編集長が語る!講義の見どころ
阿部正弘…幕末史を変えた若き老中首座の評価とは/山内昌之先生【テンミニッツTV】

2024/04/16

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。

幕末の歴史を見るとき、どの人物に注目すると、いろいろな物事が見えてくるのか。そのときに真っ先に名前が挙がるべき人物が阿部正弘でしょう。

阿部正弘は、文政2年(1819年)に生まれています。譜代大名の福山藩(現在の広島県福山市)の第7代藩主で、天保14年(1843年)に25歳の若さで老中となり、弘化2年(1845年)には老中首座になっています。そして、安政4年(1857年)に39歳で急死しました。

水野忠邦を老中首座の地位から追って老中首座となったかたちです。ペリー来航時にも老中首座でした。その後、阿部正弘が亡くなった翌年に井伊直弼が大老に就任する流れになります。

激動期に幕府の実務責任者を務めたかたちです。彼が行なったことが、その後の状況を大きく左右することとなっていくのです。

本日は、この阿部正弘について山内昌之先生(東京大学名誉教授)に教えていただいた講義を紹介します。はたして、阿部正弘のことがわかると、どのような幕末史が見えてくるのでしょうか。

◆山内昌之:徳川将軍と江戸幕府~阿部正弘編(全5話)
(1)若き老中首座・阿部正弘の使命
26歳で老中首座…阿部正弘が幕末の動乱期に担った使命とは
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5272&referer=push_mm_rcm1

阿部正弘は、高く評価されることが多い人物です。

とくに評価されるのは、川路聖謨(かわじとしあきら)、岩瀬忠震、永井尚志、勝海舟ら有能な人々を積極的に登用した点です。一方、ペリーをはじめ西洋列強の来航に際し、調停や外様藩にまで広く意見を求めたことは、評価が分かれるところです。

山内先生は、「実際の阿部正弘は決して単純な人間でもないし、本当にそう高く評価される(ハイリー・エバリュエートな)人間かどうかというと、疑問を感じます」とおっしゃいます。

たとえば、川路聖謨を最初に登用したのは、阿部正弘の前任の水野忠邦でした。水野忠邦も、いろいろな才能を地味に発掘する努力をしていたのです。

また、阿部正弘の没後に大老となった井伊直弼も、安政の大獄を行なったイメージでばかり見られることも多いけれども、「実際にはやはり相当な政治家だ」とおっしゃいます。

水野忠邦、阿部正弘、井伊直弼という突出した個性のある政治家を連続的に捉えて、見ていくことがカギとなると山内先生は指摘されます。

次に山内先生が強調されるのは、阿部正弘が異例の若さで「老中首座」に上り詰めていることです。山内先生は、このような人材は、徳川幕府全般を通じて、松平定信、松平信明、阿部正弘の3人ぐらいしかいないとおっしゃいます。

では、阿部正弘はいかなる使命を背負って登板したのか。

山内先生は、「政治を安定化させること」ではなかったかと指摘します。

阿部正弘は、稀有のバランス感覚の持ち主だったといいます。幕末最大の不安定要因であった水戸の徳川斉昭ともうまくやり、一方で薩摩藩の島津斉彬や越前藩の松平春嶽などともうまくやれたのが阿部正弘でした。

しかし一方で、うまくやったからこそ、物事が決定的に進んだかといえば、そうも言い切れないところがある。八方美人といえば、そうもいえる。阿部正弘は問題を山積させて亡くなったともいえるのです。

ここで山内先生は「中庸の人」の人間類型を、孔子やモンテーニュを例に引きながらご紹介くださいます。進取だけれども激越な人(狂者)と、巧言令色なだけの偽善者(郷原)。それらと中庸の人は、どう違うのか。この部分は、まさに人間通の山内先生ならではのところ。ぜひ講義の第2話、第3話でご覧ください。

では、阿部正弘はどうだったのか。この分析は、第4話と第5話でじっくりとなされます。

ここで大きなポイントとなるのが、やはり水戸藩の徳川斉昭です。理想を語るが矯激に過ぎる徳川斉昭。阿部正弘は、諸々の意見のバランスを取る意味もあって、その斉昭を海岸防禦御用掛に任じ、政権内に取り込みました。

その功罪をどう考えるべきか。

ペリー来航という、ある意味では極限のときにこそ表出する「人間のあり方」とは。多くのことを考えさせてくれる講義です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆山内昌之:徳川将軍と江戸幕府~阿部正弘編(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5272&referer=push_mm_rcm2


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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて今、以下の本を読んでいます。20年以上前の本で偶然知ったのですが、かなり刺激的で気づきの多い内容だと感じています。

『情報編集力:ネット社会を生き抜くチカラ』(藤原和博著、筑摩書房)
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480863256/

そのなかで著者の藤原和博氏が佐伯胖氏(当時東大教授)と対談しており、学びについての話があるので一部抜粋します。

「今までの学びの考え方は自分一人で達成し、能力を発揮しようとするものでした。しかし、これからは他者と学び合い、あるいは必要な他者を見つけ出し、関係を作っていく能力が重要なんじゃないだろうか。これはひとことで言うと、自分一人で学ぶ力をつける教育から、ともに学ぶ力をつける教育への転換ということになります。そのきっかけにネットワークが使えると思うんです」

このお話を読んでいて、テンミニッツTVの以下の講義のことを思い出しましたので、最後に紹介して終わりたいと思います。

デカルトはなぜ「学ぶ人は一人にしては駄目」と言ったのか
津崎良典/五十嵐沙千子
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3999&referer=push_mm_edt

「誰かと一緒に学んでいく。それは読書であるかもしれないし、授業に出ることであるかもしれないけれども、そうするなかで、いろんなことに応用可能な能力がつく」とは津崎先生の言葉。

ということで皆さま、これからもともに学んでいきましょう。