編集長が語る!講義の見どころ
「Go To トラベル」キャンペーンの意味を考える(テンミニッツTVメルマガ)

2020/09/18

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
いよいよ10月1日から、「Go To トラベル」キャンペーンが東京発着についても対象となることになりました。新型コロナウイルス対策で賛否両論が巻き起こった政策は数々ありましたが、「Go To トラベル」キャンペーンは、その象徴的なものの1つでしょう。

旅行関係の仕事をしている方から、夏休みの事例として、こんな話をうかがいました。当初、「Go To トラベル」キャンペーンで予約が増えたので期待が高まり、従業員の勤務シフトを対応させた。しかし、急に東京発着が除外されたために、土壇場でキャンセルが続出することになってしまった。従業員のことを考えると勤務シフトを簡単に解除するわけにもいかず、かえって赤字になってしまったというのです。

なぜ、こんなことになってしまったのか。政策はどのように立案し、国民に訴え、実施していくべきなのか。その点についてお話しくださった柳川範之先生(東京大学大学院経済学研究科・経済学部教授)の講義を紹介します。

◆柳川範之:「Go To トラベル」キャンペーンの意味を考える(全2話)
(1)コロナ禍での政策の難しさ
「Go To トラベル」キャンペーンで見えた日本の課題とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3600&referer=push_mm_rcm1

柳川先生はまず、最近の日本では政策が「良かったですか、悪かったですか」「賛成ですか、反対ですか」という白黒の二極論で議論されがちだと指摘されます。そして、100パーセント正しい、100パーセント間違っているというように「白黒がはっきりする政策」があるはずがないので、いい点と悪い点を挙げながら、どういう選択をすべきかを議論しなければいけないとおっしゃるのです。まったく、そのとおりでしょう。

「Go To トラベル」キャンペーンについていえば、「感染を防ぐ」という点からすれば、もちろん人はまったく動かないほうがいい。しかし、そうすると人は生きていけないので、何らかの形で動かなければいけない。そこに難しさがあったと柳川先生はおっしゃいます。加えていえば、「Go To トラベル」キャンペーンは、特定の業界の方々が、このままでは少し先には完全に立ちゆかなくなるかもしれないことに対して補償する意味をもった政策でした。つまり、政策が目指す「時点」が少し先の話だったのです。これで議論がさらに錯綜(さくそう)することになってしまいました。

もちろん、苦しい事態に立ち至ってしまった業者の全員を、国が丸抱えで救うわけにはいきません。このコロナ禍がいつまで続くかわかりませんし、それだけの巨額の支出をしつづけられものでもありません。そこで、国が半額を助成して、それによって民間の自主的なお金(つまり旅行代金)を活性化させて、困窮に陥った方々の生活や事業を守ろうとした。そう柳川先生は解説されます。

この柳川先生のご指摘は、とても重要でしょう。助成金を支給するときに、そもそも事業として成り立っていないような事業者にまで出すと、いわゆる「ゾンビ企業」を延命させることになりかねません。もちろん、それに意味がないわけではありませんが、残念ながら予算は限られています。その点、「Go To トラベル」キャンペーンの手法であれば、旅行客が行く先を決め、それに助成金が支払われるわけですから、頑張っている魅力的な事業者に効果的に助成金が手渡される可能性が高いはずのものでした。

しかし、そのような議論はあまり聞いたことがありません。とある知事が「よーくお考えになって」というセリフを連発したことなどばかりが報道されて、感染拡大の危機の面だけに注目が集まり、結果として、東京から他県に行った人が嫌がらせされるような状況にまでなってしまったわけです。

柳川先生は、昔のほうが、もう少ししっかりと「グレーゾーン」の中身を検証するような議論をやっていたのではないかと指摘され、「結論だけ早く知りたい」という傾向に警鐘を鳴らされます。むしろ現在は、IT技術やデータサイエンスで、データを細かく検証できるようになったのだから、それを生かし、EBPM(Evidence Based Policy Making)、つまりエビデンスに基づいて政策を決めていかなくてはいけないのではないか。お金を出す以上は、政策の目的を明確にしておいたほうがいいのではないか。そう、おっしゃいます。

どのようにニュースを見るべきか、政策についてどのように考えるべきか、深い視点を与えてくれる講義です。ぜひご覧ください。

(※アドレス再掲)
◆柳川範之:「Go To トラベル」キャンペーンの意味を考える(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3600&referer=push_mm_rcm2


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今週の「エピソードで読む○○」Vol.3
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今回の○○は、幕末の思想家・兵学者「佐久間象山」です。

彼は修行の時代に、江川太郎左衛門のところに行きました。しかし江川には権威主義的な考え方があり、なかなか教えてもらえませんでした。そもそも学ばせてくれなかったのです。
(中略)彼はもう諦めて、江川と並び称される大砲の権威であった下曽根金三郎という人物のところに行きました。下曽根は、もうすごくオープンで、どんどん何でも教えてくれるし、何だってやらせてくれ、何でも読ませてくれました。そこで佐久間は救われたのです。
この時の体験があるため、佐久間は教育に関して、全部オープンでした。自分が分かっていることは、全部教えました。
(中略)だから、やる気のある人間は、ガンガン上達していきました。

佐久間象山から学ぶべき最重要キーワードは「先憂後楽」
田口佳史(東洋思想研究者)
神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3271&referer=push_mm_episode


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レッツトライ! 10秒クイズ
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「科学技術(VR)」ジャンルのクイズです。

「ブーバキキ問題」というものがあります。とげとげのキャラクターと丸いキャラクターがいて、どちらか一方を「ブーバ」、もう一方を「キキ」とする。そこで「丸いほうは何という?」という問うと、ほとんどの人が「〇〇」と答える。さて〇〇に入る言葉は何?(〇〇は文字数とは関係ありません)

答えは以下にてご確認ください。
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2448&referer=push_mm_quiz


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編集後記
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編集部の加藤です。
残念ながら延期となった2020年東京オリンピック・パラリンピック。本来ならば開催されていたはずの先月、NHKの番組で、来年のパラリンピックを目指すアスリートたちも参加した、義足のモデルたちによるファッションショーの模様が放映されていました。
そこで今回ご紹介したいのは、義肢装具士・臼井二美男さんの講義です。

臼井さんはパラリンピック選手をはじめアスリートの皆さんのためにスポーツ義足作りに取り組む一方、ファッションの分野にも活動の幅を広げてされています。臼井さんは講義の中でこう語っています。
「スポーツばかりでなく、例えば義足でもハイヒールを履けるし、おしゃれもできます。むしろ義足をチャームポイントとして捉えるということでしょうか。単なる個性としてだけでなく、自分のチャームポイントとして捉える人も出てきているのです」
そして、臼井さんは「それをもう一段進めよう」ということで、先述した義足のモデルたちによるファッションショーといったものを日本から世界へ発信しようと活動されています。まだご覧になっていないという方、この機会にぜひご視聴ください。

<今回ご紹介した講義はこちら>
「義足をチャームポイントに」を日本から世界に発信する
臼井二美男(義肢装具士)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1411&referer=push_mm_edt