編集長が語る!講義の見どころ
人間にとって宗教とは?…脳の働きで考える/特集&長谷川眞理子先生【テンミニッツTV】
2024/03/15
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
世界中に「宗教」があることは、考えれば考えるほど、不思議なことです。ときに「日本は無宗教」などといわれることがありますが、実のところ、日本のコンビニの店舗数が5万7000店前後であるのに対して、神社は約8万社、寺院は7万7000寺あるといいます。
なぜ、人間は「宗教」を必要としたのでしょうか。また、「宗教」があることによって、人類社会はどのように発展してきたのでしょうか。
考えれば考えるほどに不思議な「宗教」の話。今回の特集では、宗教の本来の働きや、社会に根差した宗教の姿について深掘りした講義をピックアップしました。
■特集:人間にとって「宗教」とは何か
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=230&referer=push_mm_feat
・長谷川眞理子:私たちにはなぜ宗教が必要だったのか…脳の働きから考える
・橋爪大三郎:世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
・橋爪大三郎:数千年の歴史のなかで勝ち残ってきた文明が4つある
・渡部玄一:古き良きヨーロッパのキリスト教社会が克明にわかる名著
・山内昌之:ムハンマドは神の啓示を受けた預言者で共同体の最高指導者
・田口佳史:神道とは何か――本居宣長が『古事記伝』で語っていること
■講義のみどころ:2000年を超える叡智…キケロ『老年について』(本村凌二先生)
本日は特集のから、長谷川眞理子先生(日本芸術文化振興会理事長/元総合研究大学院大学長)に、進化生物学や脳の働きの見地から「宗教」や「神」について語っていただいた講義を紹介いたします。
脳の働きから「宗教」について考えると、いくつもの興味深い視点が浮かび上がってきます。はたして、どのようなことが見えてくるのか。
「人間とはいかなるものか」を考えるうえでも、必見の講義です。
◆長谷川眞理子:進化生物学から見た「宗教の起源」(全3話)
私たちにはなぜ宗教が必要だったのか…脳の働きから考える
(1)宗教の起源とトランス状態
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5225&referer=push_mm_rcm1
この講義は、『宗教の起源――私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか』(ロビン・ダンバー著・長谷川眞理子解説・小田哲翻訳、白揚社)をベースにお話をいただいたものです。
著者のロビン・ダンバーはイギリスの自然人類学者・霊長類学者・進化心理学者で、長谷川眞理子先生と長年のご友人とのこと。
ダンバーの一番の学術的な業績は、霊長類の脳の新皮質の容量を測り、脳容量によって自然に維持できる集団のサイズを計算したこと。人間についても、「ヒトはだいたい150人が気持ちよく維持できる集団だ」という「ダンバー数」を発見しました。
実はこの「維持できる集団のサイズ」が、この後の宗教についての考察にも重要なポイントとなっていきます。
続いて、「宗教とは何か」という問題提起がなされますが、ここで注目されるのは、「宗教を持たないヒトの集団はない」ということです。となれば、人の脳の認知機能が固有に持っている特徴から派生してくる現象ではないのか?
ここで長谷川先生が指摘されるのが、「トランス状態」です。テンミニッツTVの橋爪大三郎先生の《「アメリカの教会」でわかる米国の本質》講義でも、「回心」や「覚醒」などといった、ある種のトランス状態についてお話しいただいています。
ここは日本人には、いま一つピンと来ないかもしれません。しかし長谷川先生によれば、世界中に488ある部族社会の90パーセント以上では、何かの信仰や宗教のような信仰体系の中で意識が飛んでしまい、変わってしまう「変容(トランス)状態」があるとのこと。
では、「トランス状態」とはどのようなものか。静かに瞑想することから入ることもできるそうですが、多くの場合、歌と踊りをずっと続けるような激しい運動と疲労によるそう。また、断食、薬物というケースもあるそうです。
脳科学的にいうと、これは側頭葉、特に右の側頭葉での、てんかんのような発作が関係しているのではないとのこと。脳にそのような働きがあることが、宗教が普遍的に存在することの1つの基礎ではないかといいます。
次に論じられるのは、「宗教」が持つ5つの機能です。
●世界の成り立ちや出来事の理由を説明する(因果的説明)。
●道徳的価値体系を示す。
●死と死後の世界、魂の行く末を示す。
●世の中の悲惨に対する慰め、救い。
●内集団の結束を固めて相互扶助を促進し、外集団と闘う。
それぞれ、なぜそれが必要だったのかの説明は、とても興味深く、納得させられるものです。
ぜひ講義本編をご覧ください。
第2話の後半からは、最後の「内集団の結束を固めて相互扶助を促進し、外集団と闘う」部分について詳述されます。
猿の場合は、「毛繕い(グルーミング)」をすることで、集団の結束を維持します。1対1で毛繕いをすると、脳内にエンドルフィンが分泌されて幸福感がもたらされる。それによって、互いの信頼関係が増すのです。
しかし、毛繕いができる集団の規模は限られます。
人間の場合、大脳の新皮質が発達したので、心(概念)を共有することができるようになった。それゆえ、毛繕いしなくても楽しく、幸福になれる。それが宗教的儀式につながっているのではないか。
著者のダンバーが、「150人が人間が気持ちよく維持できる集団の人数」であることを発見したことは、先に述べたとおりです。この「150人」という数が、どんどん拡大しえたのは、まさに宗教の果たした役割だったのではないかというのです。
人間の「脳」の働きから、「宗教」のあり方がおもしろいように見えてくる講義です。先にも述べたとおり、人間社会の成り立ちや特徴を考えるうえでも、まさに必見です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆特集:人間にとって「宗教」とは何か
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=230&referer=push_mm_feat
◆長谷川眞理子:私たちにはなぜ宗教が必要だったのか…脳の働きから考える(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5225&referer=push_mm_rcm2
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編集部#tanka
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日銀正常化という報道が盛んになされています。10MTVでは2016年に植田和男先生がマイナス金利について語ってくださった講義を配信しています。振り返ってみてはいかがでしょう。(達)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1202&referer=push_mm_tanka
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