編集長が語る!講義の見どころ
いまだから学ぶキリスト教~欧米の深層とは/特集&橋爪大三郎先生【テンミニッツTV】
2023/12/01
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
いよいよ12月になりました。12月になると町中にクリスマス・ソングが流れるのが日本の風物詩。加えて、いま、キリストが生誕し活動したパレスチナでは、厳しい紛争も起こっています。
このようなときだからこそ、あらためてキリスト教について深く知るのはいかがでしょうか。
とりわけ、教義や歴史などばかりでなく、アメリカやヨーロッパの社会に、具体的にキリスト教がどのように根づいているのかを知ることも重要です。2024年はアメリカ大統領選挙の年でもありますので、その点からも、ぜひ理解しておきたいものです。
今回、そのような見地から、特集の講義をピックアップしてみました。最初の橋爪先生の講義は、アメリカ社会と教会の深いかかわりについて。2つめの講義は、ヨーロッパ社会にいかにキリスト教が根づいているかを、ドイツを事例に紹介する講義です。
この機会に、ぜひご覧ください。
■本日開始の特集:いまだから学ぶキリスト教
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=145&referer=push_mm_feat
・橋爪大三郎:「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
・渡部玄一:古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
・橋爪大三郎:キリスト教の死生観…カトリックとプロテスタントの違い
・橋爪大三郎:10分でわかる「キリスト教」
・竹内修一:「イエス・キリスト」という名前の本当の意味は?
■講座のみどころ:「アメリカの教会」でわかる米国の本質(橋爪大三郎先生)
本日、特集のなかからピックアップするのは、橋爪大三郎先生(社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授)が、「アメリカの教会」のあり方について、わかりやすくお話しくださった講座です。
現在のアメリカの基盤は、信仰の自由を求めてイギリスからメイフラワー号で渡米したピルグリムファザーズ(プロテスタントであるカルヴァン派の清教徒たち)などの人々によって形づくられたことは、日本の教科書でも学ぶことです。
現在のアメリカ社会を見ても、プロテスタントを中心とした宗教の影響を深く感じることが多くあります。しかし、プロテスタントの教えについて、腹落ちしない日本人も多いことでしょう。
たとえばカルヴァン派の「予定説」なども、教科書にも書かれていたりしますが、なじみが薄い日本人からすると、なかなか「ピンとこない」ものでもあります。
しかし橋爪先生は端的に、「『キリスト教のことをよく知りません』では、アメリカ市民はつとまらない。それが常識になっている社会です」とおっしゃいます。
また橋爪先生は、アメリカの教会のあり方をふまえつつ、「アメリカが分断されているのは今に始まったことではなく、この国の出発点からのことです」ともおっしゃいます。
この橋爪先生の講座を学べば、キリスト教とくにプロテスタントの基本的な考え方について、とてもよくわかるようになり、あわせてアメリカの真の姿もよく見えてくるようになります。まさに必見の珠玉の講座です。
◆橋爪大三郎:「アメリカの教会」でわかる米国の本質(全5話)
(1)アメリカはそもそも分断社会
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4762&referer=push_mm_rcm1
橋爪先生は第1話で、いかにアメリカ社会にとってキリスト教が大きな意味を持っているかを解説くださった後に、日本人が知らないプロテスタントとカトリックの分裂についてお話しくださいます。たとえばアメリカ建国直後には、なんと次のような状況だったというのです。
《アメリカの考え方からすると、カトリック教会は「アンチキリスト」で、あんなものはキリスト教ではない、むしろ悪魔の手先だということで立ち入り禁止にされるほどでした》
ヨーロッパの宗教戦争も考えてもわかりますが、このような分断は、なかなか日本人には想像がつきづらいところです。
さらにプロテスタントも、けっして一枚岩ではありません。
《プロテスタントにもいくつかあって、これらがまた仲が悪いのです》
ヨーロッパでは、カトリックvsプロテスタントの長い宗教戦争の後、アウグスブルクの和議やウェストファリア条約で、「住民の信仰は領主の信仰と一致すること」と決められます。しかしアメリカは移民の国で、封建領主も王様もいないので、自由に自分たちの教会をつくり、教会ができたら揉めるという事象が起きるようになったのです。
第2話では、橋爪先生が「救済予定説」についてご解説くださいます。
カトリックでは、イエス・キリストの一番弟子のペテロが天国の鍵を預かって、「教会を建てなさい」と言われたから教会を建てたとされます。
