編集長が語る!講義の見どころ
和歌の真髄…『古今和歌集「仮名序」』を読み解く/特集&渡部泰明先生【テンミニッツTV】

2023/11/17

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。

まさに和歌は「日本のこころ」。「和歌」の始まりはスサノオだといわれるほど、長い歴史を誇る詩文学です。

国歌「君が代」の歌詞の元歌も、『古今和歌集』(延喜5年、905年)に載せられたものであり、国歌の歌詞としては世界最古であることは、皆さまよくご存じのとおりです。

では、日本人は「和歌」にどのような想いを込め、どのような芸術論を託してきたのでしょうか。それを知るのに最適なものこそ、有名な『古今和歌集』の「仮名序」でしょう。

今回は、その『古今和歌集「仮名序」』について、渡部泰明先生にご解説いただいた新作講義を筆頭に、『万葉集』『百人一首』『金槐和歌集』など様々な角度から、和歌の教養に迫ります。短い言葉に託した日本人のこころの物語に、ぜひ触れてみましょう。

■本日開始の特集:「歌」が物語る日本のこころ

https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=195&referer=push_mm_feat

・渡部泰明:『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華

・上野誠:『万葉集』はいかなる歌集か…日本のルーツと中国の影響

・渡部泰明:『百人一首』の歌が選ばれた理由とは?今も残る3つの謎

・鎌田東二:スサノオなしに日本の祭も歌もなかった

・坂井孝一:「源実朝は文弱」は誤解…『金槐和歌集』に込めた想いとは

・頼住光子:無耳法師となった明恵の過激、秘めた切なる想いとは


■講義のみどころ:衰退途上国ニッポン~その急所と勝機(宮本弘曉先生)

本日は特集より、渡部泰明先生(東京大学名誉教授/国文学研究資料館館長)に『古今和歌集』「仮名序」についてご解説いただいた講義をピックアップします。

渡部先生は、この「仮名序」こそ「日本文化の原点」になったものであるとして、次のようにおっしゃいます。

《この仮名序を踏まえてたくさんの和歌の論(歌論)が生まれ、その歌論を軸にして能楽論や連歌論、俳諧の論のような、さまざまな芸術論が生まれたといっても過言ではありません。すなわち日本初の芸術論、日本文化の本当に最初の精華といっていいと思うのです》

では、どのようなことが書かれているのでしょうか。また、そこに秘められた意図とは?

◆渡部泰明:『古今和歌集』仮名序を読む(全6話)
(1)日本文化の原点となった「仮名序」
『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5143&referer=push_mm_rcm1

渡部先生は第一話で、この『古今和歌集』「仮名序」の構成をご解説くださいます。この仮名序では、まず、和歌とは何かが高らかに語られ、和歌の始まりから歴史、和歌の6種類の修辞(六義)、『万葉集』や六歌仙、そして『古今和歌集』の意義が説かれるのです。

講義の第2話は、有名な「仮名序」の冒頭部分の解説です。

《やまとうたは、人の心を種としてよろづの言の葉とぞなれりける。世の中にある人、こと・わざしげきものなれば、心に思ふことを見るもの聞くものにつけて言ひ出せるなり。花に鳴く鶯、水にすむかはづの声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。力をも入れずして天地(あめつち)を動かし、目に見えぬ鬼神(おにがみ)をもあはれと思はせ、男女の仲をもやはらげ、猛き武士(もののふ)の心をもなぐさむるは歌なり》

この部分を読むだけでも、「和歌とは何か」について、深い感慨を覚えます。もちろん講義では、渡部先生が現代語訳もしてくださっていますので、ぜひご参照ください。

実は、「詩というものは心を表すものである」というメッセージや、「詩が天地を動かす」というメッセージは、中国の『詩経』にも書かれていることではあります。しかし渡部先生は、ここには日本の独自性がたしかに表われているといいます。

渡部先生が注目するのは、「人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける」「世の中にある人、こと・わざしげきものなれば」という表現です。

すなわち、言葉というものについて、「言の葉」や「しげき=茂る」など植物のイメージに「よそえて=なぞらえて」表現している。そこには、「やはり歌が生まれるところには生命感があり、生命が宿っているという信念」がある。これは日本の独創的なところだとおっしゃるのです。

渡部先生は、和歌の大きな特長として、「物事に託して表現すること」を挙げます。そのことが、和歌の神秘的な力につながることを予想させるとおっしゃるのです。

第3話は、和歌の歴史について語れている部分の解説です。この「仮名序」は、「和歌は天地開闢と共に出現したものであり、スサノオノミコトから三十一字の和歌を詠むようになったのだ」と述べます。さらに「難波津の歌」と「安積山の言葉」が「歌の父母」のようなものだともいいます。

それぞれがどのような歌かは、ぜひ講義第3話をご覧ください。ここでも渡部先生が指摘されるのは、「隠喩」「直喩」などの技法で、物事によそえて表現する和歌の伝統です。

第4話は、和歌の6つのスタイルについて。具体的に歌を挙げながら、6つのあり方を説いている部分です。この6つのスタイルは、いずれも中国の分類を背景としたものですが、しかし、そのなかにも日本の独自性が表われてきます。

そして第5話で語られるのは、本来の歌の意義です。実は『古今和歌集』は「歌は公的なもの」だというメッセージを強く打ち出しているのだと、渡部先生は指摘されます。そして、いくつもの事例を挙げつつ、こうおっしゃるのです。

《つまり、このように物事によそえるということは、どうやら社会的な意義、公的な意義を背負うようです。ここのところが大きなポイントだと思います。私たちは何かこう、それが詩を読むための単純な技巧と思ってしまいがちですが、そうではない。特にこの『古今和歌集』の撰者にとっては、こういうレトリックを用いるところにこそ、和歌が公のものになり得る大きなポイントがあるということです》

この問題意識が、さらに本講義の第6話に続きます。第6話は「六歌仙」=僧正遍昭、在原業平、文屋康秀、宇治山の僧喜撰、小野小町、大伴黒主を評した部分の解説です。

実は『古今和歌集』の「六歌仙」評は、思いのほか「批判めいた言葉」を並べているといいます。それはなぜなのでしょうか?

そこに、『古今和歌集』撰者のメッセージもあると渡部先生はおっしゃるのですが、そこについては、ぜひ第6話でご覧ください。

渡部先生のやさしい語りで「日本文化の原点」といわれる文章の読み解きを進めていくことで、日本文化の本質について深く考えることができる絶品講義です。


(アドレス再掲)
◆特集:「歌」が物語る日本のこころ
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=195&referer=push_mm_feat

◆渡部泰明:『古今和歌集』仮名序を読む(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5143&referer=push_mm_rcm2

※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体


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編集部#tanka
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向かい風高く吹けども帆を上げて海をゆくこそやまとの心

上野誠先生の万葉集講義。実は「日本の心の源」とされる万葉集にも、中国文明の大きな影響が見え隠れするといいます。しかし、そこにこそ「日本らしさの真髄」があるのです。(達)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4856&referer=push_mm_tanka