編集長が語る!講義の見どころ
ハインリッヒ13世の陰謀とSNS社会の危険/曽根泰教先生【テンミニッツTV】

2023/05/16

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です

ときに、「変な事件」が起きることがあります。ただ「変」なだけであれば良いのですが、それがさらに悲劇的な事件や潮流の予兆であることもあるので、油断は大敵です。

たとえば日本の戦前でも、1931年(昭和6年)に「三月事件」「十月事件」という陸軍将校によるクーデター未遂が起きています。これらは、ずさんな計画だったこともあって、たちどころに失敗に終わります。

しかし、その後、血盟団事件(井上準之助と團琢磨が暗殺された事件)や、五・一五事件、二・二六事件が続くことを考えると、簡単に「幼稚なクーデター」として片づけるわけにもいきません。

戦前のドイツでも、1923年にヒトラーが率いるナチス党が「ミュンヘン一揆」と呼ばれるクーデターをおこしています。このときは半日で鎮圧されましたが、これが10年後(1933年)のヒトラー内閣成立へと続くものであることは間違いありません。

さて、昨年(2022年)12月7日に、「ドイツでクーデターを企てていたグループの25人が逮捕された」とのニュースが流れました。首謀者とされたのは、ハインリッヒ13世。メンバーには警官や軍人も含まれていました。

この事件について、曽根泰教先生(慶應義塾大学名誉教授)が講義くださいました。

◆曾根泰教:ハインリッヒ13世の事件…他人事ではない陰謀論の恐怖
妄想が過激化…ハインリッヒ13世の陰謀とSNS社会の危険
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4854&referer=push_mm_rcm1

まず、この事件について、曽根先生は次のように指摘されます。

《中心人物がハインリッヒ13世という古い貴族の出身者でした。それから、右翼の元議員を司法相にするということで、さらに軍人や元警官などが重武装して企画された、一種の大陰謀のような計画です。(AfD:ドイツの政党「ドイツのための選択肢」の)マルザックウィンケマンという元連邦議員で現在ベルリンの判事をしている人なども中心人物です》

曽根先生も、この事件は「漫画かドラマのような話」だとおっしゃいます。そして対比として、BBCで放送された「サマー・オブ・ロケット」というドラマをご紹介くださいます。このドラマには、元貴族が元軍人たちと現職議員を糾合してロンドンを襲おうとして失敗するエピソードも含まれるといいます。

「ハインリッヒ13世」という名前の響きもあって、どうしても「漫画的」「ドラマ的」と感じる日本人も多いと思います。しかし、その根がどこまで深いのかは、しっかりと見ておく必要があるでしょう。

この事件の背後には、「ライヒスビュルガー(帝国の市民)」と呼ばれるグループがあったといわれます。Qアノンのような主張を信じる人たちで、現在のドイツ政府は「アメリカなどに操られている」として認めない一派です。

近年、ドイツでその勢力が拡大していて、2万人を超えている(一説には4万人)ともいわれます。

曽根先生は、旧ナチスの復活を厳しく制限してきたドイツでこのような事件が起こったことは、決して「他人事」ではないとおっしゃいます。「われわれが日頃、漫画やドラマだと思っていることが現実にもあるのか」というのです。

このような勢力は、SNSやインターネットによって、容易に拡大しうるとも、曽根先生はご指摘下さいます。そして、「オウム真理教の頃はまだQアノン的なインターネットの世界がなかったが、もしオウムが、インターネットを使った手法を利用していたら、どうだったか」と問題提起されるのです。

そして、こうおっしゃいます。

《物語にしておきたいのですが、しかし、これは物語ではないかもしれないでしょう》

全1話の時事エッセイ講義ですが、様々な問題をご提起いただく内容です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆曾根泰教:ハインリッヒ13世の事件…他人事ではない陰謀論の恐怖
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4854&referer=push_mm_rcm2


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☆今週のひと言メッセージ
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《思いなき主体に知はつくれない》

https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2857&referer=push_mm_hitokoto

知識は主観的であり、真実にしていくプロセスである
遠山亮子(中央大学 大学院 戦略経営研究科 教授)

つまり、「思いなき主体に知はつくれない」ということです。知識は私が何かを強く信じるところから始まります。何かを信じない人には知識を、何かを強く思うことがない人には知識をつくることができません。だから先ほどいったように、知識とは偶然、そこらへんに転がっているものではないのです。私たち、あるいは私が何を思うか、何を信じるか、そこから始まるということです。


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今週の人気講義
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陸軍との予算折衝、汪兆銘政権、そして預金封鎖と新円切替
井上正也(慶應義塾大学法学部教授)
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「発酵はマジックだ」心も体も豊かにする発酵食品のアレンジレシピ
小泉武夫(農学博士)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4886&referer=push_mm_rank

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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4897&referer=push_mm_rank


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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、本日はちょっと気になる、面白い本を見つけたので、紹介いたします。

『雑草ラジオ――狭くて自由なメディアで地域を変える、アマチュアたちの物語』(瀬戸義章著、英治出版)
https://www.amazon.co.jp/dp/4862763286

この本の最終章に〈ナローキャストを始めよう〉という見出しで以下の話が出てきます。

〈ナローとは「狭い」という意味です。狭い・小さいといった言葉はふつう、ポジティブには用いられません。君の心は狭いねとか、器の小さい奴だなあとか言われたらムッとするでしょう。しかし、小さいラジオ局の狭い放送がどれだけ防災に役立つか、あるいは地域に良い影響を与えうるか〉

そして、ナローキャストの良い点として、〈すぐに跳ね返ってくること〉を挙げ、〈身近な相手に対する試行はフィードバックを受けやすい〉と言っています。そして、もう一つ、〈狭さとは実に自由〉であると。

本来はネガティブなこと、マイナスに受け取られやすいこと、あるいは今まであまり日の当たらなかった話、気が付かなかった言葉に意味、価値、役割を与えることで、新しい光が当たって瑞々しい活動のエンジンが動き出す。そんな素敵な物語が描かれている本です。ぜひご一読ください。

そして、テンミニッツTVですが、1話たった10分ほどの講義なので、ご視聴されるお一人お一人にとっては小さいこと、些細なことかもしれません。でも、そこから劇的な化学変化をもたらしてくれる、そんな可能性を秘めている“自由なメディア”だと自負しております。今後ともご愛顧のほどどうぞよろしくお願いいたします。