一神教なので、救うか救わないかは「すべて神の判断のみ」ですが、カトリック教会には「この人を救ってくれませんか」と「執り成す」権限があるとされます。それゆえ、教会から破門されると「とても救われない」ことになります。
しかしプロテスタントは、「聖書のどこに、そんなことが書いてあるのだ」と言い出しました。イエス・キリストのことが書いてある聖書=神の言葉に従うのであって、それ以外には従わない。ただし、バラバラだと心細いし、カトリック教会にも対抗できないので、プロテスタント教会をつくるのだといいます。
そのようなプロテスタントは、「教会の執り成し」も当然のごとく否定します。誰が救われて、誰が救われないのかを決めるのはGod。人間にできることは何もなく、全てGodにお任せするのが一神教の正しい姿だと考えるのです。
とりわけ、そのような姿勢を強く打ち出したのがカルヴァン派です。それが「救済予定説」です。もし「善行したから救ってくれ、信仰するから救ってくれ」といったら、人間がGodに「強いる」ことになってしまう。誰を救うかは、神が予め決めていると考えるのです。
橋爪先生はそのような考え方について、「宝くじ」を例にしたり、日本の浄土教の考え方などと対比しつつ、わかりやすくご解説くださいますが、それはぜひ講座の第2話をご覧ください。
しかし、そのような「予定説」の考え方でいくと、善行をしようがしまいが、信仰をしようがしまいが全然関係なく、とにかく救われるか救われないかはGodの考え次第ということになります。
それゆえ、アメリカのプロテスタント社会では「回心」ということが重要視されました。信仰は本人の決めることではなくて「神から来る」ものである。神が「聖霊」によって働きかけることで、人は神のほうに向き直るようになる。これを「回心」というのです。
しかも、建国初期のアメリカでは、そのような「回心」を経験していない人が「真の仲間」だと認められて、信仰がフラフラしている人は社会の中枢メンバーになれないこともあったといいます。
「回心」しているかどうかが重要……。こうなってくると、信仰について不安を覚える人もでてきます。そのような不安が社会情勢の不安と符合するようなタイミングで、アメリカでは「大覚醒」が起きます。多くの人が「自分は回心した」と確信する「信仰復興」が起きるのです。
この「大覚醒」には説教師が大きな役割を果たしたといいます。どこの誰かもわからない怪しい感じもする流れ者だけれども説教が上手で、彼がステージに立って訴えかけると、聴衆が集団的熱狂状態になって次々と「回心」していく。
橋爪先生は、そのような説教師は、どこかトランプ元大統領のような人物だとおっしゃいます。
日本人からすると、いささか「神がかり」にも見えますが、橋爪先生は「アメリカ社会には、比較的公然とそういうものがある」とおっしゃいます。
このあたりの機微は、このメールの短い説明ではややわかりづらいですが、講座本編(第3話)を見ると、とてもよく理解できるようになります。
このような社会の基底を知っておかないと、アメリカ社会を突き動かすものについて見誤ってしまうでしょう。
さらに第4話では、橋爪先生はアメリカの主要な宗派のうち、国教会、会衆派、クエーカー、メソディスト、バプティストの5つをご紹介くださいます。さらに橋爪先生は、カルト集団を見極めるためにも、それぞれの宗派の違いをしっかりと知っておく必要があると指摘されますが、ここも重要なところでしょう。
そして第5話では、そのようなアメリカのキリスト教社会が、「人権」や「法の支配」「民主主義」といった考え方にどのような影響を与えたのかをご説明いただきます。このご説明をきくと、いかに「法の支配」が「自由」と裏表の関係かも見えてきます。
異文化にある日本人として、このような「法の支配」「人権」「民主主義」をどのように考えるのかという点でも、まさに必見の講座といえましょう。
いままでよく見えていなかった部分が、クッキリと見通せるようになる講座です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆特集:いまだから学ぶキリスト教
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=145&referer=push_mm_feat
◆橋爪大三郎:「アメリカの教会」でわかる米国の本質(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4762&referer=push_mm_rcm2
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編集部#tanka
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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4969&referer=push_mm_tanka
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