編集長が語る!講義の見どころ
なぜ日本は第2次世界大戦に突入し、敗北したのか/片山杜秀先生【テンミニッツTV】
2023/08/15
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
本日は8月15日です。やはり本日は、昭和の戦争について深く考えたいものです。
日本はなぜ、あの戦争に突入せざるをえなかったのか。そのことは、日本人として常に考えておかねばならないことでしょう。
とくに、米中対立やウクライナ戦争などのなかで先行きの不透明さが大いに増している現在こそ、歴史的反省は極めて重要です。
本日ご紹介するのは、その点で鋭い視点を示してくださる片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授/音楽評論家)の講義です。片山先生の名著『未完のファシズム』に基づきつつ、われわれが気づかなかったポイントを次々とご教示いただく、絶品講義です。
◆片山杜秀:戦前日本の「未完のファシズム」と現代(全9話)
(1)シラス論と日本の政治
独裁ができない戦前日本…大日本帝国憲法とシラスの論理
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3422&referer=push_mm_rcm1
実は、大日本帝国憲法下の日本の統治体制は、現在の統治体制と比べても、まったく強権的ではなく、むしろ、必要以上に分権的でした。それは首相の権限を比べてみても、すぐにわかります。
片山先生は、なぜそうだったのかについて、「藤原氏、源氏、平家、足利氏、徳川氏のような強いものが、二度と天皇の政治を壟断(ろうだん)しないような仕組みを念頭に置いていたから」だとおっしゃいます。権力を集中させずに分割し、どこかで誰かが偉くなっても国を独裁できない仕組みにしたのだというのです。
なるほど、徳川幕府を倒してつくりあげた明治国家ですから、大いに納得できる視点です。
しかも、天皇ご自身が強大な権力をふるうことも想定されてはいませんでした。これもよく知られているように、大日本帝国憲法の起草に当たった井上毅の案では、第1条は「大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇ノ治(しら)ス所ナリ」となっていました。
ここに書かれている「シラス(治す)」とは何か。
片山先生は、「誰かがリーダーシップを執って、無理やり決断するのではなく、天皇が鏡となり、みんなを取りまとめていく政治」だと指摘されます。「『まあ、皆さんの意見はわかりました』と取りまとめて、『まあ、こんなところですか』と、天皇が鏡になってみんなの意見を受け止め、『最大公約数はこんなところでしょうか』と返していく」スタイルだというのです。
しかも、先ほども述べたように、帝国憲法下の日本の首相の権限は、現在の首相の権限よりもはるかに弱く、ただの「取りまとめ役」のような存在でした。加えて、行政府も内閣と枢密院の「二院制」のような仕組みになっており、立法府の貴族院と衆議院のあいだにも優劣がありませんでした。
伊藤博文や山縣有朋など、明治維新の第一世代が「元老」を務めていたときは、まだしも国家の意思決定ができましたが、しかしそもそも「元老」や「重臣」などは、超法規的な存在であって、元老の職分について定めた法律は、どこにもありませんでした。
このような状況下で、日本は昭和の大戦に突入していくのです。
片山先生は、そのときの状況を示すものとして「海軍は、天皇に対しては戦況を正確に報告する義務はあったが、内閣総理大臣等に対しては報告する義務はなかった」という例を挙げます。だから、陸軍出身の東條英機首相は、本当の戦況を知らなかった。そう片山先生はおっしゃいます。
しかも、日露戦争や第一次世界大戦以後、世界の戦争は膨大な物資を投下しなくては勝てない「総力戦」になっていきます。これは資源を持たざる国である日本にとっては、極めて厳しい状況でした。
このような大きな流れのなかで、陸海軍の軍人たちは何を考え、どう行動したのか。それを、片山先生はみごとに描き出してくださいます。
たとえば片山先生は、「大艦巨砲主義は愚かしい」「陸軍の皇道派より統制派のほうが利口だ」と考える発想に異を唱えて、こう喝破されます。
《もしアメリカと戦争になり、長期戦になって、飛行機がたくさん必要になったとしたら、軍艦の生産競争と同様、飛行機の生産競争に勝てるわけがありません。これが昭和17~20年の戦争の経過です》
《皇道派の“密教”は、強い国と戦争したら負けるから、戦争にならないようにしようという点です。それに対して“顕教”は、「日本は精神力があるから強いのだ」と言い聞かせる点です。これで予算的にも無理がなく、天皇の軍隊である陸軍の組織を持続させながら、巨大な戦争を避け、朝鮮半島と中国大陸の一部ぐらいを確保しながらやり過ごしていくことができる。これが皇道派のビジョンです》
この片山先生の見方は、戦前の軍隊が直面した物量問題の本質をえぐり、日本軍の「本音と建て前」を鋭くつくものであり、まさに必見です。
その点も含め、これまでの「戦前観」を大きく変えてくれて、現代に活かすべき多くの教訓を与えてくれる講義です。まさに今こそ、ご視聴いただくべき内容です。ぜひご受講ください。
(※アドレス再掲)
◆片山杜秀:戦前日本の「未完のファシズム」と現代(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3422&referer=push_mm_rcm2
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて、本日(8月15日)より新講師である浜崎洋介先生(文芸批評家/日本大学芸術学部非常勤講師)のシリーズ講義が始まります。
◆浜崎洋介:小林秀雄と吉本隆明―「断絶」を乗り越える(全7話予定)
(1)「断絶」を乗り越えるという主題
小林秀雄と吉本隆明の営為とプラグマティズムの格率
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5030&referer=push_mm_edt
小林秀雄と吉本隆明というと、その名前を知っているという方は多いと思います。ただ、その人物像、あるいはそれぞれどのような主張、考え方を持ち、どのような影響を与えたのか、ということについて詳しいという方は多くないかもしれません。
そこで、この講義は、小林秀雄と吉本隆明という日本を代表する批評家とそれぞれの批評内容について、理解を深めることのできる貴重な講義です。
新講師である浜崎先生が分かりやすく、丁寧に、そのエッセンスを解説されていますので、ぜひご視聴ください。毎週火曜日配信で全7話予定です。
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