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末法直前に法華一乗思想と浄土信仰を両立した源信の教え

【入門】日本仏教の名僧・名著~源信編(1)末法思想と浄土信仰

賴住光子
東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授
情報・テキスト
源信
出典:Wikimedia Commons
恵心僧都としても著名な源信は、平安中期の天台宗の僧でありながら、浄土信仰の展開に大きな影響を与えた。主著『往生要集』は当時、日本だけでなく中国の宋でも高く評価されたという。ここでは、源信の思想展開の背景として欠かせない「末法思想」と「浄土信仰」について解説いただいた。(全2話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:06:43
収録日:2021/08/20
追加日:2021/03/25
カテゴリー:
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≪全文≫

●法華一乗思想と浄土信仰を両立した源信


―― 「日本仏教の名僧・名著」の4人目は源信になります。この方は平安中期に活動されたということですが、どういう方になるのでしょうか。

賴住  この方は基本的には天台宗の僧侶ですが、日本仏教においては浄土信仰を確立した人としてよく知られています。源信の中では、浄土信仰を主張することと、天台宗の僧侶として法華一乗思想を主張することはまったく矛盾していなかったわけです。

―― では最初に、浄土信仰がどういう信仰になるのか教えてください。

賴住 基本的に仏教は、この世で修行して悟りを開くことを目指す教えですが、一方で「末法思想」というものがありました。日本では1052(永承7)年から末法に入るといわれていましたが、末法になると、仏の教えは残っているのだけれども、修行することも悟りを開くこともできないと考えられていました。

―― これは誰が決めたのですか。

賴住 これはもうインドで末法思想が展開しておりまして、それが中国に伝わり日本に影響を与えたという形になっています。

―― では、そこで悟りも開けないと決められてしまっているということになるわけですね。

賴住 はい、そうなのです。源信の生まれた時代というのは、まだ末法には入っていないけれども、非常に末法に近い時代でした。

―― 直前のようなところですね。

賴住 そうですね、直前です。この場合、何が残されているかというと、阿弥陀仏の教えに従って念仏を唱え、死んだ後に浄土に往生して、浄土で修行して悟りを開こうというのが、浄土教の基本なのです。


●なぜ念仏すると浄土に往生できるのか


賴住 なぜ念仏すると浄土に往生できるかというと、「無量寿経」という浄土教の経典がありまして、その経典に書かれた「法蔵神話」といわれるストーリーが元になります。

 法蔵神話のストーリーをご紹介しましょう。非常に遠い過去に、ある王さまがいて、その王さまが「世自在王仏」という仏さまの教えを聞いて、発心して僧になるのです。それが「法蔵比丘」と呼ばれています。「比丘」は僧侶ということです。

 この法蔵比丘は、自分が修行するにあたって「誓願」という誓いを立てます。「四十八願」という48の誓いです。そのうちの第十八願、つまり18番目の願の中で、「生きとし生けるものが念仏をして浄土に往生できるまで、自分は成仏しません」と言っています。そういう願を立て、一生懸命修行して成仏された。成仏された後の名前が「阿弥陀仏」です。

 「念仏をする一切衆生が浄土に往生するまで、自分は成仏しない」という誓いを立てた人が、もう成仏しているのであれば、念仏する一切衆生が浄土に往生できることは確定している。そのように考えると、念仏すれば浄土に往生できるわけなのです。

 末世では、もうこの世では修行も悟りもできないから、阿弥陀仏の名前を唱え念仏して、阿弥陀仏の姿を思い浮かべて念仏する。念仏には、姿を思い浮かべる方法と口で言う方法があるわけです。そうやって「浄土に往生しましょう」というのですが、浄土は阿弥陀仏がいらっしゃるところなので、阿弥陀仏の教えを聞いて一所懸命修行して、成仏しようというのが浄土教の基本になるわけです。


●末世直前に活動した源信が書いた『往生要集』


―― なるほど。この後、「日本仏教の名僧・名著」シリーズ冒頭の講義で見たように、いろいろな方がたが出てくるわけですが、そういうものが出てくる一つの背景として、「末法になった」という認識が広がったことは、やはり踏まえておかないといけないところですね。

賴住 そうですね、それはもう基本になってきます。もちろん末法思想を否定する人たちもいて、例えば道元などはその一人です。だからこそ、この世で修行して悟りを開こうという話になるわけで、必ずしも全ての仏教者が末法思想を受け入れたわけではありません。しかし、やはり当時の仏教を考えるうえで、末法は大変重要なファクターになってくると思います。

―― なるほど。その直前期に出たのが源信ということですが、さらに何か位置づけとしてはありますか。

賴住 そうですね。この源信という方は『往生要集』を書いたことで、よく知られています。他にもいろいろな著作を書いていますが、後世に与えた影響力という意味では、やはりこの『往生要集』が非常に強い影響を与えています。

 しかもこの本は中国にも渡り、中国の人たちもこの『往生要集』を読んで、とても感嘆して源信を褒め称えたといわれています。それだけ浄土信仰を確立するような、行き届いた叙述のされている本だと思われます。
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