編集長が語る!講義の見どころ
陰謀論にダマされない~『ショック・ドクトリン』の真実/柿埜真吾先生【テンミニッツTV】
2023/09/05
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
世の中には、古来、さまざまな「陰謀論」があります。「ユダヤの陰謀」などというのは、典型的なものの1つでしょう。
一度、陰謀論のような議論にはまり込んでしまうと、案外、抜け出すのが難しいものです。とりわけ昨今は、ネット社会の「エコーチェンバー効果」で、いちど陰謀論を調べたりすると、似た議論ばかりがどんどん出てくるようになるので、ますます危険度は高まっています。
もちろん、陰謀論にも程度の差はありますが、いずれにせよ注意が必要です。
本日は、「陰謀論的な議論の例」として、ナオミ・クラインというカナダのジャーナリストが書いた『ショック・ドクトリン』について検証したいと思います。
実はこの本は、原著は2007年に発刊され、日本語版は2011年に岩波書店から出されています。さらに2023年6月には、NHKの名物番組「100分de名著」でも紹介されています。
岩波書店から発刊されていて、NHKの「100分de名著」でも取り上げられたとなると、さぞかし内容はお墨付きなのだろうと思ってしまいます。ところが……。
この『ショック・ドクトリン』は、ひと言でいえば「新自由主義の市場原理主義が世界を悪くした」ということを主張した本です。しかも、その市場主義を社会に入れるために、おそるべきショックが用いられたというのです。
つまり、新自由主義を唱えたミルトン・フリードマンらシカゴ学派と、その思想をうまく利用しようとする資本主義者たちが、社会に自由市場主義を導入するために、経済危機やテロ、クーデターなどの「ショック」を用いた。ショックによって人々が茫然自失しているうちに、市場主義を社会に入れ込んだのだというのです。
それによって、それまでの「大きな政府」の潮流は打ち倒された。パレスチナ紛争やアジア通貨危機、さらにイラク戦争まで、社会のさまざまな悪化の背後にはフリードマン一派がいると主張したのです。
しかし柿埜真吾先生は、実はこの本は、恣意的(しいてき)な引用や印象操作によって組み上げられているといいます。はたして、どのようなことなのでしょうか。
柿埜真吾先生が「真実」を検証してくださった講義を、本日は紹介いたします。
その内容は、まさに驚愕。陰謀論的な議論の恐ろしさと、それに対する処方箋が手に取るようにわかる、必見の講義です。
◆柿埜真吾:クライン『ショック・ドクトリン』の真実(全4話)
(1)ショック・ドクトリンとは何か
『ショック・ドクトリン』とフリードマンの原著を対比する
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5057&referer=push_mm_rcm1
ナオミ・クラインは『ショック・ドクトリン』でフリードマンの文章なども引用して議論を進めていきます。しかし、実際にフリードマンのほとんどの著作や論考を読んできた柿埜真吾先生には、その引用がいかに恣意的なものかが、手に取るようにわかったのだといいます。
たとえば、ナオミ・クラインは、チリの事例を挙げます。チリでは社会主義のアジェンデ政権が1973年に軍のクーデターで崩壊しますが、この軍部のクーデターを、ナオミ・クラインは「CIAが仕組んだのだ」と主張します。さらに、その次に政権をとったピノチェトは、フリードマンらシカゴ学派の操り人形だったといいます。
そしてフリードマンが、急進的な経済改革を推奨し、そのために経済ショックをとにかく国民に与えよと助言した。ピノチェトはその話を聞いて、国民をものすごく苦しめるようなショックを与えたというのが、クラインの主張です。
実際にフリードマンの主張として、クラインは次の文章を引用します。
《現実の、あるいはそう受け止められた危機のみが、真の変革をもたらす。危機が発生した時に取られる対策は、手近にどんなアイデアがあるかによって決まる。我々の基本的な役割はここにある。即ち、現存の政策に代わる政策を提案して、政治的に不可能だったことが政治的に不可欠になるまで、それを維持し、活かしておくことである》
上記で紹介してきたチリの状況の文脈で、この文章を紹介されると、いかにもフリードマンが裏で手を引いているように思えてきてしまいます。
しかし、これが大問題なのです。
上記の文章は、実際にフリードマンが書いたものではあります。しかし、これが書かれた文脈を正確に引用すると、まったく印象が一変するのです。
それがどのような文脈で語られたものだったかは、ぜひ柿埜先生の講義第1話をご覧ください。あまりの印象の違いに愕然とすること、うけあいです。
さらにナオミ・クラインは、CIAによる恐ろしい電気ショックの拷問実験と、フリードマンの「ショック・ドクトリン」は、あたかも連関があるように議論を進めます。しかし柿埜先生は、それもまったく根拠なしに、ただ「驚くほど似ている」と主張して印象づけていく、ある種の「印象操作」だと喝破(かっぱ)していきます。
フリードマンが「ショック」という言葉を使わなかったわけではありません。では、それが具体的にはどのような文脈のものだったのか。それも柿埜先生が解説していきます。
実は、フリードマンが「ショック」という言葉を用いていたのは、当時、さまざまな国が陥っていたハイパーインフレを鎮静化するための方法としてだったのです。さらにいえば、ピノチェトに会ったのは、ほんの45分ばかりで、それもそのハイパーインフレを鎮静化させるための助言でした。
実はフリードマンは、独裁政権には明確に反対していました。しかし、経済政策で人々を救うのは善だし、経済が豊かになれば民主主義体制に移行する可能性も高まると考え、経済政策に関する助言だけはしていたのです。
この経緯について解説していく柿埜先生の手際もまことに鮮やかです。
第3話では、天安門事件について見ていきます。実は、クラインは天安門事件も、経済の市場自由化を導入するための「ショック」だったというのですが……。南米の事例は、なかなか日本人には土地勘がなくてわかりづらいですが、天安門事件であれば、いかにクラインの解説がピント外れかを、まざまざと実感することができます。
そして、第4話では、実際に世界の経済指標がどうなっているかを具体的なデータで示してくださったのちに、「陰謀論」的な議論にダマされないために必要な考え方について、明確に教えてくださいます。
柿埜先生は、知的に誠実な態度を貫いて、危険な議論を完膚なきまでに打ち破ってみせます。とかく、社会政策をめぐる議論の質が劣化し、扇動的・煽情的な論調ばかりが目に付く昨今です。ぜひ、この講義をご覧いただき、本当に大切な姿勢は何かを学んでいただければ幸甚です。
(※アドレス再掲)
◆柿埜真吾:クライン『ショック・ドクトリン』の真実(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5057&referer=push_mm_rcm2
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編集部#tanka
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
最近、『生命を守るしくみ オートファジー 老化、寿命、病気を左右する精巧なメカニズム』 (吉森保著、ブルーバックス) という本を読み始めています。
https://www.amazon.co.jp/dp/4065268087/
「オートファジー 」とは、「自食作用」と訳されるそうで、「細胞が自己成分などを分解する機能のこと」と本には書かれています。でも、これだけだと、よくわからないですよね。
ではなぜこの本を読もうとしたのか。
それは、すでにご視聴いただいている方も多いと思いますが、以下、堀江重郎先生の講義で、「オートファジー」について大事な話を聴いたからです。
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堀江重郎(順天堂大学医学部・大学院医学研究科 教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5041&referer=push_mm_rank&referer=push_mm_edt
詳しくは講義でご確認いただきたいのですが、「オートファジー」は生命にとって非常に大事な役割を担っているのです。まだという方はぜひ視聴ください。
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