編集長が語る!講義の見どころ
平安時代と『源氏物語』を深く知る/特集&板東洋介先生【テンミニッツTV】

2024/03/01

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

NHK大河ドラマ「光る君へ」で、平安時代のことや、紫式部が書いた『源氏物語』への関心が高まっています。

平安時代は、実際のところどのような時代だったのかは、いま一つ、ピンと来ないもの。また、紫式部の『源氏物語』をいつかは読んでみたいと思いながら実現していない方も多いのでは? 

今回の特集では、「平安時代」と『源氏物語』を深く理解することができる講義を一挙紹介いたします。


■特集:平安時代と『源氏物語』を深く知る

https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=229&referer=push_mm_feat

・板東洋介:『源氏物語』の謎…なぜ藤壺とのスキャンダルが話のコアに?

・関幸彦:平安時代とはどんな時代?激動と転換の400年が持つ意味

・林望:源氏物語の基礎知識…人物関係図でみる物語の流れと読み方

・渡部泰明:『古今和歌集』仮名序とは…日本文化の原点にして精華

・関幸彦:「王朝国家」と「武士」が誕生した理由は大唐帝国の解体


なお、今回の特集の講義群は、1月24日(水)の「編集部ラジオ」《【大河ドラマが楽しくなる】平安時代と源氏物語の講義集》でも紹介しています。まず手軽に全体観をお知りになりたい方は、ぜひ、こちらもご視聴ください。

◆編集部ラジオ2024:1月24日(水)
【大河ドラマが楽しくなる】平安時代と源氏物語の講義集
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5234&referer=push_mm_rcm3


■講義のみどころ:『源氏物語』の本質は?「もののあはれ」で考える(板東洋介先生)

本日は特集のなかから、そもそも『源氏物語』はどのようなもので、日本人にいかに読まれてきたのかについてご解説をいただいた板東洋介先生(筑波大学人文社会系准教授)の講義を紹介いたします。

今回の特集では、『源氏物語』の講義として、板東洋介先生の講義と、林望先生の講義を挙げておりますが、最初に、板東洋介先生の講義で全体像や位置づけの部分を理解してから、林望先生の講義を見ると、『源氏物語』への理解がいっそう進むのではないかと思われます。

板東先生は、『徂徠学派から国学へ――表現する人間』(ぺりかん社)で、第41回サントリー学芸賞と第14回日本思想史学会奨励賞を受賞されている、気鋭の研究者でいらっしゃいます。

さて、『源氏物語』は、どう読むべきなのか。

◆板東洋介:『源氏物語』ともののあはれ(全5話)
(1)雅な『源氏物語』の再発見
『源氏物語』の謎…なぜ藤壺とのスキャンダルが話のコアに?
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5128&referer=push_mm_rcm1

講義の冒頭で、板東先生はこうおっしゃいます。

《私にとって『源氏物語』が面白いのは、少なくとも今に至るまで、この本は1000年以上、日本最大の古典として読み継がれているわけですが、ただ、ずっと読者たちが困ってきたことがある、つまりこれはいったい何なのだということです》

54帖ある物語で、数十年にわたって、数多くの人物が登場する。読めばおもしろく感動を受けるが、だが、この物語は「いったい何を語ろうとしているのか」。

実は、この点をズバリと掘り下げたのが江戸期の国学者である本居宣長でした。この講義では、本居宣長の『源氏物語』解釈をベースに、板東先生にご解説をいただくのです。

板東先生は、まず、『源氏物語』を貫く、重要なスキャンダルについてご解説くださいます。

◆『源氏物語』の主人公は、帝のご落胤である。しかし母親の桐壺更衣はかなり下位の后であり、複雑な権力関係の兼ね合いなども原因となって、光源氏が3歳の折に亡くなってしまう。

◆光源氏は母の面影を追い求め、母親にそっくりな藤壺に思いを寄せる。実は藤壺は、帝が「桐壺更衣にそっくり」ということで妻として迎えた人物であった。

◆光源氏は、その藤壺を最初は母親として慕っていたが、やがて女性として慕うようになり、結ばれてしまう。

もちろんこの光源氏の行為は、義理の母親であり天皇の后である女性に対してのものなので、絶対に許されるはずのないものです。

それゆえ悶々とする光源氏は、藤壺の姪に当たる紫の上を誘拐まがいで自分のところに連れてきて、自分好みに育て上げて結婚をする……。

この紫の上との関係も、十分にスキャンダラスですが、なんといっても王朝世界で最悪のスキャンダルは藤壺との関係です。

「なぜ、わざわざこんなストーリーが話のコアにあるのか」。そのことを、日本の代々の知識人たちはなんとか取り繕おうとしてきたと板東先生はおっしゃいます。

板東先生は、このような『源氏物語』の(冒頭部の)エッセンスについて、原文も引用しつつご解説くださいますが、それはぜひ、講義の第2話でお楽しみください。

講義第3話では、日本の知識人たちがこの物語をどう読んだのかが解説されます。様々な文章が紹介されますが、ひと言でいえば、「勧善懲悪」であったり「会者定離」であったり、つまるところ儒教的に、あるいは仏教的に「これは、ある種の教訓を説いているのだ」と読んだのです。

