編集長が語る!講義の見どころ
話題のChatGPT~AIと人類の未来/特集&西垣通先生【テンミニッツTV】

2023/05/26

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

「ChatGPT」が大いに話題です。質問を投げかけると、それに対する答えを返してくれる、人工知能チャットボットです。しかし、その問題点もいろいろと指摘されていて……。

AIの能力は、人間を超えるのか? はたしてどのような未来がくるのか? そして人間が考えるべきこととは?

今回の特集では、それらについて本質部分から真正面から答えていただいている、珠玉の講義を集めました。とりわけ、新着の西垣通先生の講義は必見です!

■特集:ChatGPT~AIと人類の未来

https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=201&referer=push_mm_feat

・西垣通:ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは

・中島隆博/納富信留:シンギュラリティ後の世界を見据え、古典の役割を問う

・長谷川眞理子/松尾豊:AI、ディープラーニングとは…知能と身体性は不可分か?

・柳川範之/松尾豊:AIやディープラーニングによって社会分析の方法が変わる

・橋爪大三郎:AIに本は書けるのか~AIと人間の違いを考える


■講座のみどころ:ChatGPTについて、しくみから哲学まで「深く考える」(西垣通先生)

ChatGPTとは、いかなるもので、何ができて、本当は何ができないのか? その点に迫った講義を、西垣通先生にしていただきました。

西垣先生は1972年に東京大学工学部を卒業後、日立製作所主任研究員、米国スタンフォード大学客員研究員、明治大学教授、東京大学社会科学研究所教授、東京大学大学院情報学環教授、東京経済大学教授を歴任されました。コンピュータの最前線に身を置いていらっしゃったご経験から「基礎情報学」を提唱され、ご自身で小説も執筆されています。ご近著には『超デジタル社会』(岩波新書)があります。

今回、その西垣先生に、ChatGPTなど、AIの現在地からコンピュータ社会の未来まで、お話をうかがいました。講義は、ChatGPTの基本的なしくみから、AIの課題、コンピューティング・パラダイム&サイバネティック・パラダイムの哲学的背景、さらに日本思想にまで及ぶ、とても深いものとなりました。

とはいえ、とてもわかりやすくご解説をいただいているので、コンピュータの未来について「自分の頭」でしっかりと理解することができます。

まさに、いま、必見の講義です。

◆西垣通:ChatGPT~AIと人間の未来(全8話)
(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか
ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4921&referer=push_mm_rcm1

まず講義の冒頭は、ChatGPTを実演して、「世界を変えた経済学者を3人教えてください」と聞いてみることから始まります。

その答えは、講義第1話をご覧いただくとして、西垣先生は「ChatGPTは、実は考えていない」のだと喝破します。

《ChatGPTが何をしているのかというと、基本的にはパターン認識を行っています。先ほど出力された回答も、AIから見れば一つの文字列でしかありません。このようなパターンが山のようにデータとしてあるわけです。それを上手に組み合わせて、いかにもありそうな答えを出すことができますが、その組み合わせ方は統計処理に基づいています。これは、大学の先生や学生が論理に基づいて考えるのとは、やはり違います》

そのうえで、「データの量として測れるもの」は答えられるが、「その人の身になって考える質問」に対してはうまく答えてくれないことが多いとおっしゃいます。

《偉い人や経済学者について話すとき、われわれはその人たちに対する尊敬や好みなど、自分の共感や経験に基づいて話します。あの人は、理論はいいのだけど、なにか人柄が良くないな、といったように。これが普通の人間のコミュニケーションです。しかし、(AIには)それが全然できません。だから、データがあればいいというわけではなく、そのデータの奥にあるものが人間のコミュニケーションにはとても大切だと思います》

もう1つ、指摘されるのが、「AIが嘘をついてくる」ことです。講義では、福沢諭吉の名言の出典を聞いてみたら、ChatGPTが自信満々に答えてきたけれども、実はそれが嘘だったエピソードから、話が進んでいきます。

ChatGPTとは、Chatが会話を意味し、GPTは「Generative Pre-trained Transformer」の略です。Generativeというのは言葉を生成する、作り出すという意味。Pre-trainedというのは、前もって訓練されたということ。つまり、言葉を学習し、訓練されているということですが、西垣先生はこの学習の方法が、人間の言葉の学習と根本的に異なることを強調されます。

キーワードは「母語」です。人間は「母語」を学ぶときに、様々な身体的経験や心の動きなどと連動して言葉を覚えていきます。いわば、身体的経験が「母語」のベースになっています。しかし、AIには身体的経験はありません。

では、そのAIが、「アウシュヴィッツの悲劇」を正しく理解できるのか。その問題提起も必見です(第2話)。

しかし、なぜ人間は、そのようなAIの「回答」を「やっぱり賢い」と思ってしまうのか。

第3話で西垣先生は、1950年代の第1次AIブーム、1980年代の第2次ブームと2010年代半ばからの第3次AIブームの違いについてお話しくださいます。

元々、コンピュータは「論理主義」をベースにつくられていた。第2次ブームでは、知識を集めて正しい答えを導きだそうとした。一方、第3次ブームでは、パターン認識と統計によって「確からしい答え」を導き出すようになった。そのことを、人間はどう考えるべきなのか……。

