編集長が語る!講義の見どころ
運と歴史~どうすれば運は高まるのか/山内昌之先生【テンミニッツTV】
2024/06/04
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
さて、「運」とはどういうものでしょうか。もちろん、「運がいい」ことを、ほとんどの皆さんが願っていると思います。
では、運を高めることは、どうすればできるのか。幸運はどうすれば引き寄せられるのか。
そのことについて、山内昌之先生(東京大学名誉教授)が、歴史の事例をひもときながら教えてくださった講義を紹介します。
山内先生は、歴史の様々な例を引きながら、「運」についてお話しくださいます。逸話を聴きながら、運の色々な側面について考えを巡らせる。あたかも素晴らしい歴史エッセイを読んでいるような講義です。
◆山内昌之:運と歴史~人は運で決まるか(全7話)
(1)ソクラテスが見舞われた「運」
歴史における「運」とは?ソクラテスの「運」から考える
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5331&referer=push_mm_rcm1
まず最初に山内先生は、《貧富や地位などの問題は、「運」で決まるのか、「運以外」(努力、教養、道徳)などで決まるのか》ということについて、古今東西の思想家の考えが分かれているというお話から、この「運」講義を切り出されます。
最初に山内先生が挙げる例は、ソクラテスです。
ソクラテスは、当時のアテネの人びとから「若者たちを堕落させた」という乱暴な告発を受けて死刑判決を受け、毒を仰いで死ぬことになった。それに対してソクラテスは、こう述べたとされます。
《なんとたいへん不幸な運命を君はぼくに認定してくれたものだ》
しかし、そのような不運な死刑宣告を受けても、ソクラテスは穏やかに耐え、嘆いたり、調子外れになったり、悪びれることもなかった。
運は、けっして「幸運・良運」ばかりではない。「悪運・悲運」に見舞われたときにどうするか。
ここで、山内先生は《「果報は寝て待て」は、積極的な生き方だ》とおっしゃいます。
たとえば、人事で自分が認められず、同僚が出世の糸口をつかんだとする。誰もが自分にだって実力があると自負しているけれど、誰もが出世するわけではない。そういう時にどう考えるか。
山内先生は「運も実力のうち」だと考えて、自分を納得させることの効用について指摘されます。「果報は寝て待て」あるいは「人事を尽くして天命を待つ」という考えが良いのだ。そうすれば、あまりガツガツしたり、人を追い落としたりすることもしないで済む。
これは「いい意味で、運を頼りにしている」あり方だと山内先生はおっしゃいます。「悲運や悪運が自分には来ない」と信じることは、生き方として非常に大事なことだと。
次に紹介するのは、関ヶ原合戦での黒田長政の事例です。「運に恵まれる」ためには、自分自身がその運を引いてくる努力をしなければいけないが、黒田長政はその例だというのです。
関ヶ原合戦といえば、小早川秀秋が西軍(石田三成方)から東軍(徳川家康方)に寝返り、しかも毛利秀元も戦を傍観したことが大きな要因となって、徳川家康は勝利を収めることになります。
このとき、小早川家や毛利本家に対して、寝返り工作を行なったのが黒田長政だったのです。この逸話をご解説された後、山内先生はこうおっしゃいます。
《「運」は黙っていて来るものではない。良いめぐり合わせが必要です。そして、そのめぐり合わせは、ある程度までは努力で引き寄せられるものであるということです》
これがまさに、「人事を尽くして天命を待つ」ことの象徴的事例ということでしょう。
山内先生は「運で全て決まってしまう」という見方は受け入れられないとおっしゃいます。イスラム帝国のアッバース朝で不良少年から宰相に上り詰めたアブー・アッサクルや、明治維新の鳥羽伏見の戦いで乾坤一擲にかけた西郷隆盛と大久保利通の例、さらにパレスチナ問題を「運命だからやむをえない」と考えていいのかという例を挙げながら、山内先生はこのようにおっしゃいます。
《歴史を運だけで論じたら、非常に単純な議論の仕方になる》
《自分に良い運を引っ張ってくるためには、日常から節制や正義、あるいは勇気といったものを心がける必要がある》
《一歩飛び出す勇気は、実際には知恵から生まれる。この知恵は、日常における常識や良識、日常におけるある種の不文律、日常におけるたしなみなどの「ものの判断のある種の集合体」である。これが、教養や知恵ということになっていく》
この違いを山内先生は、ゴルフ場で風に舞う塵芥(じんかい)と、自分で打つボールとの違いで説明されます。強風でボールがうまく飛ばず、スコアを落としてしまうこともある。それはたしかに運なのだけれども、ゴルフのボールは努力や技や知恵を使いつつ打っている。それは、すべて風まかせの塵芥とは大いに違う。むしろ風を味方につけられるような思慮や知恵を磨いておかないとダメなのだ。
まことにおっしゃるとおりでしょう。
さらに山内先生は、次々と例を挙げていきます。
◆儒学者の室鳩巣(5代将軍・徳川綱吉から8代将軍・徳川吉宗にかけて活躍)は、「武運を稽古(けいこ)しろ」といった。では武運をどうやって稽古するのか。室鳩巣は「運は天から出てくる。だとすれば、天の心を叶えるために、天の好むことをやろうではないか」と述べた。天は「仁」を好み、「不仁」を憎む。だから「仁」(人を大事に思い、慈しむこと)を心がければ、武運が高まる可能性が高まる。
◆運と知のどちらが勝っているのか。西洋史で最も運に恵まれていた人物はアレクサンドロス大王であろうが、実は彼は、知性や節度というものを後天的に持つことができた人間の代表例であった。ただ勇気や武運があっただけではなく、知性や教養があってこそ運が引っ張られてきた事例だ。
どのようなことかは、それぞれ講義本編をご参照ください。
さまざまな歴史の事例を通じて、「運をよくする」ことの本質について深く考えることができる講義です。ぜひご覧ください。
(※アドレス再掲)
◆山内昌之:運と歴史~人は運で決まるか(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5331&referer=push_mm_rcm2
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編集部#tanka
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