これは、現代的にいえば、映画作品などについて、「これは、こういう哲学を語っているのだ」と意味を読み解こうとする見方に通じるものだと板東先生はおっしゃいます。そしてこういうのです。

「問題は私たちがそれを観たときの感動というのはちょっとそれで説明できていないのではなかろうか」。

このような「隔靴掻痒(かっかそうよう)」感を、初めてズバリと説明できたのが、まさに本居宣長の画期でした。

以下、本居宣長の様々な原文も引きながら板東先生がご解説くださるのは、まさに必見です。要すれば、本居宣長は「もののあはれ」が『源氏物語』の本質だと喝破したのでした。

スキャンダラスな恋だからこそ2人の恋の思いは燃え上がる。その分だけ悲劇的な「恋の丈(=恋のボルテージ)」が高くなる。だからこそ、その恋にまつわる「あはれ(=感動)」が最大のものになる。

そして、この「もののあはれ」は、『源氏物語』の本質を構成するだけではなく、「和歌」の本質でもあると本居宣長は述べています。

では、その「もののあはれ」とはいかなるものなのでしょうか。

板東先生は、「もののあはれ」について本居宣長が語った要所をいくつも引用しつつ、さらにご自身のイラストも加えてご解説くださいます(第4話)。

板東先生は、こうおっしゃいます。

《宣長が語っていたことというのは、外界のいろいろなものに動かされる(ということです)。それは美しい花だなとか、あるいは美しい異性だなとか、美しい人だなと、われわれは心が多様に動くわけであって、「あはれ」というのは、ここでははっきり言われていないのですが、心の動きというよりは、嘆きの声、ため息なのです》

板東先生が描かれたイラストを見れば、このことが直感的に理解できます。

さらに板東先生は、「もののあはれ」を深く理解するためにぜひとも知っておきたい「欲」と「情」についてもご解説くださいます。

「欲」とは、富や財宝などを「自分のものにしたい」と思う心。これは、あまり「あはれ(感動)」が深くはありません。一方、「情」とは「欲しいと思うが、絶対に自分は手に入れられないだろう」という、一種の諦めが伴った深い想いです。

「欲」はけっこう満たされやすい。しかし「情」は相手に届かないから、われわれは深いため息を漏らす。恋は基本的に「情」である。

さらにいえば、光源氏の恋は、まさに「情」であり、だから思いや感動のボルテージはいっそう深い。

そのようにご解説いただきつつ、板東先生はとても印象深い本居宣長の文章をご紹介くださいます。ここで本居宣長は、次のように語ります。

「『源氏物語』を誡め(いましめ=教訓)のように見るのは、桜の木を伐って薪(たきぎ)にするようなものだ」。

つまり、『源氏物語』を道徳的なものとして読んでは「もったいない」と、印象深く語るのです。この芸術観は、まさに多くのヒントをわれわれに与えてくれるものといえましょう。

さらに板東先生は「『もののあはれ』の共感性が、日本人の倫理の根幹になる」とも指摘されます。

講義全編を通じ、『源氏物語』や本居宣長の様々な文章などを、実際にわかりやすく読み解きつつ、講義をお進めいただくので、非常に深い理解に到達できます。ぜひとも見ておくべき講義です。


(※アドレス再掲)
◆特集:平安時代と『源氏物語』を深く知る
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=229&referer=push_mm_feat

◆板東洋介:『源氏物語』ともののあはれ(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5128&referer=push_mm_rcm2

◆編集部ラジオ2024:1月24日(水)
【大河ドラマが楽しくなる】平安時代と源氏物語の講義集
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5234&referer=push_mm_rcm4


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岸田総理の政倫審出席。組織のガバナンスを崩した先にあるのは、さて…。こういうときは問題の本質をあらためて整理しないと混乱してしまいます。曽根泰教先生の解説を、ぜひ。(達)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5219&referer=push_mm_tanka