編集長が語る!講義の見どころ
『源氏物語』の本質は?「もののあはれ」で考える/板東洋介先生【テンミニッツTV】

2023/11/28

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

来年のNHK大河ドラマは、紫式部を主人公にした『光る君へ』ですが、やはり『源氏物語』は、諸々の市民講座などでも大人気のテーマ。ぜひ、この機会に『源氏物語』について、理解を深めておきたいものです。

本日は、そもそも『源氏物語』はどのようなもので、日本人にいかに読まれてきたのかについてご解説をいただいた板東洋介先生(筑波大学人文社会系准教授)の講義を紹介いたします。

板東先生は、『徂徠学派から国学へ――表現する人間』(ぺりかん社)で、第41回サントリー学芸賞と第14回日本思想史学会奨励賞を受賞されている、気鋭の研究者でいらっしゃいます。

『源氏物語』は、どう読むべきなのか。

◆板東洋介:『源氏物語』ともののあはれ(全5話)
(1)雅な『源氏物語』の再発見
『源氏物語』の謎…なぜ藤壺とのスキャンダルが話のコアに?
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5128&referer=push_mm_rcm1

講義の冒頭で、板東先生はこうおっしゃいます。

《私にとって『源氏物語』が面白いのは、少なくとも今に至るまで、この本は1000年以上、日本最大の古典として読み継がれているわけですが、ただ、ずっと読者たちが困ってきたことがある、つまりこれはいったい何なのだということです》

54帖ある物語で、数十年にわたって、数多くの人物が登場する。読めばおもしろく感動を受けるが、だが、この物語は「いったい何を語ろうとしているのか」。

実は、この点をズバリと掘り下げたのが江戸期の国学者である本居宣長でした。この講義では、本居宣長の『源氏物語』解釈をベースに、板東先生にご解説をいただくのです。

板東先生は、まず、『源氏物語』を貫く、重要なスキャンダルについてご解説くださいます。

◆『源氏物語』の主人公は、帝のご落胤である。しかし母親の桐壺更衣はかなり下位の后であり、複雑な権力関係の兼ね合いなども原因となって、光源氏が3歳の折に亡くなってしまう。

◆光源氏は母の面影を追い求め、母親にそっくりな藤壺に思いを寄せる。実は藤壺は、帝が「桐壺更衣にそっくり」ということで妻として迎えた人物であった。

◆光源氏は、その藤壺を最初は母親として慕っていたが、やがて女性として慕うようになり、結ばれてしまう。

もちろんこの光源氏の行為は、義理の母親であり天皇の后である女性に対してのものなので、絶対に許されるはずのないものです。

それゆえ悶々とする光源氏は、藤壺の姪に当たる紫の上を誘拐まがいで自分のところに連れてきて、自分好みに育て上げて結婚をする……。

この紫の上との関係も、十分にスキャンダラスですが、なんといっても王朝世界で最悪のスキャンダルは藤壺との関係です。

「なぜ、わざわざこんなストーリーが話のコアにあるのか」。そのことを、日本の代々の知識人たちはなんとか取り繕おうとしてきたと板東先生はおっしゃいます。

板東先生は、このような『源氏物語』の(冒頭部の)エッセンスについて、原文も引用しつつご解説くださいますが、それはぜひ、講義の第2話でお楽しみください。

講義第3話では、日本の知識人たちがこの物語をどう読んだのかが解説されます。様々な文章が紹介されますが、ひと言でいえば、「勧善懲悪」であったり「会者定離」であったり、つまるところ儒教的に、あるいは仏教的に「これは、ある種の教訓を説いているのだ」と読んだのです。

これは、現代的にいえば、映画作品などについて、「これは、こういう哲学を語っているのだ」と意味を読み解こうとする見方に通じるものだと板東先生はおっしゃいます。そしてこういうのです。

