編集長が語る!講義の見どころ
がん告知を受けて…大国主神から「生き方」を考える/鎌田東二先生【テンミニッツTV】
2023/12/12
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
テンミニッツTVで、これまで数多くの講義をお願いしてきました鎌田東二先生が、大腸がんの診断を受けたのは、2022年年末のこと。2023年1月に手術を行ないますが、2月には肺や肝臓、リンパ節にも転移が見つかりステージ4の大腸がんだと告知されました。
がんの告知を受けて、鎌田東二先生は、2022年12月28日から1月4日までの4日間で、著書『悲嘆とケアの神話論――須佐之男と大国主』をまとめあげました。この本は、鎌田先生が書かれた「詩」と「論文」を組み合わせた構成になっています。
そのなかでも、とりわけ印象深いのが、大国主神についての長編詩と論文です。
なぜ、大国主神なのか。
実は大国主神は、兄神たちから2度も殺されるものの2度とも母神はじめ多くの助けでよみがえった神であり、「国づくり」も神々の助けを得ながら行なった神であり、そして最後には、せっかくつくった国を「国譲りする」神なのです。しかも、縁結びの神ともされます。
鎌田先生は、「最弱であり最強の神」だとおっしゃいます。その大国主神のことを学ぶことで、人はどのような気づきを得ることができるのでしょうか。
◆鎌田東二:大国主神に学ぶ日本人の生き方(全9話)
(1)大国主神のメッセージを現代に生かす
がんの告知を受けて大国主神のケアと自己回復力に共感した
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5170&referer=push_mm_rcm1
鎌田先生は、『悲嘆とケアの神話論』で大国主神に注目した理由を次のように語ります。
《コロナ禍になり、このような状態の中をどう生きていくのかといったときに、「一番苦しい状態を生き抜いていた神様とは、どのような神様だろう」と『古事記』の中を調べていくと、大国主神が一番苦しみ、痛み、嘆くはずなのだけども、嘆きの言葉は一切ないのです。
スサノオは、割と嘆くし、泣きじゃくるし、華々しく泣き叫んでいるのだけれど、大国主神は(後でも話しますが)2度殺されても、「泣く」などの負の感情の表出は一切ないのです。
でも、苦しんでいるはずなので、痛みを受けても負の感情を表出しないで生きている、甦ることができるとは、いったいどういうことなのか。この大国主神の自己回復力(レジリエンス)とはいったい何かという問いかけを通して、現代を生き抜く知恵と力をもう1度、読み直してみたい。そのメッセージを現代に生かしたい》
さらに、ロシア・ウクライナ戦争を経て、「大国主神の国譲り」という捨て身の戦法がどのような意味を持っていたのかが切実に響いてきたとも。
そして鎌田先生は、大国主神の現代的な意味として、次の4つを提示するのです。
●「助け、助けられる」関係としての「ケア」。
●サステナブルなあり方を再構築する「エコロジー」。
●対立と格差を超えて持続可能な統治を実現する「ガバナンス」。
●生かすもの、甦らせるものとしての「アート」。
それぞれの位置づけについては、ぜひ第2話をご覧ください。
続いて、大国主神の神話についてのお話が続きます。よく知られている「因幡の白兎」も大国主神の神話ですが、その大国主神は、兄神たちに妬まれて、2度も殺されてしまいます。しかし、母神たちの乳汁により2度とも復活する。さらに、黄泉の国に行ってスサノオと会い、様々な試練を乗り越えてスセリビメと結ばれ、三つの神宝を手に入れてパワーアップを果たす……。
このような神話を、がん告知を受けた鎌田先生は「死からも力を得られる」と実感するとおっしゃいます。
《生きているものが死を媒介にすることによって、死からも力を得る。死が怖いものというよりも、力の根源のように思える。死が1つの光の源であり、命の根源なのです。だから死は終わりではなく、もう1つの始まりである。復活をはらんでいく。
その復活がどのようになるかは私もよく分かりません。輪廻転生するという考えもあるし、生まれ代わりの物語も日本ではかなりあります。あるいは、遺伝子としていろいろなものにリレーされていくという考え方も科学的にはあるでしょう。
いろいろな考え方がある中で、命の循環性というもの、リレーというものがどうなっているのかを考え直す。それによって、考えが変わることによって、ものの見方が変わることによって、パワーアップもできる。それは実感するのです》
さらに、大国主神は「国譲り」も行ないます。鎌田先生は、この国譲りについても、大国主神が独断ではなく、息子たちに意見を聞いていることの意味を問います。皆の話を傾聴する、「聞く力」のある神様であり、助けられながら達成していく。一番弱いのだけれども、一番粘り強い神様だと。
第4話では、『古事記』神話のキーワードとしての「むすひ」と「修理固成」について語られます。「むすひ(産霊)」は根源的な生成力。「修理固成」は「おさめ、つくり、かため、なせ」とも読まれますが、根源的な生成力によって生み出されたものを、創意工夫によって修理し、リメイクし、続けていくことです。
このあり方をしると、「終わりなきダイナミズム」ともいうべき動的な世界観を深く知ることができます。
第5話からは、いよいよ鎌田先生の「大国主」と題された「詩」をご自身の朗読で味わい、物語を深く感じて知るパートとなります。
鎌田先生は、『古事記』は歌物語としての「詩」であり、それを鎌田先生なりに「修理固成」したのだとおっしゃいますが、詩のかたちで聴くことにより、イメージが大いに膨らんでいきます。
第8話では、『古事記』のなかの大国主神の和歌を読み解きます。実は『古事記』には、大国主神の歌が多く載せられているのです。ここから見えてくるのは、歌による縁結びの力です。
