編集長が語る!講義の見どころ
江戸とローマ~アッピア街道と東海道/本村凌二先生【テンミニッツTV】

2023/07/18

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です

さて、本日は、古代ローマと江戸を比較して、それぞれの特長を深掘りしていく大人気講義シリーズ・本村凌二先生の《江戸とローマ》より、《アッピア街道と東海道編》をご紹介いたします。

アッピア街道といえば、いまなお古代ローマ当時の面影を留める有名な街道です。レスピーギが作曲した交響詩「ローマの松」の終曲「アッピア街道の松」を思い起こされる方もいらっしゃるのではないでしょうか。

◆本村凌二:江戸とローマ~アッピア街道と東海道(全3話)
(1)ローマに通じる道
すべての道はローマに通ず――今も残るアッピア街道の軌跡
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4985&referer=push_mm_rcm1

レスピーギが作曲した「アッピア街道の松」は、あたかも古代ローマの軍団が行進していくかのごとく勇壮きわまりない曲ですが、実際にアッピア街道は「軍事目的」でつくられたのだと、本村先生はおっしゃいます。

《街道が整備されるというのは、本来は軍事目的ですね。経済活動やそういうことよりも、とにかく軍事。だから、ローマはできるだけ道をまっすぐつくる。目的地に行くために、なるだけ障害なく、あるいは回り道をしないで、できるだけまっすぐ行く》

このあたりの設計思想は、まことに興味深いものです。

当然、こちらから行きやすいということは、向こうからも来やすいということです。こちらから攻めるときはいいですが、相手から侵攻されたときは大変です。

本村先生は、近代のヨーロッパでも、プロイセンなどでは、街道をつくって整備するかどうかについては二律背反的なものがあるといわれていたとおっしゃいます。たしかにそうでしょう。

この講義は、古代ローマのアッピア街道と江戸時代の東海道を比較するものですが、第3話で紹介されるように、東海道の場合は、あえて大きな川に橋を架けるのを禁じたり、道を鍵型につくったり、防御を中心に考えて整備されていました。

にもかかわらず、古代ローマは、なぜこのようにまっすぐな道を整備したのか。

本村先生は、古代ローマでは「権威」が重んじられたことを指摘されます。そしてその例として、アウグストゥスの次の言葉を紹介くださいます。

《アウグストゥスは『業績録』の最後のところで、「私は他の人間から、特に権力において卓越しているわけでは別にない。ただ、“auctoritas”(権威)においては、自分は確かに他の人に優っているかもしれない」と、「権威」を強調しています。“potestas”という権力は他の人と全然変わらない。しかし、“auctoritas”(権威)においては、自分は他の人に優っているということです》

本村先生は、アウグストゥスが権威を強調したのは、「権力だけでは駄目なのだ」という意識があったからだといいます。

権力とは、煎じ詰めれば軍事力になる。それはもちろん必要だけれども、それだけでは駄目だという自覚が、古代ローマ人の場合、非常に強かった。

ローマ貴族のなかでは「権威をもって支配せよ」という言葉が、長らく語られてきたのでした。

勇壮にまっすぐ貫かれたアッピア街道は、ある意味では、まさにそのような精神を象徴するものなのでしょう。街道などのインフラは、それだけのものをつくったという動員力を示すものでもあり、権威に結びついていくのです。

一方、江戸の場合には、東海道はじめ五街道などを整備し、さらに「参勤交代」が行なわれるようになります。

各地の大名が参勤交代を繰り返すのは、徳川幕府の「権威」を象徴的に示すものでもあり、また、勇壮な大名行列は、その藩の権威を示すものでもありました。

江戸の庶民にとっても、参勤交代の大名行列の見物は、楽しいイベントでした。さらにいえば、参勤交代で多くの人々が江戸と地方を往還していたからこそ、1つの国としての一体性も生まれ、また、幕末維新につながるような全国の人材の交流も行なわれたのです。

「攻撃的」に整備するか、「防御的」に整備するかの違いはあれ、「街道」は、やはり権威を示す象徴的なインフラでした。そして、街道を通しての交流が、繁栄する文明をさらに繁栄へと導いていったのです。

街道と歴史にまつわる様々なエピソードが学べる本講義、ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆本村凌二:江戸とローマ~アッピア街道と東海道(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4985&referer=push_mm_rcm2

◆本村先生の《江戸とローマ》シリーズの他の講義は下記をご参照ください
https://10mtv.jp/pc/content/lecturer_detail.php?lecturer_id=121&referer=push_mm_rcm3


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編集部#tanka
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、先週木曜日(13日)から新講師である河合祥一郎先生(東京大学大学院総合文化研究科教授)のシリーズ講義の配信が始まりました。

◆河合祥一郎:深掘りシェイクスピア~謎の生涯と名作秘話(全6話予定)
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河合先生は元日本シェイクスピア協会会長で、シェイクスピアの演劇にも数多く関わっておられる、まさに「シェイクスピア」研究の第一人者です。
すでにご覧になった方はお分かりかと思いますが、声がいいのでとても聴きやすく、また内容も「シェイクスピアマジック」といわんばかりに聴けば聴くほどひき込まれていく、格別な講義です。
毎週木曜日配信で全6話予定です。ぜひシリーズ通してご視聴ください。