編集長が語る!講義の見どころ
真実の織田信長はドラマと大違い!?研究最前線を紹介/柴裕之先生【テンミニッツTV】

2023/07/25

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
現在放送中の大河ドラマ「どうする家康」では7月23日(日)に「本能寺の変」が描かれました。

今回の大河ドラマは、あまり拝見できておらず、なんとも論評が難しいのですが、しかし、大河ドラマの場合、常に大きな問題になるのが、「史実とのバランス」でしょう。

以前、小和田哲男先生にお話しをうかがったことがあります。小和田先生は、時代考証を務められるとき、「これはドラマだから、絶対にありえなかったこと以外はあまり意見を加えない。逆にいえば、少しでも可能性がありうることは脚本を重んじる」という趣旨のお話をされておられました。

たしかに、そうしないと、ドラマならではの人物造形が難しくなるに違いありません。この辺りは、まさにドラマの「作り手の力量」によるのでしょう。

たとえば、信長についてもさまざまな人物造形がなされてきました。近いところでいえば、同じく大河ドラマ「麒麟がくる」で染谷将太さんが演じられた信長も、非常にクセのある繊細な人物像でしたが、とても説得力を持たせて描いていました。

古くは「太閤記」や「黄金の日日」で信長を演じた高橋幸治さんのたたずまいを印象深く覚えておられる方も多いでしょう。

そのようなドラマで描かれる多様な人物造形を楽しみつつ、しかしぜひ、ドラマやフィクションの世界を離れて、真の信長像も深く知っておきたいものです。

織田信長といえば、「日本の中世から時代を一変させた革命児」「権威を利用することはあっても、従うことはない覇王」「どこまでも実力主義で、部下には酷薄な主君」「新たな経済原理を大幅に導入した経営者的為政者」「宗教勢力を弾圧した近代的合理主義者」……などといったイメージを思い描く方が多いのではないでしょうか。

しかし、最近の史料研究によって、そのような捉え方が大きく変わってきているといいます。気鋭の研究者である柴裕之先生(東洋大学文学部史学科非常勤講師/文学博士)に、新たな信長像をわかりやすくご解説いただいた講義を、本日はご紹介いたします。

◆柴裕之:天下人・織田信長の実像に迫る(全11話)
(1)戦国時代の日本のすがた
近年の研究で変わってきた織田信長の実像
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3477&referer=push_mm_rcm1

まず手始めに、信長といえば「天下布武」「天下統一」などといった言葉がよく連想されますが、このときの「天下」とはどのような概念でしょうか。

多くの方が「天下=日本」と思っていらっしゃることと思います。

しかし、信長の時代にはそうではなかったと、柴先生はおっしゃいます。当時の宣教使などの記録を見ると、「天下」とは「都の周辺に位置する『五畿内』なる五つの領国(京都・山城国、摂津国、河内国、和泉国、大和国)」だった。つまり現在でいえば、おおよそ京都府中心部から大阪、神戸、さらに奈良県を指して「天下」と称していたというのです。

この「天下」を足利将軍が治めていた。しかし、第13代将軍・足利義輝が三好氏を中心とした勢力によって討ち取られてしまい、「天下」が混乱した。そこで、足利義昭を擁立して「天下」を静謐(せいひつ)にしようとしたのが信長だった。そう柴先生は指摘されます。

少し歴史に詳しい方ならば、「それでも、足利義昭を奉じて上洛したものの、すぐに決別して義昭を追放したのでは?」と考えることでしょう。しかしそれも、どうやら少しイメージが異なるようです。

柴先生は、たとえば次のような信長像を次々と提示されます。

●一般には、足利義昭は信長による傀儡(かいらい)だと思われているが、実態は、義昭が将軍として率いる室町幕府が、京都を中心とする五畿内で、権益の保証や紛争の解決等に当たっていた。信長は、その義昭政権を支える「連立相手」だった。

●信長に反対するものが大勢出て、義昭もそちら側についたために、信長は義昭を追放するが、その後も室町幕府将軍に足利氏の誰を据えようか、場合によっては義昭と和解して戻ってもらおうかと考えていた。

●信長は、朝廷や伝統的な宗教(寺社)勢力を排除するどころか、実際には彼らを支えていく活動を行っていた。信長が本願寺や比叡山延暦寺と戦ったのは、あくまで彼らが信長と政治的に敵対したからであって、宗教上の理由ではない。

●「信長が天皇に譲位を迫った」「朝廷を意のままにしようとした」といわれることもあるが、実際には、譲位は天皇側から持ち出したものだった。また信長は、衰微してしまった朝廷を正常な姿に是正することを求めていた。

●信長が「正二位右大臣兼右近衛大将」という高位の官職を辞し、その後、朝廷から官職を推任されても受けなかったことが「権威の否定」と語られることもあるが、信長の思いは、「自分はもうこれで降りるけれど、息子の信忠に高い立場を譲ってくれ」ということだった。

●信長は、地域支配を任せた武将たちに、最初だけは口出しするが、その後は介入せず、基本的にはすべて任せていた。武将を追放したのは「無能」だからではなかった。

◆信長が同時代のさまざまな武将から反発されたのは、彼が「有姿(ありすがた=あるべき姿)」を強く求め、他者にもそれを強要する人物だったからだ。

それぞれの詳細は、ぜひ講義をご覧ください。

さらに柴先生は、本能寺の変をめぐる当時の状況も詳述くださいます。はたして明智(惟任)光秀が謀反に及んだ「動機」とはいかなるものだったのか。当時の状況から浮かび上がってくることとは……。

歴史の見方が変わる講義です。ぜひご覧ください。

(※アドレス再掲)
◆柴裕之:天下人・織田信長の実像に迫る(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3477&referer=push_mm_rcm2


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編集部#tanka
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ときはいま光秀のこころ紙一重 ドラマより奇なり本能寺の変

柴裕之先生が描く本能寺の変。もし自分が信長や光秀だったらと想うと、大河ドラマ「どうする家康」より史実のほうが身に染みるかも。人の心の機微と、歴史の偶然……。(達)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3485&referer=push_mm_tanka




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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、近年「アンラーン(unlearn)」という言葉が注目を集めていますが、この言葉、ヘレン・ケラーが使ったということでご存じの方がいるかもしれません。日本語では「学びほぐし」といった意味になるそうですが、かつて鶴見俊輔氏がアメリカでヘレン・ケラーに会ったときにその言葉を聞いて、こう思ったそうです。

「知識はむろん必要だ。しかし覚えただけでは役に立たない。それを学びほぐしたものが血となり肉となる。」

この話、とても大事なことだと感じています。テンミニッツTVに置き換えると、得た知識、教養は、それを学びほぐしたものが血となり肉となるということでしょうか。ではどうやって学びほぐしをしたらいいか。気になるテーマですが、これについては、改めて取り上げる機会を設けられればと思います。