編集長が語る!講義の見どころ
ネット社会で大切な「人間にとっての教養」を考えよう/橋爪大三郎先生【テンミニッツTV】

2024/11/05

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。

あらためまして、いつもテンミニッツTVをご愛用いただき、心より御礼申しあげます。皆さまは、どのような想いで、テンミニッツTVをご試聴くださっているでしょうか。様々なことを深く学びたい。大人の学び直しをしたい。人間として大切な教養を身につけたい……。そのようにお考えの皆さまも多いと思います。

本日は、まさにその部分に真っ正面から向き合った講義を紹介します。「人間にとって教養とはなにか」について橋爪大三郎先生(社会学者/東京工業大学名誉教授/大学院大学至善館教授)にお話しいただいた講義です。

橋爪先生の講義は、いつものように快刀乱麻を断つがごとし。ネット・SNS社会における教養のあり方を、とても整理して考えることができるようになります。

◆橋爪大三郎:今こそ問うべき「人間にとっての教養」(全7話)
(1)なぜ本を読むことが教養なのか
『人間にとって教養とはなにか』に学ぶ教養と本の関係
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4001&referer=push_mm_rcm1

まず橋爪先生は、教養がある人とない人の違いを、保育園の例でご教示くださいます。

実は橋爪先生のご自宅の裏側には保育園があるそうですが、園児たちの楽しいおしゃべりも、大人から見れば「狭い世界」です。なぜか。それは多くの園児たちが遊びのことや食べ物など、目の前のことばかりを話しているからです。

もちろん、保育園児は子供だからそれでいいのですが、「教養のない人たちの世界」は、この保育園の事例と同様に、教養ある人からすれば、とても「狭く」見えてしまいます。なぜか。それは教養ある人たちが広い世界を知っているからです。

では、「教養」としてどこまで広い世界を知る必要があるのか。橋爪先生は、「教養とは、これまで人間が考えてきたことの全て」だとおっしゃいます。これについて橋爪先生は次のようにおっしゃいます。

《問題がもう目に見えていて、ここにある場合は、それに対処するための方法を学べばいいだけです。これは教養とはいいません。例えば、料理ができるようになりたい人が料理を作りたいのであれば、料理の本を買ってきて、それを読めばいいだけです。
 だけど、どのような問題にこれから直面するかが自分でもよく分かっていない場合、あるいは、問題に直面してから勉強したのでは間に合わない場合があります。
 重要なのは、そんな出来事になる前に、どれだけの本を読んで、自分で考えて、心の準備をしていたかということです。これが教養です》

まことに橋爪先生のご指摘のとおりです。問題をうまく解決するためには、自分自身の「狭い」考えと努力だけではダメで、過去の人たちがどのようにして似た問題を乗り越え、解決したのかを知っておく必要があるのです。

しかし、「これまで人間が考えてきたことの全て」など、どうやって学べばいいのでしょうか。ここで橋爪先生は「本」の効用を指摘されます。そして、インターネットにおいても「本」的な要素が重要だとおっしゃるのです。

なぜ「本」か。それは、「これは大事なことだから忘れられてしまわないように、字で書きましょう」と思って残されてきたものが「本」だからです。しかも、編集者という第三者がフィルターとなって、情報の取捨選択や、誤情報の排除などが行なわれているべきものです。加えて、古典やロングセラーは、長い歴史のあいだに多くの読者から「この本は残すべき価値のあるものだ」と思われ続けてきたものです。

一方、インターネットの情報はどうか。SNSなどでは、そのようなフィルターがありません。また、読む人が好きそうな情報ばかりがピックアップされ、おすすめされる仕組みもあります。加えて、本の場合は、著者が様々な資料や経験を集め、学び、それを煮詰めて本にしていきますが、多くの場合、SNSはそうではありません。橋爪先生は、次のように指摘されます。

《スマホのメッセージは、誰でも読んで、誰でも書きます。だから読む人と書く人は、ほぼ人数が同じです。次に、読む時間と書く時間もほぼ同じです。だから情報がエネルギーを圧縮していませんし、クオリティが保証されません。これらが瞬時に同時代の中を駆け巡っています。実はこれは、保育園と同じです》

ネットやSNSの情報は「クオリティが保証されない」というのも、橋爪先生のご指摘のとおりでしょう。

保育園の場合は、園児たちのあいだで間違えた情報が蔓延しそうになったときには、保育士の方々が「これは間違いです」と指摘するからバランスが取れる。しかし、SNSには保育園の保育士に当たる人がいません。「そうすると、奇妙な噂や間違った噂は、たちまち保育園に充満してしまいます。というわけで教養とネットは水と油の関係にあるのです」。この橋爪先生の喝破は、まことに核心を衝いたものではないでしょうか。

では、ネットの世界はいかにあるべきか。橋爪先生が思い描くのは、「本とネットの共存」です。しっかりとした編集部がある。しっかりとした本を書ける力がある有識者がフェイス・トゥ・フェイスで語る。そうすることによって、むしろ「テキスト以上の情報」を容易に想像して味わうこともできるようになる……。このご展望は、とても重要なものといえましょう。

加えて橋爪先生は、「将棋のプロとアマの違い」「AIに本は書けるか」などの視点から、教養の本質をひもといてくださいます。ネット社会における教養のあるべき姿はいかなるものか? それを知るために、ぜひ本講義をご覧ください。


(※アドレス再掲)
◆橋爪大三郎:今こそ問うべき「人間にとっての教養」(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=4001&referer=push_mm_rcm2


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