編集長が語る!講義の見どころ
「アメリカの今とこれから」を深く理解するために(テンミニッツTVメルマガ)
2020/11/03
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。
いよいよアメリカ大統領選挙となりました。この機会だからこそ、「アメリカは今、どうなっているのか。これからどうなるのか」について、基礎的なところからきちんと理解を深めておきたいものです。
本日は、そのことがよくわかる2つの講義シリーズを紹介いたします。吉田正紀先生(日本戦略研究フォーラム政策提言委員/米国支部長)と、曽根泰教先生(テンミニッツTV副座長/慶應義塾大学名誉教授)の講義です。
まず、吉田先生の講義は下記となります。
◆吉田正紀:米国の対中政策~戦略の現状と課題(全6話)
(1)トランプ政権の政治構造の変遷
“トランプ党”が強固になった中間選挙後の政治構造に注目
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3701&referer=push_mm_rcm1
吉田先生は、防衛大学校を卒業され(23期)、海上自衛隊の海将として佐世保地方総監までお務めになったあと、日本のアメリカ情報と人脈ネットワークがきわめて薄くなりつつある状況を憂えられ、アメリカにわたって活動されている志ある方です。
つぶさにアメリカの状況を見てこられた吉田先生の目に、アメリカの対中政策・戦略の推移はどのように映っているのでしょうか。
まず吉田先生は、第1期のトランプ政権を第1幕~第4幕にわけて解説されます。この間、トランプ政権内部はかなり人事模様が変わっています。それぞれの局面で政策(とりわけ安全保障政策)はどのように変わったのか、ぜひ講義をご覧いただければと思います。
よく知られているように、トランプ政権は、2017年12月に発表された「国家安全保障戦略」のなかで、「中国・ロシアは米国の力、影響力、国益に挑戦し、安全と平和を阻害している。また経済についても、より不自由で不公正にして軍事力を増強し、情報とデータを統制し、社会を抑圧し、影響力を拡大している」と明記し、これらの国々をステイクホルダーとして扱ってきた過去20年間の政策は間違っていたと明確に言い切りました。
この考え方は、どのような視点に立脚したものなのか。吉田先生は、次の3つを提示されます。
《大国間の競争には、政治、外交、軍事力を中心とした伝統的なパワーの優劣を競う「地政学(Geo-Politics)」のみならず、経済、通商、金融システムの優劣を競う「地経学(Geo-Economics)」や、さらにはビッグデジタルデータ、AI、ロボット技術といった将来の富と力を創出する先端技術分野での優劣を競う「地技学(Geo-Science and Technology)」という3つのアプローチを相互に関連づけなければなりません》
そして、それぞれの視点について詳しく解説されたうえで、吉田先生は今後のアメリカが取る路線の可能性として、CSIS(米戦略国際問題研究所)の研究者が書いた4つの路線分析を紹介くださいます。穏健なものから強硬なものへと並べると、「宥和(Accommodation)」「集団的対抗(Collective Balancing)」「包括的圧力(Comprehensive Pressure)」「体制変更(Regime Change)」という順番になります。
「宥和(ゆうわ)」は、中国は理性的でリスク回避的だという前提に立って、中国が強大化する前に取引することは可能だとする考え方。一方、対極にある「体制変更」は、手遅れになる前に共産党を打倒しようという考え方です。
その両者の中間に位置するもののうち、より穏健なのが「集団的対抗」で、対中連合で中国は抑止可能であり、それによって中国を穏健化させようとする考え方。より強硬なのが「包括的圧力」で、中国の強大化に地域諸国はなびくので、中国が世界秩序を変更する前に包括的な圧力をかけて中国を弱体化させるべきだという考え方です。
このうち「宥和」は、もはや大統領が民主党になろうがトランプ政権が続こうが、まずないであろうと、吉田先生は分析されます。むしろコロナ後の情勢では、米中は「相手より優位を取る」という競争から、今や「相手を排除する」もしくは「叩きのめす」闘争へと、質的に変容するおそれがあるというのです。
さらに吉田先生は、米中の「HUMINT(Human intelligence: 人間を媒介とした諜報)」が完全に劣化しているのが気になる、と重要な指摘をされます。米ソの冷戦の時でさえ、CIA(米国中央情報局)とKGB(ソ連時代の国家保安委員会)がお互いに本当は何を考えているか把握していた。しかし、米中は相互に強硬な摘発を繰り返して、ネットワークが完全に壊れてしまっており、一方、サイバー空間での情報戦が激化している……。これは確かに、大いに気がかりな状況です。
米中を見る視点がグッと深まる講義です。ぜひご覧ください。
もう1つの曽根泰教先生の講義は、次のものです。
◆曽根泰教:日本人が知らないアメリカ政治のしくみ(全5話)
(1)アメリカの大統領権限
権限の少ないアメリカ大統領は政治をどう動かしているのか
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3644&referer=push_mm_rcm3
とかく外国の政治状況については、ついつい「日本政治の常識」に引きずられて、誤解混じりに理解しがちです。曽根先生は、アメリカ政治の基本的な構図を紹介しつつ、それが実際にどのように機能しているのかを分析してくださいます。
たとえば、「実は日本の首相より権限が少ないアメリカ大統領は、政治にいかに動かしているのか」「アメリカ政治は、実際にはどのように決められていくのか」などといった点について、日本人はどれほど正確に理解できているでしょうか。
