろと進んできたことは分かるのですが、私は生物学者なので、どうしても人工知能(AI)というものが腑に落ちないというか、嫌なのです》
まことに興味深いご指摘です。
そのうえで、次のように質問を重ねていきます。
《長谷川:松尾さんは人間の認知の仕組みが大きく分けて認知運動系と記号処理系に分かれるというお話をされています。これはその通りだと思います。その上で、体とは身体性がないと本当に駄目なのか、という松尾さんの話には、私は非常に興味があります。
松尾さんの本にはいろいろと書いてありますが、私は、生物の知能は別に誰かが設計してつくったわけではなく、生きて繁殖していく中で情報処理が必要になり、それに合わせて進化してきたもので、身体性と不可分にあると思っています。大昔の漫画に、脳みそだけがホルマリン漬けになり、そこに電極があって、それで指令するというような話があったかと思いますが、そのようなことは絶対にないと考えていました。そこで、松尾さんは体の話をどのように考えていますか》
この問いに対して、松尾先生は次のように答えられ、さらに、どんどん対話が続いていきます。
《松尾:知能を生存のための装置だと考えると、そもそも生存とひもづいていなければならないので、身体性とひもづいていない知能はあまり意味がないことになります。ですが、知能を複雑な要因が絡み合った現象をひもとく力であると考えると、自分が観測しているある現象に対して、何が作用してこうしたことが起きているのか、あるエージェントにとって何がコントローラブルで何がコントローラブルではないのか、ということをひもとくことさえできれば、必ずしも身体性は必要ないということになります。だとすると、そうしたことは観察だけで可能なのではないかと思うに至りました》
《長谷川:私は、観察も含めて、何かを考えることの大前提に、既に体のフィードバックが入っているのではないかと思います。
なぜそう思うかというと、植物は中枢神経系がないからです。植物は動きませんよね。もし動けるなら、次のアクションを選択しなければなりません。また、動けるということは逃げたりどこかに行ったりできるということで、そうした情報の選別が必要なのです。しかし、生物の何十億年の歴史の中で植物に中枢神経系ができなかったのは、そのことと関連があると思います。それは、つまり「体(中枢神経系)があって、それ(体)が動く」ということです》
《松尾:ですが、ディープラーニングで有名なヨシュア・ベンジオ先生(カナダ・モントリオール大学教授)は、「プライヤー」という言葉でよくこのことを説明しています。(以下続く……)》
また、第7話では、こんな対話もなさっています。
《長谷川:それでは、それ(高度な人工知能)ができたときにどのような世界になり、そのときにどういう生き方になるかという将来像に関してはいかがでしょうか》
《松尾:僕は、人間の生活はそんなに変わらないと思っています。例えば、今でも別に頭が良い人が一番偉いわけではありません。経営者は、自分よりも頭が良い人をお金で雇って使っているということでしょう。そういう感じだと思います》
《長谷川:そうですか。私は「人間は全然変わらないだろう」というのは、とても人間を楽観的に見ていると思います。というのは、いろいろな技術が発達してきて、全体的に人間が楽な暮らしをするようになりました。それで、国家などによっては、昔の部族社会から急激に変わっていきました。(以下続く……)》
これらの部分からだけでもご想像いただけるように、まさに知的刺激と発見に満ちた対談です。
図なども示しながらご説明いただくので、AIの考え方について、根本的な部分からの理解を深めることができます。これからの社会と技術のあり方について深く知るためにも、大いに役立つ講座です。ぜひご覧ください。
なお、テンミニッツTVでは、今年1月に『超デジタル世界』(岩波新書)を発刊された西垣通先生(東京大学大学院情報学環名誉教授)に「AIの深い本質」についてお聞きした講義を、この5月以降に配信予定です。どうぞお楽しみに。
(※アドレス再掲)
◆長谷川眞理子×松尾豊:知能と進化(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2241&referer=push_mm_rcm2
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☆今週のひと言メッセージ
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《考える力も真似から入る》
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3526&referer=push_mm_hitokoto
10分でわかる「古典と歴史を学ぶ意義」
出口治明(立命館アジア太平洋大学(APU)学長/学校法人立命館副総長・理事)
考える力も真似から入る。考える型や発想のパターンを真似していく。いろいろな人に会って「この人はこういうふうに考えるのだな」と知り、本を読んで、書いた人の思考のプロセスを追体験する。そのことによって、考える型を学ぶのです。型を学んで初めて、型を破れるのですよ。
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今週の人気講義
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4884&referer=push_mm_rank
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて、先月、新機能として「講義メモ機能」を紹介いたしましたが、いかがでしょうか。
文字どおり講義の「気になった言葉」をメモとしてサイト上のテキストからコピーして保存したり、講義を視聴していて思いついた言葉などを書き留めるメモとしても使用したりと、いろいろな使い方があると思います。どうぞ皆さまのやり方でお使いいただければ幸いです。
なお、よくわからないという方は以下で詳しく説明しておりますので、ご視聴ください。
◆テンミニッツTV編集部:便利な機能を動画で紹介!「講義メモ機能」の使い方
心に響いた言葉や自分の所感など、何でもメモできる!
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4901&referer=push_mm_edt
また、「使い方ページ」でもご案内しております。こちらもご参照ください。
◆使い方ガイド
SP版:https://10mtv.jp/new_page.php?hash=2fsYBb4et7&referer=push_mm_new_function
PC版:https://10mtv.jp/new_page.php?hash=P88hFuUd7U&referer=push_mm_new_function
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