編集長が語る!講義の見どころ
天皇のあり方と日本について深く考える/片山杜秀先生【テンミニッツTV】

2024/04/30

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。

4月29日は「昭和の日」でした。もちろん、昭和天皇のお誕生日が由来です。この日をきっかけに、皇室のことや昭和の歴史のことに思いを馳せるのも、とても大切なことだと思います。

とりわけ、安定的な皇位継承のあり方について、各党や国会で議論が進められてもいます。このようなときこそ、本質はどこにあるのかを、しっかりと考えていくことが必須でしょう。

本日は、片山杜秀先生(慶應義塾大学法学部教授)の講座を紹介いたします。

片山先生は、「そもそも戦後の皇室のあり方はどのように構想されたのか」、「三島由紀夫VS東大全共闘の討論で象徴的に現われた論点とはどのようなものだったのか」、「福澤諭吉が『帝室論』で提示したことの現代的意味は何か」などを探究し、現代の皇室の問題を深掘りしていきます。

片山先生ならではの博覧強記の議論に圧倒されつつ、現在直面している問題の深い本質を考えていくことができる講座です。

◆片山杜秀:天皇のあり方と近代日本(全7話)
(1)「人間宣言」から始まった戦後の皇室
皇室像の転換…戦後日本的な象徴天皇はいかに形成されたか
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4289&referer=push_mm_rcm1

片山先生はまず、敗戦後、連合国から皇室の廃止を含めた圧力を受けるなかで、昭和天皇が「新日本建設に関する詔書(人間宣言)」を出されるなど、力強く対抗されていったことをご紹介くださいます。

当時、小泉信三をはじめオールド・リベラリストと呼ばれた人たちは、天皇は「国家を束ねるのにとっても素敵で、立派で、いい人で、尊敬できる人で、いつもいてほしい人」であるという人間天皇像を推し進めていきました。

日々の暮らしから結婚問題などまで、常に「国民の憧れであり、模範」であることが求められていきます。それゆえ、ご成婚なども広く国民のあいだで「恋愛結婚」であることが強調されるようにもなりました。

しかし片山先生は、このような小泉信三の考え方は、結果的には「近視眼的」だったと喝破されます。

なぜか。

オールド・リベラリストたちが前提にしていたのは、いわゆる「ブルジョア市民道徳」でした。国民の大多数が「当たり前に正しい」と思い「憧れる」ような標準的な規範です。その前提で、イギリス王室的なモデルが掲げられました。

しかし現在、その前提は成立するのでしょうか。

いまや「価値観の多様化」が叫ばれており、欧米でも国論は極端に二分されています。LGBTなどの価値観をめぐる議論や、アメリカにおけるトランプ派と民主党との戦いなどは、まさに典型的でしょう。

このような時代に、天皇が「国民に寄り添う」ことなど可能なのか? 何らかの価値観に寄り添ったら、そうではない価値観を持つ勢力から強い反発を受けてしまうのではないか? そんななかで「人間的に尊敬される天皇」というあり方が成立するのか?

この論点は、議論の前提として、とても大事なところでしょう。

しかも人間として尊敬されるべく「開かれた皇室」のあり方を進めることで、国民から監視され「見世物」のようになってしまう一面も否定できません。SNS時代には、ますますそうなります。

そのことの厳しさが、皇族の皆さま方に大きな精神的プレッシャーとなり、お心の問題を公にせざるをえない方々が続くような事態も招来してしまっているのではないか?

このような問題提起も、しっかりと考えられなければなりません。

この問題をいち早く見抜いていた1人が三島由紀夫でした。三島由紀夫は「三島由紀夫vs東大全共闘」として有名な昭和44年の東大駒場キャンパスでの公開討論会で、次のように発言しています。

《今の天皇は一部の人が考えるように非常に立派な方だ、今どきめずらしい素直な立派な方で、それだからこそ私はあの天皇は大好きで、あの天皇のためなら何でも尽くす。こういう考えを私は持っているわけじゃないのです。それは小泉信三とかオールド・リベラリストたちの天皇観です》

「三島由紀夫は、そのような考えでは『立派ではない皇族がいるから、天皇家はなくていい』というレベルの議論になってしまうと見抜いていた」。そう、片山先生はおっしゃいます。はたして、三島の考えとはどのようなものだったのか。

さらに片山先生は、帝国議会の開設(1890年)の前の1882年に福澤諭吉が発表した「帝室論」について考察されます。

福澤諭吉は、議会政治の本質は「政党の対立争闘は火のごときものであり、また国会の制定する法令は情の薄いもの」なので、「天皇はそのような党争から超然としていなければならない」と考えました。国会の対立が盛夏のごとく厳冬のごとくであっても《帝室は独り万年の春にして、人民これを仰げば悠然として和気を催す》ようなものでなければいけないと強調したのです。

それゆえにこそ、福澤諭吉は「皇室財産」のあり方にも深いまなざしを向けます。議会の対立から超然としているためには、しっかりした皇室財産が必要不可欠だと主張したのですが、その先に見据えていたものとは?

これらの議論の詳細については、ぜひ講座本編をご覧ください。

皇室のあり方について、「この段階で、運を天に任せるのは無責任」だと片山先生はおっしゃいます。これからの皇室について、どのように考えていくべきか。片山先生の議論と問題提起をきっかけに、多くのことを考えることができる名講義です。


(アドレス再掲)
◆片山杜秀:天皇のあり方と近代日本(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4289&referer=push_mm_rcm2


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編集部#tanka
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脳みその老廃物よ流れ去れ深き眠りに落ちるまにまに

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https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4158&referer=push_mm_tanka


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編集後記
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今回のメルマガ、いかがでしたか。編集部の加藤です。

さて今、以下の本を読んでいます(実は斎藤環氏に関しては、新講師として夏ごろまでに登場予定なのです)。

『生き延びるためのラカン』(斎藤環著、ちくま文庫)
https://www.amazon.co.jp/dp/4480429115/

そこにこんな興味深い話が出ていたので紹介いたします。

〈あの地動説のガリレオがこんなことを言っている。「他人に何かを教えることなどできない。できるのは、自力で発見することを助けることのみだ」とね。これなんか、すごくよくわかるな。このガリレオの言葉は、教育はおろか、転移というものの本質にすら射程が届いている。「発見を助ける」ってことは、発見したいという欲望、つまり「知への欲望」を転移を通じて伝えることにほかならないからだ〉

いかがですか。「発見を助ける」「知への欲望」のお手伝いをするってテンミニッツTVの役目ではないかと感じた次第です。

そこで最後に以下の講義をお伝えして締めたいと思います。

人間だけが大人になっても「学び」を持続できる
長谷川眞理子(日本芸術文化振興会理事長/元総合研究大学院大学長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2125&referer=push_mm_edt

「学びたい」心のためのテンミニッツTV、今後ともご愛顧のほどよろしくお願いいたします。