続く第4話のテーマは、「AIは未来のヒット商品を予測できるのか」。昔の例でいえばダッコちゃん人形や紅茶キノコダイエットなどのように、なぜ流行るかわからないけれども一世を風靡するものを、パターン認識と統計のAIが予測することができるのか。

最近では、AIによって音楽や絵画を自動生成することも行なわれています。しかし、そのような世界において、人間の創造性はどうなるのか? 世の中を一変させるような衝撃的な芸術作品は本当に生まれるのか? ……ここも、まことに重要な議論です。

第5話では、コンピュータと哲学の連関について語られます。1960年代後半、マルクス主義やサルトルの実存主義などのモダニズム的に対し、レヴィ=ストロースの構造主義などポストモダニズムの哲学が興隆してきます。

ポストモダニズムの特徴は「相対的な価値観」です。「近代化で人類は進歩する」という理念に疑問を投げかけ、「世界各地の文化は未開とされたものであってもそれぞれに価値があり、正しい」と相対化して見せたのです。

このような哲学を契機に、社会全般で「相対的な価値観」が重んじられるようになります。しかし、その一方で、実用主義的なデータサイエンスも流行っていく。それが迷惑動画でアクセス稼ぎを狙うような「アテンション・エコノミー(情報の質よりも、関心を競う経済)」と結びついてしまうと……。

この問題提起も、深く考えさせるものです。

第6話では「ネット集合知」と「Qアノン的現実」についての議論が展開されます。

インターネット社会の出発点は、「皆で意見をあわせていくと、かなり正確な答えが出てくる」という楽観的な「集合知」の理論でした。

しかし現実には、同じような意見の人ばかりが集まって他人を貶める議論をエスカレートさせていく「エコーチェンバー」が蔓延し、自分たちと異質な人々への憎悪や差別意識がネットの中で増幅されていく「Qアノン」的な現象が広がってしまいました。このことと、日本的な「匿名文化」のかかわりは? まさに、現代的な課題です。

第7話は、コンピューティング・パラダイム&サイバネティック・パラダイムと、大乗仏教の「空-縁起」理論の関連性についてです。

実はデジタル化について、上記の2つの見方があるといいます。コンピューティング・パラダイムは、「実体からなる秩序があり、データ分析で答えが出る」と俯瞰的に考えます。一方、サイバネティック・パラダイムは「『生き物の観点』から考え、主観から立ち上げていく」。

この後者の議論に、実は大乗仏教が大きな影響を与えているというのですが……。この興味深い議論も、日本人としてぜひとも知っておくべきものでしょう。

そして、第8話は「情報と『もののあはれ』」についてです。西垣先生は、情報には「生命情報」「社会情報」「機械情報」の3つがあるとおっしゃいます。

「生命情報」は美しい、感動、痛いなどの生命の身体や心に立脚した情報。それを言語化、記号化すると「社会情報」となり、それを0と1のデジタルの世界で表わすと「機械情報」になる。この「生命情報」は本居宣長が説いた「もののあはれ」論と通底するところがあるのではないか?

ここもわかりやすくお話しいただいており、日本人にはスッと心に入ってくる議論になっています。そして、最後は、日本人として考えるべきコンピュータ社会についての話になっていくのです。

物事の本質を、第一人者がわかりやすく考えていく、とてもテンミニッツTVらしい講義です。ChatGPTが世の中を騒がせているいま、ぜひご覧ください。

(※アドレス再掲)

◆特集:ChatGPT~AIと人類の未来
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=201&referer=push_mm_feat

◆西垣通:ChatGPT~AIと人間の未来(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4921&referer=push_mm_rcm2


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レッツビギン! 穴埋め問題
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今回は「ピタゴラスと音の理論」についての問題です。ではレッツビギン。

皆さん、ピタゴラスのことは三平方の定理でご存じでしょう。数学者といっても、この人はいろいろなことを研究しています。「万物は(   )なり」といいましたが、実はこれが西洋文明の根底にあるのです。自然科学があれほど発達するのも、全ては数量化できるという考え方に基づいています。私たちも実際にやっているように、何でも数量化しないと納得しないという考え方は、ピタゴラスから来ているのです。ただ、ピタゴラスはそれだけではなくて、数の中に神秘的、宗教的な意味を見たのです。

さて(    )には何が入るでしょう。答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3021&referer=push_mm_quiz


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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、先月、新機能として実装された「講義メモ機能」ですが、いかがでしょうか。
講義の「気になった言葉」をメモとして保存したり、自分の感想などを書き留めるメモとして使用したりと、いろいろな使い方があると思います。どうぞ皆さまのやり方でお使いいただければ幸いです。

なお、よくわからないという方は以下で詳しく説明しておりますので、ご視聴ください。

◆テンミニッツTV編集部:便利な機能を動画で紹介!「講義メモ機能」の使い方
心に響いた言葉や自分の所感など、何でもメモできる!
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4901&referer=push_mm_edt

また、「使い方ページ」でもご案内しております。こちらもご参照ください。

◆使い方ガイド
スマホ版:https://10mtv.jp/new_page.php?hash=2fsYBb4et7&referer=push_mm_new_function
PC版:https://10mtv.jp/new_page.php?hash=P88hFuUd7U&referer=push_mm_new_function