編集長が語る!講義の見どころ
いま「デモクラシーの危機」を考える/特集&齋藤純一先生【テンミニッツTV】
2025/04/18
いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上達史です。
いま、世界各国で「デモクラシーの危機」が高まっているように思われてなりません。
相互関税をはじめ、これまでの常識を覆すような政策を次々と打ち出す第2次トランプ政権の姿を、その象徴的なものとして捉える方も多いかもしれません。そればかりでなく世界各国を見ても、「安定」とは程遠い状況にある例が多いようにも思われます。中国の動向も、「民主主義」の前途に大きな懸念を投げかけます。
この問題は、けっして他人事ではありません。日本においても、政治のあり方や展望を考えると暗澹(あんたん)としてしまうような姿が続いています。
なぜ、このようなことが起きてしまうのか。その本質はどこにあるのか。
本日は、そのことについて深く考えることができる講義を集めた特集を紹介いたします。
■特集:いま「デモクラシーの危機」を考える
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=234&referer=push_mm_feat
齋藤純一:デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
橋爪大三郎:なぜ民主主義が「最善」か…法の支配とキリスト教的背景
橋爪大三郎:深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
柿埜真吾:100分de名著!?『ショック・ドクトリン』驚愕の印象操作
中西輝政:冷戦終焉から30年、激変する世界の行方を追う
川出良枝:モンテスキューとルソー…二人の思想家の共通の敵とは?
日野愛郎×島田光喜先:世襲、官僚、叩き上げ…3つの国会議員の是非を議論する
■講義のみどころ:デモクラシーの危機について「哲学的」に考える(齋藤純一先生)
本日、特集からピックアップするのは、齋藤純一先生(早稲田大学政治経済学術院政治経済学部教授)に、カントやアーレントなどが探究した「公共哲学」の見地から「デモクラシーの危機」について迫っていただいた講義です。
哲学からのアプローチは、一見、迂遠(うえん)なように見えますが、驚くほど深く危機の本質を考えることができます。
◆齋藤純一:危機のデモクラシー…公共哲学から考える(全6話)
(1)ポピュリズムの台頭と社会の分断化
デモクラシーは大丈夫か…ポピュリズムの「反多元性」問題
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5742&referer=push_mm_rcm1
講義の冒頭で齋藤先生は、「このところ、デモクラシーは大丈夫なのかという危惧がかなり深くなり、広まってきています」とおっしゃいます。まさにご指摘のとおりでしょう。
そして、その危機の一つの姿として、「ポピュリズムと呼ばれる動き」を挙げます。
ポピュリズムの特徴として、齋藤先生は、
●排外主義(ショーヴィニズム=熱狂的で排他的な愛国主義)
●反エリート主義
●立憲主義(憲法)を軽視し、自分の都合のいいように基本的な制度を変えていく
●議会をバイパスして、国民と直につながっていこうとする。
などを列挙されますが、とりわけ重視視すべきは「反多元的」であることだとおっしゃいます。
この「反多元的」とは、プリンストン大学のヤン=ヴェルナー・ミュラー教授が強調したことだといいますが、象徴的には、「自分たちだけが真に人民を排他的に代表することができるのだ。相手の勢力の主張はフェイクだ」などというスタイルのことです。
たしかに、アメリカでも、そして日本でも、LGBTや多様性や人種差別などについて「ポリティカル・コレクトネス」(「文化マルクス主義」とも)が強調され、「コンプライアンス」が重視されてきた流れのなかで、その支持派と反対派とで極端な断絶、分断が起きています。
このように「先鋭的な社会分断」が進んでいくと、議論によって意思決定していくような民主主義のあり方は、どんどん難しくなっていきます。
そんななかで「ありのままの民意」を反映していいのか。そこも大きな論点になります。
「私たちが思っている以上に、人々の政治的なリテラシーは低いのではないか」「中長期的な課題は、選挙民にアピールしないのではないか」というような懸念から、「エピストクラシー(epistocracy)=知者による支配」というような考え方も出てきます。ある意味では、プラトンの「哲人王」の思想にも通じる考え方です。
(納富信留先生《プラトン『ポリテイア(国家)』を読む》講義参照)
しかし、そうはいっても、やはり「多元的な知」を協働させて活用していくべきではないか。「デモクラシー」と「専門知に対する敬譲(deference)」を同時に追求する「ハイブリッド・レジーム」が必要なのではないか。
その見地から齋藤先生は、イマヌエル・カント(1724年~ 1804年)やハンナ・アーレント(1906年~ 1975年)など哲学者たちの考え方をひもといていきます。
まず、齋藤先生が今回の講義で挙げる「カントの論点」は以下のようなものです。
●「自分で考えるためには他者とともに考えることが必要」
⇒だから、「妨げのない言論の自由」が必要
●「理性は公共的に使用されるべきである」
⇒たとえば税務官は、理性的に粛々と税を徴収しなければいけない。ただ他方において、「その税が妥当かどうか」について批判的な言論を提起することもできる。
●「公開性」の必要性
「統治の秘密(=よらしむべし、知らしむべからず)」への挑戦
⇒「意図的に隠されたところには不正がある」という推定をしていい
●「パターナリズム批判(⇒家父長主義)」
⇒統治エリートが人々の幸福が何であるかを定義するのは正しいか?
続いて、ハンナ・アーレントについては、今回の論点は以下です。
●大衆とは?⇒「他から切り離された人」
⇒それゆえ、強いイデオロギーに魅かれてしまう。
●「複数性(plurality)」というキーワード
⇒単数の人がこの世界に生きているわけではなくて、複数の人々が世界を共有している。
⇒とすれば、誰1人として主権者であることはできない。
●生命と世界を対比
⇒公共性とは単に空間的なものではなくて、時間的な次元を持っている。
●「政治と嘘」
⇒ベトナム戦争の作戦を立てて指揮してきたペンタゴンのエリートたちの「失敗の分析」。
⇒イメージと事実がずれた場合に、事実を隠蔽しているというのはまだまだ救いがある。その事実のほうを否定し、解体していくのが罪深い。
●だからこそ、「多元的な意見の間での闊達なコミュニケーション」が必要
⇒事実そのものがあやふやになれば、意見の交換などは茶番になってしまう。
⇒「これが事実だ」と確定していく努力が必要。
さらに、講義第5話では、多様な人々が共生するためにどのような価値や理性が必要かについて、ジョン・ロールズの思想を。第6話では、政治と経済に公共哲学がどのように橋をかけられるかについて、マルクス・ガブリエルの思想を取りあげながら紹介していきます。
哲学者の考えを追うことで、とても意味深いヒントを得ることができます。詳しくは、ぜひ講義本編をご覧ください。
(※アドレス再掲)
■特集:いま「デモクラシーの危機」を考える
https://10mtv.jp/pc/feature/detail.php?id=234&referer=push_mm_feat
◆齋藤純一:危機のデモクラシー…公共哲学から考える(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5742&referer=push_mm_rcm2
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テンミニッツ・アカデミー編集部