編集長が語る!講義の見どころ
人の資本主義~これからの資本主義の姿とは?/中島隆博先生【テンミニッツTV】

2024/09/17

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。

本日は、中島隆博先生の「人の資本主義~モノ、コトの次は何か?」講義をご紹介します。

実は、テンミニッツTVでは、以前から中島先生の「人の資本主義」講義を配信しておりました。しかし、中島先生のご希望もいただき、改訂版というかたちで、あらためて新講義収録をいたしましたものです

常に知をバージョンアップさせていくお姿、とても感銘を受けます。

この講義の主題は、「これからの資本主義の姿」です。いまの資本主義が多くの問題を抱えていることは、あらためて指摘するまでもないでしょう。中島先生は、それを「人」のあり方を軸に見直していくべきだとおっしゃるのです。

さて、それはどのような姿なのでしょうか?

思索が深まりゆき、噛めば噛むほど、見直せば見直すほど多くの気づきがでてくる名講義です。

◆中島隆博:人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(全6話)
(1)「人の資本主義」とは何か
人の資本主義とは――新しい人間像と現代資本主義への警鐘
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5433&referer=push_mm_rcm1

まず中島先生は、重要な定義として、人間をこれまでの"human being"(人間存在)としてではなく、“human co-becoming”としてとらえるべきことを主張されます。

“co-”というのは「誰かと一緒に」という意味。つまり、「誰かと一緒に、人間的になっていく」プロセスとして人間をとらえようという考え方です。

「人間的になっていく」とは、どういうことか。中島先生は、こうおっしゃいます。

《私自身は、人間というのは他の動物とは違って、生まれたときから非常に弱くて未完成なものだと思っています。それを見据えた上で他者とともに人間的になっていくプロセスをきちんとたどること。これが人間にとっては非常に重要なのではないのか。それは、まるで花が咲くようなプロセスだろうと思います。つまり、花がちゃんと咲くためには適切な時期に適切な支えがどうしても必要です。人間は一人で人間的にはなれない。花だって、ちゃんと手入れしないと、ちゃんと花が咲かないように》

しかし一方、いま資本主義には、様々な無理も現われています。中島先生は、資本主義について次のように喝破します。

《私たちはどうしても「できる」ことを拡大して、それを延長しようとしがちです。「あれもできます、これもできます」と(いう具合に)。
 ですが、資本主義が助長していくのはまさにこの「できる」という部分だろうと思います。それによって私たちの欲望はいったんは満たされるかもしれません。しかし、できるということには当然限りがありませんので、再び次の「できる」に向かって進んでいくよりないのだろうと思います》

まさにご指摘のとおりでしょう。

その「できる」に代えて「望む」ということを考えてみたい。そう中島先生はおっしゃいます。そして、「『わたしたちはいかなる社会を望むのか』という問いを問うことによって社会的想像力を鍛え、資本主義を少しはよい方向に飼い慣らしていくことを目指したい」のだというのです。

では、資本主義にはどのようにして賢くなってもらえばいいか。

中島先生は、資本主義の「さまざまな概念」をアップデートしなければならないとおっしゃいます。

これまで資本主義では、たとえば「欲望」「利己心」「資本」「時間」「貨幣」「利潤」「利子」「価値」「差異」などの概念が語られてきました。

これらの言葉が本当に役立っているのかアップデートするとともに、新しい概念や新しい言葉を生み出していく必要がある。そう中島先生は語ります。

その一例として挙げられるのが「共生」です。中島先生はこの「共生」について、浄土宗の法然や、大正11年に「共生(ともいき)運動」を起こした浄土宗増上寺の法主・椎尾弁匡(しいおべんきょう)などを例に語っていいます。この視野の広さと深さに大いに啓発されます(第4話)。

そのように思索を深めたうえで、再び中島先生は“human co-becoming”(誰かと一緒に、人間的になっていく)としての「人」を前提とした「人の資本主義」のあり方について検討していくのです。

資本主義は、「モノの資本主義」から「コトの資本主義」へと向かっていきました。

「モノの資本主義」とは、モノを生産し、流通させて、所有していく姿。モノを所有することに価値があるという考え方です。

一方、「コトの資本主義」とは、差異をつくり出し、差異を消費する姿。差異がなければ差異があるように見せかけ、あるいはそれを「経験する出来事自体」が差異として消費されるあり方です。わかりやすい例でいえば、「陶芸体験」とか「そば打ち体験」などを組み込んだ旅行などはそれに当たるでしょう。

では、「ヒトの資本主義」とはどのようなものか。

中島先生は、「誰かと出会ったり、一緒に学んだりすることによって、自分自身の人間性が花開いていくような方向に変容していくこと」を支える資本主義だといいます。

中島先生が例に出すのは、唐の時代の若い禅僧たちです。彼らは、あちこち旅をして禅僧の扉を叩くわけです。旅をして、そして様々な師と出会って、それを通して悟りというまったく新しい経験をしていく。そのようなあり方が、“Human Co-becoming”の一つの具体的な姿だと。

さらに中島先生は、ドイツの哲学者・マルクス・ガブリエルが語る「倫理的資本主義」を紹介し、アダム・スミスや渋沢栄一、二宮尊徳、三島中洲らに言及していきますが、それについては第6話をご参照ください。

資本主義のあり方について、中島先生の思索を追いながら、自分自身も多くのことを考えることができる講義です。ぜひご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆中島隆博:人の資本主義~モノ、コトの次は何か?(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5433&referer=push_mm_rcm2


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