【入門】日本仏教の名僧・名著~源信編
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
『往生要集』の「地獄」描写で見せる源信の編集能力の高さ
【入門】日本仏教の名僧・名著~源信編(2)『往生要集』と観想念仏
賴住光子(東京大学名誉教授/駒澤大学仏教学部 教授)
源信の『往生要集』は凄まじい地獄の描写で有名だが、その目的は「極楽往生」にあった。現世での解脱が無理になった末世において、極楽で修行を重ねようとするのだが、極楽に往生するには、念仏の行が必要だとするものだ。念仏の中でも当時の中心は「観想」にあったことが、本書から詳しく伝わってくる。(全2話中第2話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:15分57秒
収録日:2020年8月20日
追加日:2021年4月1日
カテゴリー:
≪全文≫

●編集力に富んだ源信の「地獄」の描写


―― それでは『往生要集』を見てまいりましょう。最初は地獄のさまを描いた部分だと思うのですが、なかなか描写的で、子どもが聞くと泣いてしまう地獄絵図のようなところがございます。では、読ませていただきます。

「悪鳥あり、身の大きさ象の如し。名づけて閻婆(えんば)と曰ふ。嘴(くちばし)利(と)くして炎を出す。罪人を執りて、遥かに空中に上り、東西に遊行し、しかる後にこれを放つに、石の地に堕つるが如く、砕けて百分となる。砕け已(おわ)ればまた合し、合し已(おわ)ればまた執る。また利(と)き刃、道に満ちて、その足脚(そっきゃく)を割く。或は炎の歯ある狗(いぬ)あり、来りてその身を齧(つ)む。長久の時に於て大いなる苦悩を受く。昔、人の用ゐる〔河〕を決断して、人をして渇死せしめたる者、ここに堕つ。」

賴住  はい。これはもう本当に恐ろしい地獄の有り様を表していまして、こういう叙述が延々と続きます。これはほんの一部で、他にも、こういう悪いことをした人は、こういう恐ろしい場所に行くのだということが書かれています。これが後世にかなり大きな影響を与えています。

―― これ以前には、ここまで生々しく書いた本はあまりなかったということですか。

賴住 この『往生要集』の地獄の描写は、それまでにもいろいろなお経に書かれていたのですが、それを源信が集めてきたのです。その集め方が非常にうまく、非常に印象的なところをたくさん集めているので、それまでになかったわけではないのですが、それを1箇所に集めたところが、源信の「編集能力」といいましょうか。

―― まさに編集能力ですね。

頼住 そう思います。


●「六道輪廻」思想と「地獄」の強調


賴住 「六道(りくどう)」といいますが、仏教では、生きとし生けるものは「六道(りくどう)輪廻」をして、いろいろな世界を経巡り続けるといわれています。この六道の全てについて、源信は『往生要集』の中で書いています。

 六道の中で一番いい世界は「天」です。これが神々の世界で、次が「人間(じんかん)」と読むのですが、人間の世界」になります。

賴住 その次が「修羅」といって、戦いの神様である阿修羅の世界です。その次が「畜生」で、動物の世界です。次が「餓鬼」といって妖怪なのですが、生きているときに物惜みをした、要するにケチの...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
老荘思想に学ぶ(1)力のメカニズム
老荘思想は今の時代に人類の指針となる
田口佳史
世界神話の中の古事記・日本書紀(1)人間の位置づけ
世界神話と日本神話の違いの特徴は「人間の格づけ」にある
鎌田東二
ヒトはなぜ罪を犯すのか(1)「善と悪の生物学」として
ヒトが罪を犯す理由…脳の働きから考える「善と悪」
長谷川眞理子
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二

人気の講義ランキングTOP10
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道
『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり
堀口茉純
熟睡できる環境・習慣とは(3)睡眠にいい環境とお風呂の入り方
布団に入る何分前がいい?入眠しやすいお風呂の入り方
西野精治
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子
定年後の人生を設計する(1)定年後の不安と「黄金の15年」
不安な定年後を人生の「黄金の15年」に変えるポイント
楠木新
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
内側から見たアメリカと日本(6)日本企業の敗因は二つのオウンゴール
日本企業が世界のビジネスに乗り遅れた要因はオウンゴール
島田晴雄