「問題は私たちがそれを観たときの感動というのはちょっとそれで説明できていないのではなかろうか」。

このような「隔靴掻痒(かっかそうよう)」感を、初めてズバリと説明できたのが、まさに本居宣長の画期でした。

以下、本居宣長の様々な原文も引きながら板東先生がご解説くださるのは、まさに必見です。要すれば、本居宣長は「もののあはれ」が『源氏物語』の本質だと喝破したのでした。

スキャンダラスな恋だからこそ2人の恋の思いは燃え上がる。その分だけ悲劇的な「恋の丈(=恋のボルテージ)」が高くなる。だからこそ、その恋にまつわる「あはれ(=感動)」が最大のものになる。

そして、この「もののあはれ」は、『源氏物語』の本質を構成するだけではなく、「和歌」の本質でもあると本居宣長は述べています。

では、その「もののあはれ」とはいかなるものなのでしょうか。

板東先生は、「もののあはれ」について本居宣長が語った要所をいくつも引用しつつ、さらにご自身のイラストも加えてご解説くださいます(第4話)。

板東先生は、こうおっしゃいます。

《宣長が語っていたことというのは、外界のいろいろなものに動かされる(ということです)。それは美しい花だなとか、あるいは美しい異性だなとか、美しい人だなと、われわれは心が多様に動くわけであって、「あはれ」というのは、ここでははっきり言われていないのですが、心の動きというよりは、嘆きの声、ため息なのです》

板東先生のイラストを見れば、このことが直感的に理解できます。

さらに板東先生は、「もののあはれ」を深く理解するためにぜひとも知っておきたい「欲」と「情」についてもご解説くださいます。

「欲」とは、富や財宝などを「自分のものにしたい」と思う心。これは、あまり「あはれ(感動)」が深くはありません。一方、「情」とは「欲しいと思うが、絶対に自分は手に入れられないだろう」という、一種の諦めが伴った深い想いです。

「欲」はけっこう満たされやすい。しかし「情」は相手に届かないから、われわれは深いため息を漏らす。恋は基本的に「情」である。

さらにいえば、光源氏の恋は、まさに「情」であり、だから思いや感動のボルテージはいっそう深い。

そのようにご解説いただきつつ、板東先生はとても印象深い本居宣長の文章をご紹介くださいます。ここで本居宣長は、次のように語ります。

「『源氏物語』を誡め(いましめ=教訓)のように見るのは、桜の木を伐って薪(たきぎ)にするようなものだ」。

つまり、『源氏物語』を道徳的なものとして読んでは「もったいない」と、印象深く語るのです。この芸術観は、まさに多くのヒントをわれわれに与えてくれるものといえましょう。

さらに板東先生は「『もののあはれ』の共感性が、日本人の倫理の根幹になる」とも指摘されます。

講義全編を通じ、『源氏物語』や本居宣長の様々な文章などを、実際にわかりやすく読み解きつつ、講義をお進めいただくので、非常に深い理解に到達できます。ぜひとも見ておくべき講義です。


(※アドレス再掲)
◆板東洋介:『源氏物語』ともののあはれ(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5128&referer=push_mm_rcm2


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編集部#tanka
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編集後記
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皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて、先週金曜日までお願いしました「会員アンケート」。「戦争をなくすために必要なのは何だと思いますか?」という質問に対して、たくさんのご回答ならびにご意見をいただきまして、まことにありがとうございます。この場を借りて感謝申し上げます。
結果は、12月6日(水)の編集部ラジオで発表いたしますので、いましばらくお待ちください。

今回は「戦争」について考えるという意味で以下の講義を紹介して終わりたいと思います。

■小原雅博:戦争と平和の国際政治(全4話)
(1)「合理性の罠」とインテリジェンス
国際政治の要諦は戦略とインテリジェンス
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4784&referer=push_mm_edt

元外交官で東京大学名誉教授の小原雅博先生が国際政治という視点から戦争と平和について説いた貴重な講義です。ぜひシリーズ通してご視聴ください。