そして、第9話で語られるのは、大物主神との関係です。奈良県の三輪山に祀られる大物主神は祟る神としても知られます。この両神は「奇魂、幸魂の関係」というように深い結びつきで語られます。
周りから助けられて修理固成をし、縁結びをしていく神様が、なぜ祟りと結びつくのか。そこからは「常にいい人でなければならない」という「いい人症候群」には陥らない多様な側面が現われます。
この多様性が、いかなるメッセージをもたらすかは、ぜひ講義本編をご参照ください。
日本人が古来つむいできた神話を、生きる力に変え、現代に活かしていく道について、深く考えることができる必見講義です。
(※アドレス再掲)
◆鎌田東二:大国主神に学ぶ日本人の生き方(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5170&referer=push_mm_rcm2
----------------------------------------
編集部#tanka
----------------------------------------
「甘えには節度が大事」その機微を小津安二郎で味わうこの夜
與那覇潤先生が土居健郎著『「甘え」の構造』を論じる講義の最終話で、「節度ある甘え」の大切さを語ります。それは小津安二郎の映画にも表われると。今日は小津さんの生誕120年。(達)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4988&referer=push_mm_tanka
----------------------------------------
今週の人気講義
----------------------------------------
聖徳太子の「和」は議論の重視…中華帝国への独立の気概
頼住光子(東京大学大学院人文社会系研究科・文学部倫理学研究室教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5179&referer=push_mm_rank
世界で最も自己投資しない日本人…もっとスキルアップを
宮本弘曉(東京都立大学経済経営学部教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5124&referer=push_mm_rank
公共心だけで人材確保は無理…迫られる給与体系の見直し
柳川範之(東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授)
神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5117&referer=push_mm_rank
「キリスト教は知らない」ではアメリカ市民はつとまらない
橋爪大三郎(社会学者)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4762&referer=push_mm_rank
学ぶきっかけは稲盛和夫氏…ベクトルを合わせるための手法
山浦一保(立命館大学スポーツ健康科学部・研究科 教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5142&referer=push_mm_rank
※頼住光子先生の「頼」は、実際は旧字体です
----------------------------------------
編集後記
----------------------------------------
皆さま、今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。
さて最近、以下の本を読み始めています。
『一汁一菜でよいと至るまで』(土井善晴著、新潮新書)
https://www.amazon.co.jp/dp/4106109506/
料理研究家でテレビやラジオなどでおなじみ土井善晴さんの著書で、『一汁一菜でよいという提案』がベストセラーになったので、この本を読まれた方は少なくないかもしれません。
実は、土井さんの本は他にもいくつか読んだことがあるのですが、実に博学で新たな気づき学びを与えてくれる、教養を磨くにはもってこいの本ばかりだと感じています。
今回取り上げた書籍の中に『食生活と身体の退化―未開人の食事と近代食・その影響の比較研究』(W.A.プライス著、1978年)という本の話が出てきて、土井さんの料理の道に大きな影響を与えたということで、とても興味深く感じました。その中に「(人間は)知識がなければ楽ちんな方法(便利)を簡単に選んでしまう」という話があり、それに関するある実験結果を紹介しています。
詳しくは本書をぜひ読んでいただければ思いますが、こうした話一つ一つが貴重で、教養の大事さ、知の重要性をひしひしと感じている今日この頃です。
最後に、料理とは関係ないですが、以下、川上浩司先生(京都先端科学大学教授)の講義を紹介して終わりたいと思います。
◆川上浩司:不便益システムデザインの魅力と可能性(全7話)
(1)「便利・不便」「益・害」の関係
「不便益」とは何か――便利の弊害、不便の安心
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3968&referer=push_mm_edt
「便利=益」「不便=害」なのかという視点で、「不便益」というとても面白い研究をされている川上先生の講義です。ぜひシリーズ通してご視聴ください。
人気の講義ランキングTOP10
「ブッダに帰れ」――禅とは己事究明の道
藤田一照
熟睡できる習慣や環境は?西野精治先生に学ぶ眠りの本質
テンミニッツ・アカデミー編集部