編集長が語る!講義の見どころ
『法華経』はSFだ~なぜ日本人に大きな影響を与えたか/鎌田東二先生【テンミニッツTV】

2025/05/13

いつもありがとうございます。テンミニッツTV編集長の川上です。

本日は、広く神道学や宗教学を総覧して、その本質を自由につかみ取ることについて第一人者でいらっしゃる鎌田東二先生(京都大学名誉教授)の《おもしろき『法華経』の世界》講義を紹介します。

日本では、最澄が開いた天台宗をはじめ、多くの宗派で『法華経』が重要な経典として重んじられてきました。法事などで『法華経』を唱和したことがある方も多いかもしれません。

一方で『法華経』の講義というと、「『法華経』か……う~ん」「なんか難しそうだし……」という声も挙がることでしょう。しかし、この鎌田先生の講義は、そのような方にこそ、ぜひ一度ご覧いただきたい内容です。

これまで配信した講義で、鎌田先生ご自身が明かされていますが、鎌田先生はステージ4のがんを患っていらっしゃいます。そしてすでに脳にも転移してしまってもいます。しかし、そのようななかでも、とても明朗かつ清澄で、とても生き生きした講義をしてくださいました。

その鎌田先生のメッセージとは? 自分自身の人生を考えるうえでも本当に必見の講義です。

◆鎌田東二:おもしろき『法華経』の世界(全10話予定)
(1)法華経はSFだ!
「法華経はSFだ!」というナラティブの神秘的体験
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5764&referer=push_mm_rcm1

鎌田先生の講義がどのようなスタンスで語られたものか。第1話で鎌田先生が次のようにお話しくださいます。

《フィジカルには間違いなく末期がんに近づいているらしいのです。これは気にし始めると、けっこうつらいものです。それなのに、全然つらくないどころかむしろ愉快なのです。「ああ、僕はがんなのだなあ。(がんが)一緒に働いてくれているのだなぁ」と逆に私が活性化している》

《もう自然の状態で、いろいろなものがシャワーを浴びるようにサーッと出てくる。私が目で『法華経』を読むと、向こうからフワーッといろいろなものが見えてくるわけです》

《そういう状況でいろいろなものが見えるので、今、人生で一番冴えている。読書ができる。これまでは何を読んでも知識でした。知識というのは理性的なメカニズムで、いわば数学のようなものなのです。だから、どういうふうに辻褄(つじつま)を合わせると成立するのかが理性的に解釈できるでしょう。(今は)そういう理性的な理解のしかたを超えてしまっている》

《一挙に映像として世界のビジョンを見せられるような。絵巻のように見せられるから、分かりやすいことこの上ない……》

あまりに透徹したお話しに、私もお話をうかがいながら胸打たれて涙が出そうになりましたが、それをこらえつつ、明るく聞き手を務めさせていただきました。

この講義第1話のタイトルにもあるように、鎌田先生は「法華経はSFだ!」と喝破されます。

そこで鎌田先生が提起するのが、スタンリー・キューブリック監督が世に問うた不朽のSF映画『2001年宇宙の旅』です。そのラストシーンのようなスペクタクルなのだといいます。

《(※映画の主人公の)ボーマン船長が、木星の中にグーッと引き込まれていく。レインボーのカラーの中をガーッと色彩が…。ああいうふうに『法華経』が見えてきたわけです》

さらに、こうおっしゃいます。

《現実的には何を予言したかというと、「おまえは将来においてブッダになる」という予言なのです》

さらにたとえば、『法華経』の「従地涌出品(じゅうじ・ゆじゅっぽん )第十五」というパートでは、大地に無数の割れ目ができて、無数の菩薩が湧き出してくる光景が描かれます。これを鎌田先生は「菩薩ビッグバン」だとおっしゃいます。そのようなスペクタクルでSF的なイメージが具体的に次々と展開していくのです。

鎌田先生のご専門は「神道学」です。その鎌田先生が『法華経』に魅かれたのは、なぜなのでしょうか。

よく知られているように、明治以前の日本の宗教は、神道と仏教が融合した「神仏習合」がベースでした。鎌田先生は、実は『法華経』は「神道」と大いに共通しているとおっしゃいます。

鎌田先生にはこれまで、日本や世界の神話の世界を、様々にご紹介いただいてきました。そのなかで、北欧神話は本当に暗い物語で、ある意味では世界滅亡に向かうような深刻で悲観的な世界観が基調になっていることもお話しいただきました(《北欧神話の基本を知る(全2話)》)。

一方、日本神話は、大いに明るい世界観で貫かれています。天も地もきわまりなく続くという「天壌無窮」の考え方や、この世界をメンテナンスしながら次代に未来に受け継いでいこうという「修理固成」の考え方、さらに生きとし生けるものに産霊(ムスヒ)という生命力が宿っているとする考え方……。

そして『法華経』も楽天的で明るいのだと、鎌田先生はおっしゃいます。「もう大丈夫だよ」と言ってくれる。明るい未来や救済の未来を描き出してくれる。さらにいえば、一見、楽天的に見える『法華経』だが、それは大いなる苦悩をふまえて、これだけの救済の世界観を編み出したのだと。

「神道」と『法華経』に大いに共通する部分があるからこそ、『法華経』は日本人に広く受け入れられ、日本の精神史のなかでも重要な位置を占めるようになったということでもありましょう。

では、『法華経』では具体的にどのようなことが語られるのか。それについては、ぜひ講義本編をご覧ください。

鎌田先生のお姿、そして語り方から、「日本人の哲学のあり方」さらに「いかに生きるべきか」が、おのずと見えてくる講義です。


(※アドレス再掲)
◆鎌田東二:おもしろき『法華経』の世界(1)
https://10mtv.jp/pc/content/detail.php?movie_id=5764&referer=push_mm_rcm2


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