アメリカ政治の変動期に、その基本構図をきちんと抑えておくことは、きわめて重要なことです。その意味で、曽根先生の本講義はまさに必見です。
(※アドレス再掲)
◆吉田正紀:米国の対中政策~戦略の現状と課題(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3701&referer=push_mm_rcm2
◆曽根泰教:日本人が知らないアメリカ政治のしくみ(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3644&referer=push_mm_rcm4
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☆今週のひと言メッセージ
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「一切唯心造」
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=1770&referer=push_mm_hitokoto
リスクを取らないことがリスクになる時代
小林りん(ユナイテッド・ワールド・カレッジISAKジャパン 代表理事)
以前、座右の銘として、フランスの哲学者アランの「楽観は意志である」という言葉を挙げました。その後、ある方から禅にも同じような言葉があると教えてもらいました。「一切唯心造」といって、一切のことはただ心が造っている、という意味です。
50パーセントの仕事がなくなってしまうかもしれないということを、なんとミゼラブルな(悲惨な)時代だと思うのか、50パーセントも新しいチャンスがある、ぞくぞくするなと思うかは自分の心次第です。1つや2つ失敗しても、100の選択肢が98に絞られたと思うのか、2回も失敗してしまったと思うかは、その人の心次第なわけです。
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今週の人気講義
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「幸福」について語り合う「哲学カフェ」を再現
津崎良典(筑波大学人文社会系准教授)
五十嵐沙千子(筑波大学人文社会系准教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3511&referer=push_mm_rank
岡倉天心とはどういう人物だったのか?
大久保喬樹(東京女子大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=2216&referer=push_mm_rank
日清戦争後の三国干渉以来、日本に難しい選択を迫る米中対立
中西輝政(京都大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3642&referer=push_mm_rank
李登輝著『台湾の主張』の大ヒットが日本のマスコミを変えた
江口克彦(株式会社江口オフィス代表取締役社長)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3715&referer=push_mm_rank
小林秀雄、根本博、土肥原賢二、清水安三、遠藤三郎との交友
小澤俊夫(小澤昔ばなし研究所所長/筑波大学名誉教授)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=3612&referer=push_mm_rank
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編集後記
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編集部の加藤です。11月に入って最初のメルマガ、いかがでしたか。
さて、11月1日より11月特集が始まりました。今回の特集は『意外と知らない「世界史」の教訓』ということで、古代ギリシャから近現代のインドまで、テンミニッツTV の「世界史」関連講義のなかから厳選して10講義でお届けしています。
◆11月特集:意外と知らない「世界史」の教訓
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=103&referer=push_mm_edt
なかでも今回ご紹介したいのは、山内昌之先生(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所特任教授)のシリーズ講義「『歴史とは何か』を語る」です。特集ではその1話目を取り上げていますが、最初にとても鋭い問いが出てきます。
「パパ、だから歴史は何の役に立つのか説明してちょうだい」
これは、フランスの社会経済史の専門家マルク・ブロックが自分の子どもから受けた問いだそうです。山内先生は自身、同じような問いについて子どもの時に何度か考えたことがあり、素朴だけれど実に真剣味を帯びた問いだと言っています。
では、歴史とは何なのでしょうか。歴史学を学ぶことに何の意味があるのでしょうか。この問題についてシリーズ全12話でじっくりと、そして多角的に解説が進められていきます。非常に興味深いお話ばかりですので、ぜひシリーズを通してご視聴ください。
◆山内昌之『歴史とは何か』を語る(全12話)
(1)歴史学とは何か
歴史学を学ぶことに何の意味があるのか?
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=424&referer=push_mm_edt
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