編集長が語る!講義の見どころ
ゴジラの作曲家・伊福部昭で語る日本・西洋・近代/片山杜秀先生【テンミニッツTV】

2023/11/14

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

11月3日から、映画『ゴジラ-1.0』が公開され、大評判になっています。コンピュータグラフィックスの名手でもある山崎貴監督(ALWAYS 三丁目の夕日シリーズなど)が、かつてないほどの存在感・リアリティで、1947年の日本を舞台にゴジラの恐怖を描き出しています。

今回はゴジラ70周年、シリーズ30作目と銘打たれています。ゴジラの第一作が公開されたのは、1954年のことでした。

そしてその第一作以来、ゴジラの音楽といえば、伊福部昭です。今回の『ゴジラ-1.0』でも、あるいは前作の『シン・ゴジラ』でも、ここぞというときには伊福部さんの「あの音楽」がそのまま鳴り響きます。

映画にとって、音楽はまことに重要な要素です。たとえば『スター・ウォーズ』シリーズにしても、ジョン・ウィリアムズの音楽なしには考えられません。ゴジラと伊福部音楽も同じでしょう。

今回、紹介するのは、片山杜秀先生(慶應義塾大学教授/音楽評論家)の伊福部昭さんについての講義です。もちろん、片山先生の講義ですから、たんなる評伝には終わりません。

伊福部昭さんは、1914年に北海道に生まれ、北海道大学農学部に進学。つまり独学で音楽をやっていたのですが、とある作曲賞で第一位をとったことで一躍スターダムにのし上がり、第二次世界大戦の直前から大戦期にかけて一世を風靡していたのでした。

だからこそ、あの時代の日本人が直面していた「日本と東洋と西洋」「近代と近代の超克」というテーマに真正面から向き合っていた作曲家でもあったのです。

この講義は、伊福部さんの音楽などいろいろと引用して実際に聴きながら、後半に進めば進むほど、「西洋と日本の違いは何か」「近代とはいかなるものか」について深く分析していく、驚くべき内容になっていきます。ぜひとも最終話まで見るべき講義です。

◆片山杜秀:伊福部昭で語る日本・西洋・近代(全8話)
(1)チェレプニン賞に輝いた無名の作曲家
映画『ゴジラ』の作曲家・伊福部昭、知られざる経歴を追う
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5133&referer=push_mm_rcm1

第1話は、もちろんあのゴジラのテーマから始まります。そして、いかにして伊福部昭が世に出てきたかが紹介されます。

先述のように、伊福部さんは北海道大学農学部の出身。ギターやヴァイオリン、作曲を独学し、北大では学生オーケストラをやっていましたが、音楽大学などで学んだわけではありません。

北大卒業後は北海道の帝室林野局で働いていた伊福部さんでしたが、ロシア人作曲家・アレクサンドル・チェレプニンが1935年に開催した作曲賞に応募し、みごと一位を獲得します。この作曲賞の審査員は、当時のヨーロッパの名だたる作曲家たちでしたから、伊福部さんは一躍、日本でも世界でも知られる存在になるのです。

実はこのチェレプニン賞の経緯は、シュペングラーの『西洋の没落』が大いに話題を呼び、第一次世界大戦やロシア革命の混乱に直面した当時の世相を大いに反映したものでもありました。その点は、ぜひ第1話をご覧ください。

第2話は、チェレプニン賞を受賞した伊福部さんの「日本狂詩曲」を聴くところから始まります。片山先生は、この曲は「祭りばやしみたいな音楽を、とてつもないオーケストラでやってしまった大胆さ」と評します。しかも、既存の祭りばやしのメロディーを安易に使うのではなく、まったく独自の形で、その世界を描き出してしまったのです。

その作曲賞の直後、1937年からシナ事変(日中戦争)がはじまるなど、時代は一気に戦争へと突き進みます。そのような時代のなか、西洋の技術を最大限受け入れながら、日本の精神を描いていく発想が重視されるようになり、伊福部さんの音楽が一世を風靡するようになるのです。

第3話は、伊福部さんが戦時中の1943年に日本国内の管弦楽曲コンクールで1位をとった「交響譚詩」を聴くところから始まります。

実は伊福部さんの父親は、北海道の音更という村の村長を務めていました。音更にはアイヌ集落があり、非常にアイヌに理解ある村長だったために、子どものころの伊福部さんもアイヌの文化に身近に触れていました。アイヌの方々の即興的な音楽に親しんでいたのです。

第3話と第4話では、そのような背景やアイヌの音楽文化について語られ、そこから伊福部音楽の真髄が解説されます。

「西洋音楽の論理や常識では自然とはいえない変拍子が、伊福部音楽では自然になる」というお話が象徴的ですが、実際の音楽と片山先生の解説を聴けば、伊福部音楽のエネルギーの秘密もよくわかります。

第5話からは、いよいよ西洋と日本の違いを、当時の日本人がどう受け止めたかに話は進んでいきます。

西洋の交響曲は多くの場合、第1主題と第2主題を対立的に提示して、その絡み合いで曲が進んでいきます。本講義では、ベートーヴェン交響曲第5番を実際に聴いて確かめていきます。そして、それといかに異なる音楽を、伊福部さんはじめ当時の日本人作曲家が作ろうとしたかが語られます。

ひと言でいえば、「多様なものを一元論にしていく東洋の論理を、いかに具現化するか」が問われたのです。

西洋のキリスト教社会では、人間はあくまで神の被造物であり、神と人の二元論がベースになる。しかし東洋では、人間も宇宙も究極的には一体の一元論がベースになる……。

そのような問題意識は、岡倉天心らが提起したものでしたが、第二次世界大戦に至る時代背景のなかで、二元論的な近代的世界観を、いかに一元論的な世界観で克服するかが問われていたのです。

そのことが、伊福部さんの音楽を実際に聴くことで、見事にわかりやすく浮かび上がってきます。

「二元論的対立」ではなく、「多様性を保った一元論」。片山先生は、戦後の日本でも、「55年体制」で自民党と社会党が表で対立しつつ、裏では国対政治でつながっていたように、根っこにおいては一元論的な気分を共有していたといいます。

しかし現在、それが崩れてきてしまっている。それがもたらすものは何か。そしていま、どのような思想や感性が求められるのか。

日本文化、西洋、そして近代の本質について大きなヒントを得られる講義です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆片山杜秀:伊福部昭で語る日本・西洋・近代(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5133&referer=push_mm_rcm2


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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、先月末に新しい機能としてお伝えしました、以下「学習データ」(一部の導入法人の受講者の方は除きます)。改めて、この場を借りて簡単にお伝えいたします。

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具体的には以下がひと目でわかる機能となっております。

◎入会以来の学習継続日数
◎視聴した修習講義数
◎教養の歩み(自己ランク)
◎ジャンル毎の学習進捗度
◎ジャンル毎の未視聴講義

ということで、当機能は皆さまの学びの進捗を応援するものです。ぜひご活用ください。

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