老子の教えの根幹は、「見えないものを見ようとする知的好奇心」にある。暗いところを見通せるプロフェッショナルを「玄人」と呼ぶが、そのように超越的な知恵で物事の本質を捉えることの重要性について語る今回の講義。その境地は「般若=トランスセンデンタル・ウィズダム(超越的な知恵)」にも通じるという。さらに話は、老子が理想とする「小国寡民」というあり方へと進んでいく。これは、小さな社会の中で人々が対等に助け合い、共生する世界を表しているが、そこでの理想のリーダーシップは、現代のスマート・パワーの概念にも通じる。老子が説く「見えない世界」の捉え方や理想像について、分かりやすく説いていく。(全9話中第5話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツ・アカデミー論説主幹)
≪全文≫
●玄人と鈴木大拙の「トランスセンデンタル・ウィズダム」
田口 (堀江先生と)お話ししていて、魅力満点なのですけれど、それはどこから来るかというと、ものすごい知的好奇心満載だからですよね。なぜなのか、なぜなのかといつも(聞いて)くるわけですから、その知的好奇心はいったいどこから来るのかというと、実はそこに老子の根幹があるのです。
堀江 はい。
田口 それは何かというと、老子の(教えの)基本は、見えないものを見ようじゃないか、聞こえない声を聞こうじゃないかということです。
われわれは虹の七色の狭い分野しか見てないわけです。仏教的にいえば、両横に広大無辺な世界があって、高いほうは金剛界、低いほうは胎蔵界というけれど、私もそうですが、少しでもそこを垣間見たい、見えないものを見たい、聞こえない声を聞きたい、と50年やり続けてきたわけです。そうして、ようやくですが、なんとなく見えてきた世界がたくさんあるわけです。
ある時にスティーブ・ジョブズがこう言っていたのです。最先端の魅力ある商品を出さなければいけないということで、それに従事している人の会合などに行くと、「どうやっているのですか」と訊ねると、(相手は)「買い手に聞く」と答える。(例えば)「消費者の希望を聞くアンケート調査を行う」というわけです。と、彼は「なんと、プロフェッショナルじゃないことをやっているのか」と言ったというわけです。プロフェッショナルとはどういうものかというと、多くの方が何を望んでいるかという見えない世界が明確に見えてきて、「これでしょ?」と見せたら「そうだ」と言わせるものを出すのがプロなのだということです。
私がそこに老子の説明をしたのです。プロフェッショナルは日本語でいうと「玄人」なので、なぜ「玄人」というのかという説明です。「玄」は暗いところのことで、暗いところが見える人が玄人です。
堀江 なるほど。
田口 ですから、暗いところをむしろ買い手に委ねているのはプロではないということです。「これが欲しかったのだろう」と聞いて、「そうなのですよ」と言われるのが醍醐味です。日本の場合は、見えないところを見よう見ようとすると、先ほどの前頭葉(の話と関連しますが、そこで)見ようとしても見ることはできないけれど、(見るためのものとして、それを超越した)全人格的思惟がある。これは悟りなの...